105.『考え中』それはイイ逃げ方
はい、203号室の南雲あかりです!
ただいま就活中です。
わたしの“将来の夢”、当時、なんて書いたと思う?
わたしは、『なし』って書いたの。
そして、書き直せって、先生に怒られた。
でも、ないものは、ないじゃない?
周りの女子は、美容師やお花屋さんが多かった。
本当はそんなことでよかったんだと思うの。
でも、みんな現実味のない夢を並べてくだらないと思ってた。
わたしは、『考え中』って書いてみたの。
そしたら先生に許されたのよ。
わたしはイイ逃げ方を覚えて、毎年『考え中』って書いたの。
決まってないけど、常に考えてますよってさ。
でもみんなも思わなかった?
いつからか、“将来の夢”って項目は、自己紹介用紙から姿を消すのよ!
その、将来とやらが近づくにつれて、さりげなく姿を消して、
ある日突然、自分の身の丈に合った仕事をしろと言われる。
夢を見るな、現実を見ろ…
なら、あんな“将来の夢”とか、はじめからいらないじゃない!
だから、わたしはきっと、今でも『考え中』よ。
なんで、本屋で働いてたのか、玉平さんに聞かれたの。
あの本屋が潰れなければ、わたしは今でもあそこで働いてたのかもしれない。
学生の時、喫茶店で本を読むのが好きで…
なんていうか、珈琲一杯で本読んでる自分に、なんとなく酔いしれてるっていうか。
そのぉ、わざわざ喫茶店で本広げる感じ?
それが好きだった。
だからぼんやり、本屋さんに…いたのかな。
「なら、また喫茶店で広げてみるのもいいかもね」
そう玉平さんは言うと、にっこり微笑んだの。
わたしは木更津の街を歩いて、ある場所に辿り着いた。
そこは、喫茶『らずべりー』。
店内に入ると、珈琲一杯で粘って本を読んでいる人の姿が。
それは、わたしが好きな光景でした。
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