
ロウバイの咲く季節に寄せて
私は香りに敏感だ。
身にまとわりつくような邪気や邪念から守ってくれるように、自分を包み込むような心地良い香りは、心身ともに洗われる。
思い悩んでしまう時、脳を使いすぎたから五感にシフトしたくなって、気の向くままに散歩。冬の季節はモノトーンに感じるが、花が咲き始め色を感じることができるとワクワクが止まらない。
独特な甘い香り、可憐な黄色い花のロウバイ。
この花が咲く時期に思いだす。
「これまで多くの人に助けてもらったから、俺も恩返しができる時がきたのかな」
奈落の底に突き落とされたような、私の人生に手を差し伸べてくれた親友の父上。
「大丈夫。いつか笑える時がくるよ。俺も本当にいろんな人に助けてもらってさ」
駅まで送ってもらう時に、口数が少ないお父上様がかけてくれる言葉の重みを感じていた。
学生の時、友人とお酒が好きな父上と一緒になって大笑いしていた。雑談なのだが、なんだろう。めちゃくちゃ楽しかった。笑っていた私は当時、苦笑さえできず本当は笑うこともできなかった気がする。
能面。面の下も能面、その下も能面。まるでマトリョーシカな面。感情をむき出しにすると般若の面になるので、自分を押し殺し、奥のほうに追いやるというか奥底に私を仕舞う。
数か所が連携しているわけではなく、各所に随時連絡をする同時進行。私からすると同じ話を何度となく繰り返す、事情説明をボイスレコーダーが壊れたかのように、何度も同じ説明することは本当に辛い作業だった。
中には嫌味を言う人もいる。
その人も気持ちの持って行き場がないので、私は聞くしかできないから仕方がない。諦めるというよりかは、この事実を明らかにしない限り周囲は理解できないだろうと思ったので、目の前の出来事について対応しなければならなかった。
今、どの辺を走っているのかわからない。
トンネルの出口が見えない状態に、私の精神状態も暗闇に包まれていく。しかし、どうにか光を見出したくて自分で考えて動ける範囲はやろう、心身ともに整えていけるような環境を作り出せるようなことをするも闇に引っ張られる。その繰り返しだった。
人を利用したり、誰かを陥れたり、足を引っ張ったり。
真面目に生きているだけで搾取される。
自己責任論。
因果応報。
相手を支配しやすくするための詭弁だと、私は思う。
自分自身のエネルギーが枯渇していると自分の中に籠ってしまうことから、助けを求めるにはパワーがいる。私なりに最後の力を振り絞って立ち上がったにすぎない。
お父上様は、自然の草花が好きな人だった。
「このロウバイを見ると、心が温かくなるんだよね」
話している中で視界に入ったロウバイが、心ともった小さな灯に見える。
『あなたの灯りはまだ消えていないし、生きている限り消えることはない』と言われているように思えて、胸がいっぱいになった。
今日も花を愛でて、見上げて行こう。
あの状況から、少しは笑えるようになりました。
お父上様、ありがとうございます。
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