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ワタシは宇宙人 「封印した記憶②」 #40
ある日、他国から3人の使いの男が来た。
それは争いが続いていた北の国の者たちだった。その者たちが預かった伝言では「今こそ国をひとつに結ぼう」ということだ。
わたしはずっと和合を望んで来た為に、その話を喜んで受け入れて、国の人々に説得をした。争いは嫌いだ。国は小さくても良い。ただ皆が幸せに暮らせればそれで良いとずっと考えていた。
ついに国を結ぶ約束の前日だった。その日も、まもなく終わろうと日が沈みかけた頃だった。
突如として奇襲があったと知らされる。
奇襲を仕掛けたのは、なんと北の国だった。わたしはそれを確かめる為に外に出ようとするが、側の者に止められて、外を見ることを許されなかった。
無理に反対を押し切り、わたしは外に飛び出した。火が至る所に上がり、無残な光景が広がっていた。女も子も、若者も老人も、馴染んだ顔の人たちが皆殺しに遭っていた。たくさんたくさん人が死んだ。
みんなわたしの大切な大切な家族だった。
これが、天の言っていた裏切りか。
絶望しかなかった。
大地が揺れるほどの激しい怒りと悲しみがこみ上げると同時に、自分の愚かさを悔やんだ。
わたしが殺してしまった。
わたしの心には闇が忍び寄っていた。そこに焦点を当てれば、たちまちに闇が我が身を飲み込む事も知っていた。逆にこれに辛抱すれば、新しい世が来ることも知っていた。しかし、わたしには背負いきれない現実だった。
結局、わたしはその闇に意識を向けた。
自分の愚かさが許せなかったのだ。その時わたしを守るために追って、側にずっといた者がわたしを抱きしめて、何かを説得していた。
わの命など惜しくない
そう言って手を振り解き、感情に任せて、わたしはいつも身守りで持っていた石の小剣で自分の喉と胸を突いた。それが天への抵抗の全てだった。
「天も人間も信じることなどできない」
そう思うと、目の前に伸びて来た闇の中に身を沈めた。わたしは闇の底に深く深く沈んで行った。
その後、わたしの国はどうなったのか分からない。
どれほど時が経ったであろうか。深い闇の中で、わたしは後悔に襲われていた。
わたしを最後まで助けたいと、命がけで守ってくれた者たちの思いを踏みにじった事、自分を愛して信じて待っている家族がまだ残っていた事、天との約束を破った事、闇に意識を囚われてしまった事に深く深く後悔し悲しんだ。
ごめんなさい。もうわたしは人間に生まれてはいけない…
これが、かつてわたしが人間だった時の記憶だ。
車の中で無防備にその記憶に触れてしまったわたしは、息も吸えない程ひとりで声をあげて泣いていた。
なのに…
わたしは、またこうして生まれ変わって、今ここにいるのだ。
結婚して子どもを産んで母親になることを許され、たくさんの人に囲まれてまた明るい世界に生きることを、こうして許されている。
長い間ずっと心を閉ざしていたわたしが、またそう望んだのかも知れない。
ただ…
理屈ではなく、それでもずっと自分は愛されていたと理解した時に、涙が止まらなかった。泣けて泣けて仕方なかった。
わたしは本当に強情でワガママな人間だ。反抗して暗闇に身を投じている間も、それでもずっと愛されていたのだ。
なぜなら、今、わたしはここにいるからだ。
わたしはずっと閉めていた蓋が開いて、ずっとそこにあった闇に光が当たった気がした。
今度こそ、自分の人生を、この世界を最後まで信じてみよう。