ワタシは宇宙人 「閉じないまぶた」 #31
当時わたしは23歳。気付けばあっという間に2児の母親になっていた。
産みの苦しみから母になる幸せを感じ、また子育てに奮闘しながらも1日1日の子どもの成長に喜びを感じていた。
2002年。この年も、残り指折り数えるほどになった12月。
長男1歳4ヵ月。息子はよちよちと歩き出していて、どんな仕草も愛くるしい。
そして長女3ヵ月。娘はたっぷりミルクを飲んでたっぷり寝る、手のかからない子だった。
そんな日常の中、ふと娘の異変に気づく。
娘の目の動きが少しおかしかった。
頻繁に寄り目をしていたのだ。そして、おもちゃを近づけても目で追うことは無かった。
顔を拭くときも、目を開けたままで反射的に閉じようとしなかった。
次に長男で試すと、指を顔に近づけた瞬間に反射的に目を閉じた。また娘で試すが、やはり閉じる仕草はない。
まだ赤ちゃんだから、ハッキリ見えないのかな…でもそろそろ見えても良いんだけどな…
心の奥底で何となく感じていたあえて考えたくないことに対して、わたしは蓋をしていた。「気のせい」そう静かに言い聞かせている。
そんな矢先、家に叔父が訪ねて来た。
そして、よく笑う娘の顔をみて言った。
この子目が見えてないんじゃないか?一度病院に連れて行ってみたらどうだ?
ドキッとした。
それはあえてしていた蓋を開けられる気持ちだった。
嘘だ…嘘だ…そんなハズはない。機嫌よく笑っている娘に目をやる。
そして娘の眉間に向けて、ゆっくり人差し指を近づけてみる。やはり、反射して目を閉じないのだ。
それでもわたしはまだ心の片隅で「気のせいだった」という結末になることにすがっていた。
そして翌日、総合病院の眼科を訪ねた。
診察が始まり、娘だけが奥の検査室へと連れて行かれる。
検査室のドアが閉まると、わたしの心臓は耳の横にあるようにうるさく響く。
検査室の奥の部屋からは娘の大きな泣き声が聞こえてくる。いつまでも泣き止まない声を聞いても何も出来ずに、まだかまだかとウロウロする。
しばらくして検査室のドアが開いた。看護師さんが「頑張ったね」と言って、抱いていた娘をわたしに預けた。
娘は汗でぐっしょりになっていた。力のある限り全身全力で泣いた事が分かる。なぜなら、顔に湿疹のように細かく内出血のあとが浮き出ていた。
娘はわたしに抱かれるとしばらくして泣くのを辞めた。ヒクッヒクッと大きく横隔膜を動かし喉を鳴らす。
そして直ぐに診察室が開き、中から呼ばれる。
わたしは診察室に入り、先生の前に置かれた椅子に座った。そして、先生はわたしの顔を見ると一言目にこう話した。
お母さん、落ち着いて聞いてほしいのですが。
飲み込めない一言目に、嗚咽を感じた。
そんな事もお構い無しに先生は話を続ける…。