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『天使の涙』~カーウァイ作品を映画館で鑑賞する前に~

この夏、ウォン・カーウァイ監督の作品が映画館で上映されるというビッグニュースを耳にしました。これまでカーウァイ監督の作品について、その魅力を語ってきたファンとしては、やはり劇場で鑑賞したいと思っています。

上映のオフィシャルサイトはこちら↓


Fallen Angels

上映を前に、改めてカーウァイ監督の作品を自宅で鑑賞しています。その一つ、『天使の涙』をご紹介します。

1995年製作の香港映画
原題:堕落天使 Fallen Angels
日本初公開:1996年6月29日

香港の街で男女5人が織りなす群像劇。
本作の前年に公開されたオムニバス映画『恋する惑星』の一部として描かれる予定だったエピソードを、独立させた作品だそうです。

あらすじ
殺し屋(レオン・ライ)、彼に仕事を依頼するエージェントの女性(ミシェル・リー)。仕事に私情を挟まないはずだった二人の関係に変化が生じ、そこに恋を求める金髪の女性(カレン・モク)が絡んできます。一方、口がきけない青年モウ(金城武)は、偶然居合わせた失恋したばかりの女性(チャーリー・ヤン)に恋をしますが……。

視覚で楽しむ

『天使の涙』は、カーウァイ監督自身が語っていますが、魚眼レンズを覗くように、登場人物の顔を極端にアップでワイドに撮影する手法が多用されています。

そう、カーウァイ監督の作品といえば、クリストファー・ドイル(撮影)とのタッグで生み出される映像美が醍醐味! 息をのむ映像の連続で、視覚芸術と言っても過言ではなく、どこを切り取っても絵葉書のように美しく、かっこいい! 

お気に入りのシーンを挙げればきりがないのですが、例えば冒頭のシーン。
レオン・ライとミシェル・リーを前後に配し、斜めから映された構図がすでにかっこいいのですが、色がなんとほぼ白黒。そこにミシェル・リーの指輪とマニキュア、唇、そしてちょっとだけ見える衣装が赤色で目を引きます。後半、同じ場面がヴェールを取るようにカラーで登場するので、その赤がどれだけ鮮やかだったのかということが判り、さらにドキッとさせられます。

また、空の映像もよく出てきます。例えば、夜の香港の上空を見上げる形で撮っているシーン。おそらく早回しになっているのだと思いますが、雲が流れ、古い建物に干された洗濯物が勢いよくはためいています。ネオンに照らされた香港の夜空の映像から、じっとりとした湿度や温度まで伝わってきそうで、触覚まで刺激されるように感じます。


乗り物がかっこいい!

カーウァイ監督の作品には、よく乗り物が効果的に登場します。
この映画でも、車、バス、飛行機、電車が映し出され、全てがかっこいい!

特に私のお気に入りは、レオン・ライが恐ろしい大仕事を終え、険しい顔でバスに乗り込むシーンです。追っ手が来ないか気にしているであろう、緊迫感をまとっているレオン・ライと、平和な日常空間のバス。そのとき、偶然乗り合わせた小学校の同級生に声を掛けられ、レオン・ライはドキッとした表情を見せますが、その同級生がとてもおしゃべりで、コミカルに大声で捲くし立てるので、徐々にレオン・ライも苦笑いをしながら緊張感がほぐれていく様子が手に取るように伝わってきます。

もしレオン・ライが、自動車で1人だったら全く違う空気感になっていたと思いますが、この映画では、殺し屋の人間的な部分、心の動きが重要になってくるので、ハードボイルドの要素が強いシーンをずっと引きずらず、むしろバスという日常の乗り物の中で語られる、レオン・ライの心の声(独り言のようにナレーションが入ります)に観る側も共感していく。そんなカーウァイ監督の登場人物の描き方の上手さに感服します。


音楽、環境音もカッコイイ!

『欲望の翼』~カーウァイ作品を音楽で観る~にも書いていますが、カーウァイ監督は、音楽ありきで映画撮っているのかな? と思うほど、音楽が印象的で、全て好きになってしまいます。ということで、サウンドトラックを買ってしまいました♪ ↓

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印象に残っている音楽を1つご紹介します。

劇中で何度も耳にする、ミシェル・リーとレオン・ライ2人のテーマ音楽のようなBGM。
前述した、白黒の冒頭シーンの直後に映し出されるタイトルのバックでも流れます。映画序盤で足音や電車の音、パトカーか何かの緊急車両の音が聞こえ、徐々にそれらとシンクロするようにリズム音が聞こえてきてメロディーになっていくクールさ。これだけで、「いい映画観たな!」と思ってしまうほどです。

また、熱く語ってしまい長くなってしまいましたが、最後に、

金城武が、お父さんを撮影した映像を何度も繰り返して観るシーン、泣けますよ……。

お薦めの映画です!

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