熊本にいるよ!?
いつの日だったか、独身時代、急にふらっと故郷熊本に帰りたくなったことがありました。週末を利用して、こっそり実家に帰って両親をびっくりさせようかな。思い立ったら、会いたい人たちの顔がいろいろ思い浮かび、よし帰ろう! 航空券を予約しました。
お世話になった先生に
空港に降り立ち、実家がある大津町とは方向が違う、熊本市内へ。バスで移動し、事前に連絡しておいた恩師に会いに行きました。
私「サプライズで帰省したんです」
先生「それはご両親びっくり、喜ばれるね」
そう、両親はさぞびっくりするだろう、楽しみ(笑)と熊本市内から地元大津町に向かうバスに揺られ、バスを降り立った時にはとっぷりと日が暮れていました。
暗い夜道、忍び足で田舎の住宅街を歩き、実家の近くに着いたとき、隣の家の番犬が
ワンワンワン!!!!
激しく吠えました。
たまたま、家の外で洗濯物を取り込んでいた父が、隣の犬の声で、誰かが来たのか、と気づき、家の前にいた私と目が合ってしまい、間抜けな再会になってしまいました(笑)。ともあれ、両親とも急な帰省にもかかわらずとても喜んでくれ、やっぱり帰る故郷があるのはいいなぁと、家に上がりました。
熊本ってどこ?!
久しぶりに母の手料理を食べながら
「びっくりしたでしょう? 明日はもう東京に帰るから空港まで送ってね」
と話すと、両親はちょっと困ったような顔を。なんと、翌日両親は朝からバス旅行に出かける予定とのことでした。
はて、空港までどうやって行こう。結果、祖母と一緒に住む伯父さんに送ってもらおう! ということになりました。伯父さんに朝早く迎えに来てもらい、母の実家で祖母たちと団らんし、その後空港まで送ってもらう、というプランです。
早速私は祖母に電話をかけ、
私「ばあちゃん、今、熊本にいるよ」
祖母「熊本?!」
サプライズで帰省したこと、明日は両親が留守をするから伯父さんに空港まで送ってほしいことなどを説明しました。電話を切り、私は用件が伝わったと思ったのですが、嫌な予感を察知したのか、母が再度祖母に電話をしました。
母「明日は、よろしくね」
祖母「……」(何かを隠そうとしている様子)
母「今、うちに優一がいるから、明日迎えよろしくね!」
祖母「あ、優一は今そこにいるの?」
どうやら祖母は、私が「熊本にいる」と話したことを「熊本市内にいる」と勘違いしたようでした。阿蘇地方に住む祖母にとって、「熊本」は「熊本市」を意味していたようです。
そこから、祖母の妄想は膨らみ、頭の中には大変なストーリーが出来上がってしまっていました。
祖母の妄想は
優一は、帰省したときにはいつも両親が空港まで送っているのに、今回はなぜ? もしかしたら、何らかの理由で熊本に帰省したのに、両親に言えず、実家に帰ることもできず熊本市内に滞在し、翌日東京に帰るのでは。その前に祖母の顔を見に来る、または何やら相談をしに来るのでは……そういえば、電話口からは女性の声も聞こえていた。まさか!! 女性問題!? という壮大なもの(笑)。
それを聞いた母は、
母「もう! そんなわけないでしょう! 優一は今ここにいるよ」
祖母「でも電話口から女性の声も聞こえた」
母「私よ!」
翌日、祖母と一連の珍騒動(?) を笑いながら話し、その日の午後、無事帰路につきました。
なんだかんだ皆にも会えたし、楽しい帰省でしたが、「熊本」の言葉1つでこんなにも変な方向に話が進んでいくものなのか、もう黙って帰省することはやめよう、と思いながら飛行機に乗ったのでした。