新しい歌との出会い~ラテン語の新たな発見~
突然ですが、とあるコンサートでラテン語の歌を歌うことになりました。
以前『「Stabat Mater」を歌った日』でペルゴレージの「スタバト・マーテル」にまつわる話を書きました。これはラテン語で書かれている宗教曲です。スタバト・マーテル以外にもラテン語の曲を歌ったことがありますが、今回はこれまでに歌ったことのないラテン語の歌に挑戦することになりました。
コンサートが終わりましたら詳細をまた書きたいと思いますが、本番前の声楽家奮闘記としてお読みください。
語学の勉強は必須なわけ
私たち声楽家はいろんな言語で歌うため、語学は必須です。私は学生時代から語学が好きで、特にイタリア語、英語の歌は好んでコンサートでも取り上げます。何年か前に、1つのコンサートで7か国語(イタリア語、ドイツ語、フランス語、ラテン語、中国語、英語、日本語)で歌ったことがあります。得意不得意がはっきりあり、何度練習しても仲良くなれない曲もありました。
西洋音楽の歴史はキリスト教と深く関わっていますが、カウンターテナー(ここではソプラニスタもカウンターテナーの一部として説明します)はオペラで活躍していたカストラートとは違い、専らキリスト教の宗教曲を歌っていました。私が調べた限り、カウンターテナーのために書かれたオペラは20世紀後半まで無いと思います。今では、かつてカストラートが歌っていたオペラを歌えるカウンターテナーがどんどんと登場していますが、宗教曲は現在でも外せないレパートリーであり、それらの中にはラテン語で書かれているものがたくさんあります。
私もソプラニスタという声種柄、ラテン語で歌うことが度々あったので、今回の曲も楽しみに取り組み始めました。
今まで歌ってきたラテン語の歌は基本的に宗教曲で「アヴェ・マリア」など同じ祈祷文(歌詞)にいろんな作曲家が曲をつけているものも多く、新しい曲に出会ってもおおよそ歌詞が決まっていたため応用で歌うことができました。ところが、今回は初めて出会う歌詞。決まった歌詞以外のラテン語で歌うのは初めてかもしれない、と思いながら「ラテン語」ということで、なぜか背筋がシャキッとするのは、職業病でしょうか。
さて新しい曲練習スタート!
イタリア語はラテン語から派生したそうですので、似ているところがたくさんあります。例えば、イタリア語で<母親>は「madre」ですが、ラテン語では「mater」といいます。
ざっと歌詞を読み流してみると、イタリア語から想像がつく単語がちらほら。いざ詳しく勉強し始め、ある程度進んだところで、どうしてもわからない箇所が出てきました。
しばらくひとり悩んでいましたが、ふと、ミラノで歌のレッスンに通っていた時、先生がラテン語の歌をとても丁寧にご指導くださったことを思い出しました。たしかイタリアでは昔授業でラテン語を勉強していたっておっしゃっていたかも!(不確かな情報ですが、今でも選択制で勉強する人がいるとか) と迷わず、私が日本でお世話になっているイタリア語の先生に質問をしてみることにしました。
大学のイタリア語の授業でお世話になって以来、大学を退任されてからもずっとお世話になっているイタリア人の先生、もう20年近いお付き合いになります。質問後、しばらくして返事がきました。なんと、先生のお知り合いのラテン語教師をされているイタリア人に聞いてくださったようで、回答を転送してくださいました。声楽家はステージに立つまでに、このような地味な作業を重ねています。
音源を聴き、歌詞を読み解いていくにつれ、この歌の世界にどんどんと引き込まれていきました。なんていい曲! って何を練習しているのか、ここで書けないのが残念です。
声に出してみると分かる発見
いよいよ声に出して練習してみると、とても興味深い発見がありました。声を出す前に歌詞の朗読や歌うイメージトレーニングをしている段階から、イタリア語を話しているときの頭に近いな、と感じていました。いざ歌ってみると、イタリア語で歌っているかのように、とても気持ちが入るのです。恥ずかしながら勉強不足のため、ドイツ語やフランス語を歌う時にはこの感覚まで到達できないのです……。
宗教曲ではないラテン語の歌ってこんな感じなんだ! と一つ学びが増えたような嬉しさを覚えました。かつてこの言語で会話をしていた人たちがいて、その言語で歌っているんだな、とロマンチックな気持ちにもなってしまいました。これから更に練習を重ね、本番までに体になじませていきたいと思います。
これから自分のレパートリーにしていきたい大好きな1曲です! 何の曲か言えないのが残念ですが(笑)
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