『欲望の翼』~カーウァイ作品を音楽で観る~
ウォン・カーウァイ監督の映画に初めて出会ったのは大学生時代に観た『花様年華』です。今でもベスト3に入るほど好きな映画ですが、その要因の一つが音楽です。
カーウァイ監督は1958年生まれの香港の映画監督で、日本では金城武が出演した『恋する惑星』や、木村拓哉が出演した『2046』が特に有名です。他に『楽園の瑕』『天使の涙』『ブエノスアイレス』など、カーウァイ作品は幾度となく日本でもリバイバル上映されるほど人気です。
時を経て好きになった作品『欲望の翼』
その中でもカーウァイの初期の代表作『欲望の翼』を観直しました。1990年レスリー・チャン主演の映画で、カーウァイ作品の中でも人気が高い名作です。近年日本でもリバイバル上映されていたようなので、詳しくはこちらのオフィシャルサイトをご覧ください。
ちょっとあらすじを……(ネタバレ注意! )
舞台は1960年の香港。プレイボーイ風のヨディ(レスリー・チャン)は女性に声をかけ、恋仲になるも、結婚を切り出されると去っていき、そしてまた別の女性と恋仲に。彼の心には、実の母親を知らないことが影を落としており、このヨディを中心に複数の男女の恋や運命が交差していきます。
『花様年華』で感動した私は、カーウァイ作品を一気に観た時期があり、実はその中で『欲望の翼』は、当時あまり好きになれなかった作品でした。というよりは観ることが辛かった映画で、最後まで観るのに忍耐を要したという方が正直なところかもしれません。主演のレスリー・チャンが自ら命を絶ったというショッキングなニュースから、まだそんなに年月が経っていなかったころだったこともあり、退廃的な雰囲気のヨディと重なってしまいました。それくらい彼の演技、雰囲気がヨディにはまっていたといえるかもしれません。
カーウァイ作品の音楽
その後何度か観賞し、今ではやっぱり名作だと思います。よく集めたな、と感心するほど大スターが勢ぞろい。カーウァイ作品の醍醐味であるクリストファー・ドイル(撮影)の映像美を楽しめることはもちろん、音楽の使い方がうまい! そう音楽がかっこいいのです。
カーウァイ監督は、音楽ありきで映画撮っているのかな? と思うほど、他の作品でもそうなんですが、登場する音楽は軒並み好きになってしまうのです。『欲望の翼』はサウンドトラックが存在しないようなので、私が調べた限りの情報になるのですが、この映画に使用されている音楽のアーティストは主に2人(2グループ?)です。
Xavier Cugat (ザビア・クガート)
カーウァイ作品にはよくラテン系の音楽が流れますが、このザビア・クガートの音楽は『欲望の翼』であちらこちらに散りばめられています。『2046』でも使われていたので、カーウァイはよほど気に入っているのでしょうか。『欲望の翼』、『花様年華』に出演しているレベッカ・パンが監督にザビア・クガートを教えたということを何か本で読んだ記憶があります。ちょっとマニアックな話ですが、レベッカ・パン自身歌手で、彼女の歌も『花様年華』で流れていました。レベッカ・パンがカーウァイにザビア・クガートを教えなかったら、もしかしたら全く違う作品になっていたのかな、はたまた作品自体生まれなかったのかな、と想像してしまうくらい、この映画で重要な役割を果たしていると思います。
Los Indios Tabajaras(ロス・インディオス・タバハラス)
この映画を象徴する、車窓から見える熱帯雨林のバックで流れる曲は、Los Indios Tabajaras(ロス・インディオス・タバハラス)の「Always in My Heart」。穏やかなギターのメロディとあの映像だけで、あぁこの映画観てよかったと思えるほど。
やっぱり、カーウァイ監督は、映画を撮るにあたり、ある程度音楽からインスピレーションを得ているのではないかと私は分析しています。それくらい音楽への愛情が伝わってくるのです。すでにまた観たいな、と思い始めています。