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電影鑑賞記『破・地獄 The Last Dance』(2024)
鑑賞記の前に、去る10月19日海洋中心にて行われたプレ・イベントの様子から。本来11月14日公開予定だったが11月9日に前倒しになったという発表がここでなされたので、バナーにはすでにそれ用の口號「11月9日 那日 見」が出ている。とりあえず写真だけ置いておく。みんな楽しそうで和む写真よ。電影鑑賞記はその下に。
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東京国際映画祭で配布用に作った英皇集團オフィシャルのチラシ。東京で陳茂賢導演、子華神、許冠文、Michelle Wai 衛詩雅に直接サインしてもらったのはいいが、ちょっと浮かれてしまって子華神や許冠文と写真撮ってもらうの忘れたのが痛い。
文哥にサインもらいながらお話した時に「まさか許先生ご本人にこうやってお会いできるなんて思ってもみなかったので光栄です。許冠文先生の映画を観て育ってますから。」と言ったら「Mr. Booだね?」ってニコニコしてくださって。本当に可愛い笑顔だった。
後で導演がレッド・カーペットで「マイケル―!!」と声援が飛んだのに二つの意味で驚いたと話してくれた。一つ目は、彼が Mr. Boo で一世を風靡してからもう随分経つのに、いまだにレッド・カーペットにまで来て声援を飛ばしてくれるファンが日本にはいること。二つ目は、「ボクたちでさえ文哥を呼ぶ時は、許生はちょっと堅苦しいけど大先輩だし大明星だからせめて文哥かなぁぐらいビクビクなのに、日本のファンはマイケルー!って・・・日本人は礼節を重んじるって聞いてるのに・・・僕たちでもさすがにマイケル呼びはちょっと無理だ。」と。これについては、日本のファンは文哥とか他の呼び方を知らな(定着していな)くて、Mr. Boo の頃から「マイケル・ホイ」としか知らないから仕方ないんだよ、と説明しておいた。ご本人は多分気になどなさっていないのだと思う。それにしても子華神をそのまま「ジーワー」と呼び捨てする導演が文哥にはかなりの敬意を払っているのが面白かった。
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この裏のあらすじとクルーの名前は私が訳した。表のコピー「生死ままならず 人の身にして衆生を渡す」は、当初私も訳を作ったのだけれど、映画祭側(かな?)がこのコピーを既に用意しており、原文コピー「生死從不由己定 人身難得度眾生」には「衆生を渡す」という仏典的訳の方が合うように思ったので、こちらを採用してもらった。
のだけれど、導演から直接意味を教えてもらったところ、ちょっと違った。「度眾生」はさんずいの「渡す」ではなく「度=超度」つまり「說服」なのだよと。導演が作った英語字幕でも「transcend」となっていた。「衆生を渡す=悟りの彼岸に渡らせる」というより「度す=迷いから救い、悟りを開かせる」の方であって、「人の身を手に入れて誰かの役に立ったのだから、もう渡りなさいね」と説得するということなのだそう。やはり導演と直接話すことが常に必要だと感じた。
もう一度刷ることはないだろうから、もうこれは修正しようがないけれど、もしも日本の配給会社が買った場合は、なんとかして導演の意思に沿った日本語コピーに修正してもらいたいところ。
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思い出したので追記。
パーティーの時だったか、導演の友人が「やっと(公開)だなー。俺が観た時からまた随分(編集が)変わったのか?」と。導演が「君が観たのは10版(第10バージョン目の編集)だったな。結局14版で落ち着いたんだ。」と。話を聞くと、編集の平叔(張叔平)はシャッシャッとカットが速いテンポで変わるのが好きだそうだけれど、導演はもう少し余韻の有るカット変わりが好きだそうで、あがってきた編集がここはちょっとと思うと自分で修正するのだけれど、それがまた平叔の修正が入って戻ってくるので、いたちごっこで大変だったと。平叔の編集に自分で手を入れるとは相当な肝っ玉だな導演。
導演に「東京国際映画祭から香港に戻ったら絶対に観るね!」と言っておいたら、こちらの優先場のチケットを頂いた。動物愛護協会的な団体の包場。かなり大きな会場で約480名の入り。導演の手配だからと会場のまん真ん中の席をくれたのだけれど、スクリーンが大きすぎて、両端が視界に入りきらなかったのがちょっと辛かった。
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かなり遅い上映だけれど、そこは香港。地下鉄もまだ走っている時間帯なので、余裕で帰宅できる。ありがたくこの時間帯でまずは『破・地獄』初回鑑賞。
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ホワイエには結構大掛かりな宣伝用設備が組んであった。人が多すぎたのとこのボードまでの距離が無さすぎて思うような画角にならなかったのが残念。
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これはどうやら優先場の観客の投票っぽかったけれど、私は投票用コインを貰わなかったのでスルー。
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では感想をば。もうすでに二度観たので、どちらかの上映で感じたことを書いておく。
本作は脚本も導演が書いている。実はこの導演、脚本家としてはもともと喜劇もの専門だそう。なので細かい笑いのポイントをちょこちょこ詰めるのが上手。そして香港の観客はそれを外すこと無くどっかんどっかん笑う。笑いが上がっていたポイントを記す。セリフを完璧には覚えていないので覚えている内容で。
「俾人問候を避けられるからな」あはは!
「新人と先人、禮金と帛金、婚禮と喪禮、一文字違いだもんな」はははは!
「契弟」どっひゃー!
「竹子開花 人畜搬家」ははは!
「馬龍・白蘭度?似咩?佢中槍喎、我就中風」どっかーん!
こういう韻を踏んだ言葉遊びが香港人は本当に上手い。
あとはちょっとグロいシーンで「うわわわわ~~」の声もしっかり上がるのも劇場で多くの人と鑑賞する醍醐味。
文玥は父親のことをずっと「文哥」と呼び続けていたのに、あの朝遂に「阿爸」と声を掛け、「破地獄」の時には(志斌からの指示のせいもあるだろうけれど)「老竇」と呼んだのが私個人として興味深かった。
では主たる出演者について。もうね、いちいちキャスティングがパーフェクトなのよ。良い意味でとても気になったのが、役者の皆さんのメイクが薄いこと。主役の Michelle でさえファウンデーションが薄目なのだけれど、梁雍婷に至ってはほぼファウンデーション無しのほぼスッピンではないかと思った。これ、そのうち導演に聞いてみたいと思う。
魏道生(Dayo Wong 黃子華)
当初の宣伝ではダオシャンと普通話読みで書かれてあったが、正しくは広東語なのでドウサン。安定の演技。棟篤笑で表情の作り方をしっかり練り上げてきているので安心して観ていられる。最後の啖呵切りは『毒舌大狀』を思い出さずにはいられなかった。私としては「好行!唔送!」で閉めてくれたのがスカッとして良かった。
文哥(Michael Hui 許冠文)
想像以上に芝居が上手くて、微妙な表情を作れる素晴らしい俳優だと改めて感心。最後のナレーションも、よくある「手紙をじっくり読み聞かせる」風で始まったのに、途中から普段の喋りのままになり、そのまま最後までいっちゃったのが面白くて良き。
郭文玥(Michelle Wai 衛詩雅)
この作品で一皮も二皮も剥けた。最初に写真を上げたプレ・イベントの時にも役に関する話で感極まってたのは、やはりこの役に相当に入れ込んだからだろうな。この謝票でも導演から「本当によく頑張った」と言われて感無量になってた。
大南天梯で開催中の展示会に関する記事「『破・地獄 The Last Dance』海報創作展/道具劇照展@Upper Deck Tai Nan 大南天梯」でも書いたけれど、この展示に出品しているアーティストがこれまでの自分を超えた Michelle を観て頭を離れなくなったので彼女だけを描いたポスターにしてみた、と言っていた。皆が言うほど本当に素晴らしい成長を見せてくれたので、これから鑑賞する皆さんは彼女の芝居をしっかり観てやってほしい。
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Michelle は劇中最後に喃嘸佬ならぬ喃嘸女をやるのだけれど、この喃嘸佬の動きを一年かけて学び練習したそう。それで皆からの「おおお!」という反応と大きな拍手をもらってまた泣きそうになっている Michelle。
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郭志斌(Tommy Chu 朱柏康)
『金都 My Prince Edward』(2019) のクソ彼氏として一躍港產片迷推しとして躍り出た朱康(香港電影人は皆彼のことを Tommy でもなく朱柏康でもなく朱康と呼ぶ)。その後、いろいろな作品に様々な役で出演し、演技の幅広さで產片迷の評価をガッツリ掴んだ朱康。今回はクソ兄貴。いやしかし、自信が無くて傷を抱えたクソ野郎を演じさせたら右に出る者はいないわ。ホンマ、このクソ兄貴凄かった。またまた当たり役を貰ったね。クソ彼氏からクソ兄貴に改名してもいいよ。
文玥は文玥で、父から女は汚れていると言われ続け、父親はクソ兄貴のことばかり大切にして自分は嫌われているのだと思っていたのだが、郭志斌は郭志斌で、俺は勉強も出来ないから有無を言わさず親父の跡を継ぐしかなくて友達からもバカにされてきたのに、妹のお前は何かやりたいと言って反対されたことなどなかったじゃないかと父親は妹こそを大切にしているとずっと思っていたという兄妹の捻じれた誤解と羨望。
お互いの気持ちを知り、やっと対峙し合う。そして二人で父親の「破地獄」を行う。
クソ兄貴の「我帶你呀、妹(俺がリードしてやるよ)」
兄「叫老竇!」妹「老竇!」
そしてクライマックスの飛び越えでの文玥の「老竇、跟住我」
で号泣三段飛び。見事な脚本というしかない。
蘇蘇(Rachel Leung 梁雍婷)
彼女の演技力ももう言わずもがな。『緣路山旮旯 Far Far Away』(2022) の押せ押せ彼女、『燈火闌珊 A Light Never Goes Out』(2022) のしんみり娘、『白日之下 In Broad Daylight』(2023) の発達障碍者、そして本作の愛する想いを諦めない女性。いやホンマ凄い。
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そして写真タイム。導演は私が観に来ていることは当然知っていたのだけれど、Michelle は知らなかったようで、私の顔を見た途端「えー!えー!きゃー!」と大喜びしてくれて、この引っ付き具合。そりゃそうよね。東京であれだけ一緒にいて話いろいろして、香港に戻ったら観るね!って言っておいて(彼女にとっては)突然一般観客として現れたら驚くよね。導演も笑顔がいつも可愛い。沢山の人が並んでいたので梁雍婷と話す時間が無くて残念っだったので、またいつかゆっくり話したいな。
そして、この上映は一応8日夜21:50の優先場だったのだけれど、劇終がほぼ12時で、映後分享が始まった時間はすでに12時を超えて9日になっていたということで、正式公開初日第一場としてカウントされたという名誉も。
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初見のスクリーンが大きすぎて端が視界からはみ出てしまっていたことと、セリフ含めあれこれもう一度確認したいことなどもあって、翌日の謝票場を速攻購入。謝票行くとしたらよっぽどのことがなければ高先電影院で、と決めているので9日16:40の回。初日の單日票房を稼ぎたいという思惑からかあちこちの劇場で謝票を同時に手分けしてやることになっていて、第一小隊と第二小隊とだけ書かれていて、実際に誰が登壇してくれるのかはわからない状態だった。「高先の16:40場を買ったのだけれど、導演登壇する?」ってこっそり聞いてみたら「あ、その場はボクかも!」って言ってくれたので導演とはまた会えることに。
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こちらの上映会では下敷きみたいなプラスチック・カードを配布。ポスターとはまた違った柄で、しかも出演者の顔が出ていないデザイン。これもまた素敵。
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残り3枚ぐらいしかない時に買ったので、前から2列目で、スクリーンもギリギリ全部視界に入るかな…という席。
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この回の登壇者は導演と Rosa Maria Valesco 韋羅莎。彼女も安心して観ていられる芝居。『全個世界都有電話 Everyphone Everywhere』(2023) の夫の浮気を知っている闊太も良かったし、これまた全く違う『年少日記 Time Still Turns The Pages』(2023) での偏愛ママも凄かった。今回もとても引き込まれる演技で素晴らしかった。
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ライト全部点けてくれなくて、登壇者の顔がはっきり見えなかったのは劇場のミスかな。
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次の謝票があるのでと、観客からの質問も写真タイムも無く、登壇者がある程度お話して終わり、というちょっと物足りない謝票ではあった。
のだけれど、導演が出ていく際に私を見つけて「お、いるね!ありがと!」って手を振ってくれたので満足。
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この作品は脚本も良いし、しかも香港非物質文化遺產に指定されている「破地獄」という儀式やそれに関する様々な知識も観られるので本当にお勧め。2回目しかも翌日の鑑賞で、どこで泣けるかわかっていても再度ボロボロに泣くぐらい気持ちの高まる内容。私の隣のおばさまは号泣してたもんね。
日本の配給会社から話は来ているということだったので、多分買ってくれる配給会社が出てくるでしょう。SNSでは既に買ったという情報も流れていたので、東京国際映画祭や Making Waves で観られなかった方は期待して待っていてください。
iSquare 英皇戲院5院 / 高先電影院 にて鑑賞。★★★★★