侍タイムスリッパーの感想です
多くの方がとっくに感想書いていらっしゃると思いますが、この映画はすごく泣けたので、今さらながら感想書いておきます。
ネタバレはしていません。
評判いいし、予告編がすごく面白かったので、笑いを期待してたんですが、実際のところ、めちゃくちゃ泣ける映画でした。
どんな涙やねん、という方に簡単に説明すると、「はじめてのおつかい」に近い涙です。 ※画像は公式のを引用させていただいてます。
<侍タイムスリッパー>と<はじめてのおつかい>
会津藩士・高坂新左衛門は、高坂家の次男か三男です。
家督は長男が継ぐので、いわば「好きに生きよ」な人生も選べるんですが、この新左衛門は根が真面目なので、剣の稽古も学問も真面目にやってます。藩の道場では、師範や師範代の腕前なのかな。達人です。
役柄の年齢は35才ぐらいでしょうか、今の時代なら40代半ば。
嫁もとらず、藩のために生きるという純粋な心持ちです。男前だし、大きな商家の婿養子の縁談とか絶対あったと思うけど、侍として全うすべしという人。
そういう純粋無垢な新左衛門、藩命を受けて、京の都にやってまいります。
会津から京都へ、<はじめてのおつかい>です。
3才くらいの子が、徒歩10分のスーパーに「人参とうどん玉と歯磨き粉買って来て」と頼まれて、お財布持たされるドキドキ感。
「これかなあ?」と3才児が洗剤を手にした瞬間、「違う違う」。
「これだ!」と3才児が歯磨き粉を手にした瞬間、「それそれ。よく見つけた。頑張った」とお茶の間の皆さんが笑い泣きする、
あの感じです。
新左衛門が純粋で、真面目で、頑張り屋さんの侍で、ゆるく生きている現代人としては、真摯な一挙一動に泣けてくるのです。主演の山口馬木也さんは新左衛門そのもので、演技に見えないほど本物のお侍さんに見えました。舞台BLEACHで京楽さんやってらしたみたい!!
<侍タイムスリッパー>と<寅さん>
新左衛門は、お寺に居候することになりますが、この住職さんと奥さんが、寅さん映画のおいちゃんとおばちゃんの存在。
住職さんの姿はタコ社長に似てるけど、おばちゃんは、見た目もそのまま、あのおばちゃんみたいです。
新左衛門の世話を焼いてくれる、ヒロインの優子殿は、さくらです。顔立ちもたたずまいも、昔の倍賞千恵子さんの雰囲気にとても似てる。
時々ストーリーに差し込まれる想像(妄想)シーンも、寅さん的な面白さがあります。ギャグはそこだけテンポが変わって、ちょっとコントみたいになるんだけど、お約束の面白さ、様式美。
寅さん映画が好きなので、ツボを押される感じです。
<侍タイムスリッパー>と<ゴジラ-1.0>
全然違う印象の映画ですが、昨年劇場で観た2本には、共通点がありました。
ゴジラ-1.0もまた大勢の方が感想を書かれていて、地上波放送もあったから皆さんご存知だと思うんですが、この映画は技術的な要素でアカデミー賞取りました。ほんとゴジラが本物みたいで怖かった。
ですが、何よりもストーリーが素晴らしいのです。
ストーリーの最大の良さは、「ゴジラ攻略をプロジェクトX風にしたところ」だと思っています。
ゴジラ攻略を、東洋バルーンみたいな民間企業と、自分の意思で残った民間人が力を合わせて頑張ります。
中島みゆきさんのあの歌声が流れてきてもおかしくないシチュエーション。実際はゴジラのテーマが流れてるんですが、涙が出てくるの。
プロジェクトX。誰もが困難だと思ったゴジラ攻略、国や政府は頼れない。その時立ち上がった人がいた。戦争よりましじゃないか。拍手が起きた。
一般人の皆が協力し合って成し遂げる、これもう涙腺崩壊じゃないですか。
侍タイムスリッパーの場合、本編ではなく映画制作者さんたちのストーリーが、まるでプロジェクトXなんですね。
安田淳一監督っていう才能あるクリエイターがある日、映画のストーリーを閃いた。時代劇だ。夢中で台本を書き、手ごたえを感じた。
最初は女優の沙倉ゆうのさんぐらいしか賛同者がいなかった。時代劇はお金がかかる。スポンサーを探そうとしても、あいにくのコロナ禍。
ところが、台本の良さから、東映撮影所が協力を申し出てくれた。想像したより制作費用が少なくてもいけそうだ。自己資金で撮影をスタートさせた。やがて資金は底をつく。仕方ない。愛車を売って耐えしのいだ。
通帳がゼロになる直前に、何とか公開にまでこぎつけた。
すると映画館・シネマロサが映画を評価し、味方になってくれた。シネマロサのファンが次々と応援、評判が評判を呼び、なんと全国拡大公開になる。
とうとう、安田監督がひとり徹夜で脚本を書いていたときには考えもしなかった、著名な映画賞を次々と受賞する。
プロジェクトX。
俳優さんの底力
新左衛門役の山口馬木也さんは新左衛門にしか見えないし、風見恭一郎役の冨家ノリマサさんは、里見浩太朗さんみたいな時代劇の大スターさんにしか見えないし、優子殿の沙倉ゆうのさんは20代後半(!)の助監督にしか見えないし、山形彦九郎役の庄野﨑謙さんもあの時代の生死の境目に生きる侍にしか見えないわけで。殺陣の先生、撮影のときに映ってる感じがもう殺陣の先生って感じ。
監督役の俳優さん(2人とも)、切られ役の皆さん、なんであんなリアルなんだろう。
予算的に、あまり時間かけられないだろうし、スタッフがめちゃくちゃ少ないらしいので、役作りだけに集中していられる現場じゃない気がするんですね。(スタッフ少ないと、俳優さん達も目についたゴミとか拾って捨ててる印象)それでも、現実から瞬時に役になれる俳優さんってすごいなあと思いました。
そうだ。田村ツトムさんは役名というか心配無用ノ介にしか見えません。予告編で口上を邪魔される瞬間が必ず映ってるから、見るたびに笑います。いいキャラクターですよね。
やっぱり予告編は笑いを重視ですね。本編で是非泣いてください。