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託したるは、銀剣の誓い

注意:蒼天のイシュガルドと漆黒のヴィランズのメインクエストに触れています

「…また、護れなかった」

強行突入による混乱が続くイシュガルド教皇庁正門脇。陽が落ち、雪の舞う夜空の下、わたしは自分の手を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「わたしが…もっと強ければ…」

「彼は死ななかった、とでも?」

トリニテ…犬先生の声が降ってきた。わたしたちの突入に援軍として加わり、全てを見届けてなお、今もわたしの隣にいてくれている。

わたしは先生の言葉に応えず、俯いていた。かつ、かつ、かつ。回り込む石畳の音。街灯の灯りに影が差す。

「ソフィちゃん」

正面から呼ばれ、わたしは顔を上げる。静かな怒りを湛えたエレゼンが手をかざしていた。その手が、わたしの頬を打つ。乾いた音があたりに響いた。

「自惚れるんじゃないわよ。これだから嫌いなのよ、子供って…」

張られた頬が僅かな痛みと熱を帯び始めた。冷え切った思考に、火が灯り始める。

「…卿も同じ。得物を担いだ男なんて、どいつもこいつもバカばっかりだわ」

「…ッ!訂正してください!」

回らない頭が卿への暴言に反論する。いくら先生でも言っていい事と悪い事がある。ただそれだけを頼りに、わたしは恩師に食い下がった。先生は苦々しい顔で更に反論する。

「いいえバカよ!騎士の本懐が何よ!」

わたしの肩に手を置き、叫ぶ。その手がわなわなと震えていた。

「…勝手に逝っておいて」

頭を殴られたような、そんな気分だった。

そうだ、世界は卿とわたしだけで出来てはいない。卿がどれだけ多くの人から慕われていたのか、わたしはそれをよく知っていたはずだ。それなのに、わたしは。

沈黙があたりを支配する。教皇庁前では今も慌ただしく神殿騎士団が出入りしている。騒乱がもたらした喧騒はわたしたちを気にも止めない。

「あのバカが考えて、生かしたのがあなたなの。だったら、やる事はわかるわね」

「わかっています」

わたしは、迷いなく答えた。
自惚れを恥じ、応える事が出来た。

「生き汚くなりなさい、どこまでも。生きて、生きて、生き抜くの」

「約束します」

わたしは先生の顔を正面から見据え、強く誓った。立派な英雄の顔が出来ていたと思う。彼にそう求められた時と、同じように。


それでも、決意に反し、わたしは泣いていた。


心の霧が晴れた。
なすべき事を定めた。
名前の判らなかった想いの正体が今わかった。


わたしは、彼を。


「先生」

「どうぞ」

わたしは、先生の胸で声を上げて泣いた。

「こんな可愛い娘を泣かして、やっぱりあなたはバカよ。オルシュファン」

先生の呟きが、皇都の闇に溶けていった。

◆◆◆

「今だって、わかりません……!どうしたら、ソフィアさんを救えるのか……!」

時の止まった都、その議事堂を前にして、傍らの少女が迷いを吐露している。今の自分では彼女の端正な顔がどういう表情なのか、いまひとつわからない。それでも、そのエーテルの色を見れば彼女がいかに苦しんでいるかは、手に取るようにわかった。

「私は、あなたやサンクレッド、みんなに支えられて歩いてきました。ミンフィリアに、尊い命をもらいました……」

それは自分も同じだ。

「だから、今度こそ……!支える側になりたい、救えるようになりたいのに……っ!どうしても……私は、足りない……っ……」

少女は無力な自分を嘆く。けれど、ここまでの道のりで彼女に幾度助けられたか分からない。無力でなどあるものかと、伝えたかった。

「ミンフィリアに言ったのに……英雄の背中を追いかけるんだって……なのに……こんな……」

かつての自惚れた自分を思い出す。護れなかったと嘆く、あの頃のわたし。

うなだれる少女に目線を合わせ、わたしは応えた。

「…だったら、下を向いていてはいけませんよ」

わたしはエーテルの輪郭を頼りに、彼女の肩に手を置く。僅かな感触の変化がある。変なところは掴んでいないだろう。

「英雄に…悲しい顔は似合いませんから」

わたしはにこりと微笑んでみせた。
少女はハッとしたようなエーテルの変化を見せた。

「それは…………いえ、その言葉の意味は、自分でちゃんと歩いて、探していくべきものなのでしょう」

わたしは静かに頷いた。

「私も、行きます。何もできない自分を嘆いているだけじゃ、いつまでも、答えにたどり着けませんから……!」

決意した少女は双剣を今一度確かめ、先を行く仲間のもとへ駆けて行った。

わたしは身を起こし、背中の両手剣の柄を握る。まだ握れる。まだ戦える。もはや五感すら怪しい身なれど、まだ生き汚く足掻ける。

勝ち筋は見えない。崩壊していく身体を治す宛てもない。今までで最も絶望的な状況だ。それでも、心は爽やかだった。いま、彼女に想いを託せた。たとえこの先でわたしが倒れたとしても、それで充分だと、そう思えた。先生には、いつか星海で謝ろう。

「…でも、リーンも一緒に死んでしまったら、結局無駄ですね」

わたしはそんな身も蓋もない事に気づき、笑った。エーテルを漲らせ、わたしは議事堂に向け歩き始めた。

【了】

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Rich Campbell氏の教皇庁初見配信を見て、当時の心境を改めて思い出して出力した幻覚が今回の話です。わたしの脳内ではこういう感じの場面でしたよ、というアウトプット。

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