
七つの波を越えて
注意書き
時系列は7.15あたりですがメインとは全然関係ない話です。
登場人物紹介
ラドミラ・パーマー…通称ラディ。冒険者。17歳ぐらいの女子。身長最大のボズヤ系ルガディン。ギリギリ若葉が取れたぐらいの腕前。
青葉イズミ…ラディからお姉様と呼ばれ慕われている女剣士。アウラ・レン。21歳ぐらい。かなり強い。
金煌の都トライヨラも新たな年を祝うお祭りムード。ここゴーニトルクの宝浜にも人々が集い、思い思いの時を過ごしていた。
「波を飛び越えるんですか?」
冒険者ラディは子供達に問い返す。
「そうだよ!わたしたちの部族の慣わしなんだ!」
「七回やるんだよ!」
白い服を身につけた快活なトナワータの子供達は手を繋ぎ、打ち寄せる柔らかな波をぴょいと飛び越える。彼らの故郷ではそういう習わしがあり、きちんと飛び越えれば神の祝福を賜る事が出来るのだという。子供達はそうラディに教えてくれた。
「ねえちゃんもやろうぜ!でっかいからラクショーだろ?!」
ルガディン族であるラディの巨躯はエオルゼアであれば珍しくもないが、同族のいないトラルではたいそう目立つ見た目であった。それでいて性格は極めて穏やかであるのだから、ラディはすぐに街の子供達と仲良くなった。
「えぇ、簡単ですよ!おねえさん、冒険者ですからね!」
ラディは少し身をかがめ、子供達と手を繋いだ。暖かな陽射しのもと、白い波が寄せては返している。せーの、と声をかけてラディ達は波を飛び越え始めた。生死をかけた冒険とは程遠い穏やかな世界である。今日はこうやって子供達とのんびり過ごそう……。ラディはそう考えながら波を飛び越えた。いち、に、さん……「キャァーッ!」悲鳴!
ラディは素早く子供達の前に立ち、辺りを見渡す!浜の向こう、港湾施設側にいつの間にか水の巨人が顕現していた!「何かの催しか?!」「青魔法?!」訝しむ人々を無貌の巨人は睥睨し、おもむろにその腕を振るった。途端に大波が生み出され、宝浜の人々を押し流してしまった!「ウワーッ!」「逃げろ!」「トラルヴィドラールだ!」「勇連隊に通報!」混乱!
「大変です!」ラディはリンクパールを起動し、相棒たる青葉イズミに呼びかける!だが貝殻からは通話中の音が返るのみだ。彼女もまたどこかでこの事態に対処しようとしているのだろうか?だが頼りにしている姉貴分がすぐに駆けつけられないのは確かだ。彼女は通話を打ち切り、傍で怯える子供達を見た。覚悟を決めた巨躯の少女は子供達に跪き、肩を抱いて励ました。
「お姉ちゃんがなんとかしてくるから、皆んなは隠れてて!」
「ラディおねえちゃん!気をつけて!」
「波越え、終わってないからね!」
「えぇ!あとでちゃんとやりましょう!では!」
ラディは巨人に向かって駆け出した!
《ワーッハッハッハ!俺様は自由の扉第七の男!楽しそうに新年を過ごしてやがる貴様らを、水を操る祭器で溺れ死にさせてやるぜ!》
いずこかから聞こえてくる悪態が宝浜に響く。極めて一方的な主張だ。深遠なる思想などかけらも存在していない三下。そもそも賢明なる読者の皆様は《自由の扉》に追加メンバーなど存在しない事をご存知のはずだ。つまりこの男は単なる発狂犯罪者である。だがしかし、その力は絶大!
「そんな勝手……許さないッ!」
ラディは浜に落ちていた勇連隊の斧を拾い、水の巨人の脛を砕きに行く。だがその刃はざばりと脛に沈み、そのまま通り抜けてしまった!物理無効!
《効かんわ!そんな攻撃!》
巨人は嘲り、その拳をラディに叩きつけてきた。慌てて斧でガードするラディ!衝撃!
「ウワーッ?!」
ラディは5フルム近くノックバック!両足の跡が鉄道の線路めいて砂浜に描かれている。向こうの攻撃は当たるというのか?なんたる理不尽であろうか!
「それならッ!」
だがラディは臆さず斧を構える。再び飛んでくる拳に合わせて斧をぶつけた!刃は沈まず、拳を跳ね返した!インパクトの瞬間は実体化しているのだ!
「どーですかっ!お姉様ッ!」
迷えば敗れる!姉貴分の教えは確かに活きているのだ。
《イヤーッ!》「イヤーッ!」《イヤーッ!》「イヤーッ!」《イヤーッ!》「イヤーッ!」《イヤーッ!》「イヤーッ!」
一歩も引かない壮絶な打ち合い!遠巻きに見守るトライヨラの民はラディに歓声を送る!「がんばれー!」「姉ちゃん負けるなーッ!」声援を背に受け、ラディは必死に踏ん張る。決定打にはなっていないが、引き付けている限り人々は無事だ。そうすればいずれ誰かが突破口を……
《ハーッ!》
水の巨人を突如その身体を分解させ、海の中に逃げ込んだ!そしてやや離れた波の上でその身体を再顕現させる!
《付き合ってられるか!大波を喰らえぃ!》
巨人は大きく腕を振る。途端に現れる巨大な大津波!大質量がラディに叩きつけられ、その余波が宝浜を蹂躙する!「ウワーッ!」「溺れる!」「上に逃げろーッ!」
「ウゥッ……」
ノックダウンさせられたラディは起きあがろうと身体を捩る。だが痛みで手足が動かない。斧もどこかへ行ってしまった。こんな時の秘薬や銃器もオフの日ゆえに何も無い。水の巨人は再び浜に上陸してきた。
三下犯罪者にやられてしまう自分を激しく嫌悪する。悔しい。どうすれば。巨人は再び腕を振り上げた。また波を?まずい。そしてラディの視界に逃げ遅れ倒れたトナワータの子供が映った。
白い服。一緒に波を飛び越えた子だ。危険から逃れようと必死でもがいている。いけない。子供を、護らなければ!ラディは星海で眠る親友に祈った。ひと時でいいから貴女の勇猛さを、私に!
「……おんどりゃぁぁぁ!」
ラディは渾身のシャウトを発し、立ち上がって駆けた!巨人は腕を振り下ろし、再び大波を顕現させる。ラディは子供を抱えたが離脱の時間は無い!彼女はその巨躯で子供を包み、己が身を盾とした。大質量が二人を飲み込まんとした、その時である!
「奥義、波切!」
剣閃が走り、大波は真っ二つに割れた。目標を逸れた波はシャバーブチェ横の壁にぶつかり弾けて消えていく。ラディが恐る恐る目を開けると、そこには小柄な剣士が立っていた。トカゲめいた尾に白い角、紫色の短髪にエデンモーン様式の戦装束。冷徹な瞳をした狩人の女。
「お姉様!」
妖異狩り、青葉イズミである。
「悪い、遅れた」
《なんだ貴様ァ!》
「うっさい」
イズミは恐るべき速さで二の太刀を振るう。再び走った剣閃が巨人を真っ二つに両断した。返し波切。
《ウォォォォッ?!》
巨人は形象崩壊し、崩れ落ちた!だがしかし離れた位置の海面が盛り上がり、再び巨人が生まれようとしている。キリがない!
「やっぱり、どっかに核があるな。面倒なヤツ」
「ど、どうすれば……」
イズミが何か言おうとした時、ラディの傍の子供が目を覚ました。ラディは慌てて子供を改める。大きな怪我はなさそうだ。
「お姉ちゃん……ありがとう」
「そんな……私は何も」
「そんな事ないよ……!七つ目の波、越えたじゃん」
「えっ……あっ、お姉様の……」
ラディはハッと息を呑んだ。
「これでお姉ちゃんにはウチの神様の祝福があるから……出来るよ!あいつを……やっつけて!」
ラディの脳裏に弱気な自分が現れ警告する。素手で何が出来るっていうんだ?勝ち目はあるの?気合いだけで勝てる相手じゃないよ?——わかってる。でも!
「うん!わかった!任せておいて!」
ラディは毅然と答えた。その言葉を待っていたかのように、イズミはラディに小さな板を投げ渡した。中央にはいかにもなスイッチがある。
「お姉様、これは?」
「理王様の承認が降りた」
ラディはスイッチに浮かぶ文字を凝視する。《Full Metal Burst》とあった。
「物理無効なんてことは、理王様もお見通しだよ。あとはあんたがやるかどうか」
「……なら、やるまでです!」
ラディは迷わずスイッチを押した!空間に雷気が迸り、巨大なミサイルコンテナと二丁のダブルガトリングガンが転送される!ラディの巨躯はそれらを決断的に装着、人間火薬庫が現出した!
「よぉしラディ!ミサイル全弾発射!」
「わかりましたッ!信じますよコーナ様!」
《やらせるかァァァァ!》
アブナイ!またもや大波!
「邪魔するなッ!」
イズミはラディに向けて放たれた大波を居合術で吹き飛ばす!天道雪月花!
「うぉぉぉぉぁぁぁぁ!」
コンテナから垂直に打ち出されたミサイルは複雑な航跡を描き、水の巨人に次々と着弾した。本来であれば大爆発が起こるはずであるが、そのような兆候は皆無!不発?そんなはずはない。理王コーナの見立ては絶対だ!
《グッ……?アッ……こ、これは……身体が!?》
水の巨人の透明な身体が濁り、膨張し、動きが鈍くなっていく。やがてその動きは完全に封じられ、分解再構築すら行えなくなってしまった。
「高吸水性高分子剤であるポリアクリル酸ナトリウムを満載した弾頭は自重の数千倍まで水分を吸収する。何故ならば……」
イズミはそこまで読み上げてからメモを捨てた。
「これもエレクトロープの可能性ってやつだよ」
《ぬぁぁぁぁぁ!!!動け!!!動けよ!!!》
「ラディ、頭だよ。やっちまいな」
イズミは不気味に輝く瞳で見抜いたコアの位置を、相棒に伝えた。ラディはすでにミサイルポッドを捨て、ガトリングガンと共に敵目掛けて突進していた。岩場を足がかりに、巨人に取り付き、ぶよぶよになった身体を蹴って頭頂部に到達した!
「……観念しなさいッ!」
《ワッ、やめ、やめろ!!!》
ラディは両手のダブルガトリングガンのトリガーを引いた。凄まじい勢いで弾丸を吐き出す四つの銃火!ゲル化した巨人の頭部はあっという間に吹き飛ばされ、宝珠めいたコアが見えた!ラディは迷いなく照準を集中させる!
「成敗ッ!」
《ウギャァァァァァァァ!!!!》
宝珠は一瞬で穴だらけになり、粉々に砕け散った!ラディはガトリングガンを投げ捨て、離脱!そして水の巨人はゆっくりと倒れ、巨大な水柱と共に大爆発を起こした。はるか遠くの連王宮で理王コーナは眼鏡を直し、テラスから去っていった。
ラディは着地に失敗し、無様な体勢で砂浜に転がっている。イズミは手を差し出し、妹分を助け起こした。
「お手柄」
「いえいえ……お姉様が来てくれなかったら、だめでした。私、まだまだです」
背中を丸めるラディを前にイズミは苦笑し、その腰を叩いた。
「いたぁい!」
「そんなにしょげないの。ほら、なんか約束してたんでしょ?」
イズミが顎で示す先には、白い服の子供達がいた。手を振ってこちらへ走ってくる。
「あんたが護ったものだよ。行っといで」
ラディは涙がこぼれそうになったが、どうにか我慢して子供達に手を振り、駆け出した。
【了】
今年もよろしくお願いします。
解説
七つの波…ブラジルでは新年に白い服を来て波を飛び越える風習が実際にあるそうです。トライヨラの風習がよくわからないので、ここではトライヨラの外のどこかにそういう風習がある、としました。
自由の扉第七の男…黄金ロールクエに登場する犯罪組織《自由の扉》の一員を自称する男。もちろんそんなやつは本編に登場しない。勝手に名乗っているだけである。
ラディの親友…南方ボズヤ戦線シリーズに登場するNPCアギー・グローヴァーのこと。ラディは彼女と同門で親友だった…という独自設定。
コーナ兄さん…前回同様弊創作の便利キャラクターになりつつあります。