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採点競技はAIの力を借りてみよう

羽生結弦さんが早稲田大学の卒業論文に記載した内容を週刊誌が報じて話題になっていますね。

ニュースをご覧になった方も多いと思うので詳しくは書きませんが、要は、ジャッジ(審判員)の裁量に任されている採点のモダナイズを促す内容で、論文としての根拠を高めるために、自らジャンプを飛び分けてサンプルを用意し、現在のフィギュアスケートの採点方式の問題点を明らかにする内容だったようです。

まさか論文を入手した週刊誌が報道するとは羽生さんも思いもしなかったかもしれませんが、さりとて、論文の内容自体はとてもしっかりしたものであり、単なる協会批判のようなものではありません。むしろ、自らが生涯をかけて取り組んでいる競技の今後について真摯に考えをめぐらせた結果と言うべきでしょう。そのストイックさは、さすがだと思います。

このニュースを見て、私が共感したことは、羽生さんが単に現状の問題を指摘するだけでなく、技術的な採点はAIを採用するべきではないか、と論じた点にあります。これについては、大いに賛成です。ある意味、「フィギュアスケートの技術点の採点」は、人間とAIとで、その正確さ、精緻さにおいてもっとも差が開く(人間がやるべきではない)ものの一つではないか、とさえ思います。

もちろん、これは「技術点」に関してのことであり、「芸術点」についてはみた人間がどう感じるかの得点ですから、これは人間のジャッジで良いでしょう。まあ、AIさんは「ワタシノホウガスグレテイルノデス」と言うでしょうが(笑)、そこはまあ良いとして。

そもそも、一般の方って、フィギュアスケートの中継を見て、ジャンプの種類とか出来栄えってあんまり分からないですよね?...もちろん、私もそのひとりで、前から飛んだらアクセルとか、飛ぶ前に足がハの字になったらサルコウとか、特徴的なのは多少わかるとしても、それぞれのジャンプの出来栄えとか、あるいはトリプルとか4回転とか言われても、縄跳びの二重跳びとかと同じで、目がしっかりとその回数分の動きを追えているわけではなく、まあ、いい感じだな、くらいしか分かりません。

もちろんジャッジの方々は見分ける専門家なので一般人とは比べ物にならないほどのスキルを持っていますが、といっても、目は同じ生き物のパーツなわけですから(当たり前ですがw)、そこまで止まったように見えるわけではなく、あくまでも着氷とかポイントになる部分をものすごい集中力で見て判断する、という極めて特異なことをやっているわけです。

ところが、これがAIだったら、センサーが獲得した画像信号を、プリセットされた「完璧な形」と照合してその結果を定量的に判断するという、きわめてシンプルなコマンドに置き換えることができます。ハイスピードカメラのセンサーなら1秒間に120コマとか240コマとかで画像を認識することができるし、カメラを複数設置すればジャッジの死角になったジャンプも全て採点が可能です。当然、その程度の処理速度は現代のテクノロジーなら朝飯前でしょう。


実は、体操など先進的な競技団体では既に採点へのAI導入が始まっています。

これは撮影というよりは選手の動きを3Dスキャンで認識する方法のようで、なんと1秒間に200万回(!)ものレーザーを選手に照射して判断するという気の遠くなるようなテクノロジー。このあたりは、各競技ごとに求められる要素が違うと思うので、独自に発展していくのだろうな、と思いますが、いずれにしても、人間の力を凌ぐテクノロジーがあるのであれば、こうやって素直に採用してみたらいいと思うんですよね。体操協会さん、エライです。

スポーツの勝負のつけ方って、得点(サッカーとか)、記録(陸上とか)、採点(フィギュアとか)の3つがあるんですが、やっぱり採点が断然わかりにくいわけです。でも、例えば新しくオリンピックに入ってくる競技でもスケートボードとかは採点種目だったりするわけで、採点の競技自体は古いってことはなく、むしろこれから増えてくると思います。パルクールなんかも、タイム競技もあるけどメインは採点競技ですよね。そういうことを考えると、「採点競技の採点方法に最新のテクノロジーを備える」ことは今後のスポーツ界にとってはほぼほぼマストと言っていいことなんじゃないかと思うわけです。羽生さんの指摘は、そういう意味で、選手からイノベーティブな意見が出てきたという点で、すごく意味合いが大きいものだと思います。

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