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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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記事一覧

土地の分割と所有が人間の不平等を生んだ——ルソー『人間不平等起源論』を読む

ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau, 1712 - 1778)は、フランス語圏ジュネーヴ共和国に生まれ、主にフランスで活躍した哲学者、政治哲学者、作曲家。波乱万丈の人生を送り、40歳近くまで音楽などで生計を立てていたルソーは、1750年ディジョン科学アカデミーの懸賞論文『学問芸術論』で一躍脚光を浴びる。そこから怒涛の勢いで論文や著作を発表していき、『社会契約論』『エミール』といった名著を生み出していったのである。ちなみに童謡「むすんでひらいて

「ケアの倫理」における自己と他者の相互依存的な人間観——ギリガン『もう一つの声で』を読む

キャロル・ギリガン(Carol Gilligan, 1937 - )は、アメリカ合衆国のフェミニストで倫理学者・心理学者。ローレンス・コールバーグと共に倫理的なコミュニティや倫理的社会について共に仕事し、また彼を批判した。倫理学における主体-客体問題でよく知られている。現在ニューヨーク大学の教授で、ケンブリッジ大学の客員教授を務めている。代表的な著作は『もうひとつの声——男女の道徳観のちがいと女性のアイデンティティ』(In a Different Voice)(1982年 邦

ヘーゲルはスピノザをどう読んだか——長谷川宏氏『ヘーゲル『精神現象学』入門』を読む

長谷川宏(はせがわ ひろし、1940 - )氏は、日本の在野の哲学者。妻は児童文学者の長谷川摂子。学習塾を営みながらヘーゲル研究を続ける在野の哲学者。難解なヘーゲルの哲学書を、従来の専門家的な訳語を避けて平易な言葉で訳した功績は大きい。著書に『新しいヘーゲル』(1997年)、『日本精神史』(2015年)など。 本書『ヘーゲル『精神現象学』入門』は、難解なヘーゲルの『精神現象学』を、「ヘーゲル翻訳革命」と評される斬新な翻訳に取り組んだ長谷川氏が、自らの言葉で『精神現象学』を解

他者の物語を埋葬すること、自分の声を見つけること——榎本空氏『それで君の声はどこにあるんだ?——黒人神学から学んだこと』を読む

榎本空(えのもと そら, 1988 - )氏は日本の神学者。滋賀県に生まれ、沖縄県伊江島で育つ。同志社大学神学部修士課程修了。台湾・長栄大学留学中、C・S・ソンに師事。米・ユニオン神学校S. T. M 修了。現在、ノースカロライナ大学チャペルヒル校人類学専攻博士課程に在籍し、伊江島の土地闘争とその記憶について研究している。 本書『それで君の声はどこにあるんだ?——黒人神学から学んだこと』は、榎本氏がユニオン神学校で師事した黒人神学教師のジェイムズ・コーンから学んだことを自伝

コナトゥス(生きる力)を巧みに扱うアートとしての〈ケアの形而上学〉——森村修氏『ケアの形而上学』を読む

森村修(もりむら おさむ、1961 - )氏は、日本の哲学者、思想家。文学博士(哲学)。法政大学国際文化学部教授。群馬県生まれ。専門はフッサール現象学、フランス現代思想、応用倫理学、近代日本哲学、芸術哲学。著書に『ケアの倫理』(2000年)、『生と死の現在』(2002年)、『ケアの形而上学』(2020年)などがある。 本書『ケアの形而上学』は、トラウマ・虐待、認知症、孤立・孤独死、アウトサイダー・アートなど、著者が関わる人々や環境がもたらした感慨によって深まる「ケア」の形に

ブッダは人間は死んだら無に帰すと考えていた——橋爪大三郎氏『死の講義』を読む

橋爪大三郎(はしづめ だいさぶろう、1948 - )氏は、日本の社会学者(社会学修士)。理論社会学、宗教社会学、現代社会論が専門。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。元東京工業大学世界文明センター副センター長。 本書『死の講義:死んだらどうなるか、自分で決めなさい』では、「死」とは何かということについて、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教などの一神教から、ヒンドゥー教、仏教、儒教、神道など、それぞれの宗教での「死」の考え方について、橋爪氏が解説している一冊である。中学

死に対する恐怖の本質としての「無の永遠性」——高村友也氏『存在消滅:死の恐怖をめぐる哲学エッセイ』を読む

高村友也(たかむら ともや, 1982 - )氏は、日本の哲学者。東京大学哲学科卒業、慶應義塾大学大学院哲学科博士課程単位取得退学。山梨の雑木林に小屋を建てて暮らしはじめる。現在は小屋と東京の二地域居住。宅地建物取引士。著書に、『自作の小屋で暮らそう——Bライフの愉しみ』(ちくま文庫)、『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか——生と死と哲学を巡って』(同文舘出版)などがある。 本書『存在消滅ー死の恐怖をめぐる哲学エッセイー』は、小屋暮らしの著作で注目を集めた高村氏が、仕事、旅

アーレントと網野善彦から考える日本ならではのアジール——青木真兵氏『手作りのアジール』を読む

青木真兵(あおき しんぺい, 1983 - )氏は、キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士。埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれる

黙約と慣習に基づいた「制度」が社会の公共善をつくると考えたヒューム——仲正昌樹氏『精神論ぬきの保守主義』を読む

仲正昌樹(なかまさ まさき、1963 - )氏は、日本の哲学者・思想史家。専門は、政治思想史・社会思想史・社会哲学。学位は、博士(学術)(東京大学・1996年)。金沢大学人間社会学域法学類教授。 本書『精神論ぬきの保守主義』は、保守主義の思想の系統をなすヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエクなど、西欧の保守思想の源流から、本来の保守が持つ制度的エッセンスを取り出し、民主主義の暴走から社会を守るための仕組みを洞察する一冊である。 「保守主義」というと

人類が目指すべき「三代目」の社会——見田宗介・大澤真幸『二千年紀の社会と思想』を読む

本書『二千年紀の社会と思想』は、社会学者の見田宗介氏と大澤真幸氏の対談本である。大澤氏は見田氏に師事したので、いわば師弟による対談である。 まえがきで、見田氏は「二千年紀の最初の10年の経験は、現代の国際関係と科学技術と経済システムだけでなく、これらを通底する社会の原理と思想の前提とを問い返すことをとおして、新しく人間と社会の存在の<見晴らし>を切り開くという、射程の大きい共同の作業の開始をわれわれに要請している」と書く。 21世紀に入った私たちの社会は今後どのような方向

「極限値の中にあらわれる一般性」としての少年犯罪——見田宗介『まなざしの地獄』を読む

見田宗介(みた むねすけ、1937 - 2022)は、日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。著書に『現代社会の理論』(1996年)、『時間の比較社会学』(1981年、真木名義)など。 本書『まなざしの地獄』は、日本中を震撼させた19歳の少年N・Nによる連続射殺事件を手がかりに、1960~70年代の日本社会の階級構

人間を正気に保つものは「正統」という人類の知恵である——チェスタトン『正統とは何か』を読む

ギルバート・キース・チェスタトン(Gilbert Keith Chesterton、1874 - 1936)は、イギリスの作家、批評家、詩人、随筆家。ディテクションクラブ初代会長。ロンドン・ケンジントンに生まれ。セント・ポール校、スレード美術学校に学ぶ。推理作家としても有名で、カトリック教会に属するブラウン神父が遭遇した事件を解明するシリーズが探偵小説の古典として知られている。著書に『異端者の群れ』『正統とは何か』『人間と永遠』『木曜日の男』など多数。 本書『正統とは何か(

「天皇リザーブ選手説」とノモス主権論——大澤真幸・木村草太『むずかしい天皇制』を読む

大澤真幸(おおさわ まさち、1958 - )氏は、日本の社会学者。元京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専攻は、数理社会学・理論社会学。学位は、社会学博士(東京大学)。 木村草太(きむら そうた、1980 - )氏は、日本の法学者。専門は憲法学。東京都立大学大学院法学政治学研究科法学政治学専攻・法学部教授。高橋和之門下。 本書『むずかしい天皇制』は、社会学者の大澤真幸氏と憲法学者の木村草太氏の両者が、天皇制の過去、現在を論じることを通じて、日本人とは何か、日本社会の特徴は

哲学の肝はアウトプットではなく思考のプロセスにある——山口周氏『武器になる哲学』を読む

山口周(やまぐち しゅう, 1970 - )氏は日本の著作家・経営コンサルタント。慶応義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科前期博士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダ