2050年のアメリカにおける肥満・過体重に関する予測 (Lancet)
背景
過去数十年にわたり、米国では過体重・肥満が蔓延し、国民の健康および経済に大きな負担がかかっている。国レベルと州レベルで現在の傾向と将来の予測を行うことは、既存の介入の成功を評価し、将来の健康政策の変更に不可欠である。我々は、1990年から2021年までの過体重・肥満の有病率を推定し、2050年までの予測を、国レベルで小児・青少年と若年成人(5〜24歳)と成人(25歳以上)について行った。さらに、全50州とワシントンDCについて、青少年(15〜24歳)と成人の州別の値を推定した。
方法
今回の分析では、すべての主要な全国監視調査データを含む134の独自のソースから、自己申告値および測定値を抽出した。自己申告のバイアスを補正するために調整が行われた。18歳以上の場合、過体重はBMIが25kg/m2以上30kg/m2未満、肥満はBMIが30kg/m2以上と定義され、18歳未満の場合、International Obesity Task Forceの基準に基づいて定義した。1990年から2021年までの過体重・肥満の有病率の歴史的傾向は、時空間ガウス過程回帰モデルを使用して推定された。次に、一般化アンサンブルモデリング手法を使用して、過去の傾向とパターンが継続することを前提に、2050年までの予測推定値を導出した。すべての推定値は国レベルで年齢と性別に基づいて計算され、50州とワシントンDCの青少年と若年成人(15〜24歳)と成人(25歳以上)の推定値も計算された。95%不確実性区間(UI)は、それぞれの推定値の事後分布の2.5パーセンタイルと97.5パーセンタイルから導出された。
結果
2021年の段階で、米国では推定1,510万人(95%UI13.5~16.8)の小児(5~14歳)、2,140万人(2,020~2,260)の青少年と若年成人(15~24歳)、および1億7,200万人(169~174)の成人(25歳以上)が過体重・肥満を有していた。テキサス州では、男性の青少年と若年成人(15~24歳)の年齢標準化過体重・肥満の有病率が52.4%(47.4~57.6)で最も高く、女性の青少年と若年成人(15~24歳)ではミシシッピ州で63.0%(57.0~68.5)と最も高かった。成人では、男性ではノースダコタ州で80.6%(78.5~82.6)、女性ではミシシッピ州で79.9%(77.8~81.8)とそれぞれ有病率が最も高かった。特に青少年と若年成人の間での肥満の有病率は、時間の経過とともに過体重の有病率の増加を上回ってきている。1990年から2021年の間に、年齢標準化肥満有病率の変化率は、男性の青少年と若年成人では158.4%(123.9~197.4)、女性の青少年と若年成人(15~24歳)では185.9%(139.4~237.1)増加した。成人では、肥満有病率の変化率は、男性で123.6%(112.4~136.4)、女性で99.9%(88.8~111.1)であった。これまでの傾向とパターンが続くとすれば、2050年までに過体重または肥満者は、小児・青少年(5〜14歳)が333万人、青少年と若年成人(15〜24歳)が341万人、成人(25歳以上)が4140万人増加することが示唆される。2050年までに、過体重または肥満の小児・青少年の総数は4310万人(3720万人〜4740万人)に達し、過体重または肥満の成人の総数は2億1300万人(2020万人〜221万人)に達すると予想される。2050年には、ほとんどの州で、15〜24歳の青少年と若年成人の3人に1人と25歳以上の成人の3人に2人が肥満になると予測される。オクラホマ、ミシシッピ、アラバマ、アーカンソー、ウェストバージニア、ケンタッキーなどの南部諸州では、引き続き肥満率が高いと予測されるが、2021年からの変化率が最も高いのは、青少年ではユタ州、成人ではコロラド州などの州である。
解釈
既存の政策では、過体重や肥満に対処できていない。大規模な政策変更がなければ、過体重・肥満の疾病負荷は壊滅的なものとなり、肥満に関連する疾病負担と経済的コストは引き続き増大する。国レベルと地域レベルの両方で過体重・肥満の構造的要因を打破するために、多面的な全体的システムアプローチをサポートし、実施するには、より強力なガバナンスが必要である。臨床面での変革を通じて既存の肥満を公平に治療・管理する必要があるが、特に小児や青少年の場合、人口レベルの予防が非常に重要である。
National-level and state-level prevalence of overweight and obesity among children, adolescents, and adults in the USA, 1990–2021, and forecasts up to 2050 - The Lancet
感想
戦争や経済ショック、地球規模の大災害や大きな政策変更や医療革新がなければ、という前提にはなるが、この種の予測はある程度精度が高い。
周囲に食物が常にあるわけではない状況を生き抜いてきた人類という種にとって、食物が豊富にある際にはそれを体内に蓄えようとするのは合理的なので、現代のような飽食時代に肥満・過体重が増えるのは当然と言えば当然である。問題は、飽食の時代は今始まったわけではなく、ここ40年位は続いているにもかかわらず、肥満・過体重の有病率は定常状態に達しておらず、今回の予測でも、2050年にかけてますます増加する傾向を示している点である。特に小児や青少年の肥満は深刻なのは、若い時期に肥満があると、年を重ねるにつれて痩せてくる、というような可能性は低いからである。
現在、あるいは将来に親になる世代は、子供のころからすでに飽食時代であったために、健康的な食習慣というのを経験したことがない、あるいは既に忘れてしまっているのかもしれない。そのために自分の子供にも好きなものを好きなだけ食べさせてしまうのだろう。
今回の論文はアメリカにおける将来予測であるが、おそらくEU諸国などでも傾向という点では大きく異ならないのではないかと思われる。日本や韓国などは西洋とは体型が全く異なるためにこの種の予測はそのまま当てはまるものではないが、それでも肥満・過体重やそれに伴う健康障害が増える、という点においては共通する面はあると思われる。
特にアメリカでは、学校給食にもピザやハンバーガーなどのファストフードが侵入していると聞く。また、家庭においても親は共働きが基本なので、料理に時間をかけることができない、という点もあるかもしれない。
いずれにしても、「2050年に、過体重または肥満の小児・青少年の総数は4310万人、過体重または肥満の成人の総数は2億1300万人」という数値は衝撃的であるし、GLP-1作動薬などの抗肥満薬がいくら進歩したとしても、薬価や利便性の問題から、薬物治療を受けられるのはごく一部なので、国家レベルで見れば焼け石に水だろう。
地道ではあるが、ファストフードの広告規制、給食の改善、スナック菓子やソフトドリンクへの課税など、国レベルでの政策を行わないと、肥満の危機的状況を脱するのは無理だろう。