駆出率の保たれた心不全を合併する肥満患者に対するTirzepatideの心血管イベントに関する有効性(NEJM)
大変興味深い試験の結果がNEJMに発表された。
Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction | New England Journal of Medicine
要旨は以下:
背景
肥満は駆出率が保たれた心不全(HFpEF)のリスクを高める要因の一つである。Tirzepatideは、GIPおよびGLP-1受容体の長時間作用型作動薬であり、顕著な体重減少をもたらす。しかし、心血管転帰に対する効果についてのデータはまだなかった。
方法
試験デザイン: 国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験
対象患者:
HFpEF(駆出率50%以上)
BMI 30以上(kg/m²)
計731名(tirzepatide群 364名、プラセボ群 367名)
投与:
Tirzepatide 最高15mgまたはプラセボを週1回皮下注射
52週間以上の治療
主要評価項目:
心血管死または心不全悪化イベントの発生率(time-to-first-event解析)
カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ-CSS)スコアの変化(0~100点で、スコアが高いほどQOLが良い)
結果(Results)
追跡期間: 中央値104週間
心血管死または心不全悪化イベントの発生率:
Tirzepatide群: 9.9%(36/364人)
プラセボ群: 15.3%(56/367人)
ハザード比(HR): 0.62(95% CI, 0.41–0.95), P = 0.026(有意)
心不全悪化イベントの発生率:
Tirzepatide群: 8.0%(29人)
プラセボ群: 14.2%(52人)
HR: 0.54(95% CI, 0.34–0.85)
心血管死の発生率:
Tirzepatide群: 2.2%(8人)
プラセボ群: 1.4%(5人)
HR: 1.58(95% CI, 0.52–4.83)(有意差なし)
KCCQ-CSSの変化(52週時点):
Tirzepatide群: +19.5 ± 1.2点
プラセボ群: +12.7 ± 1.3点
群間差: +6.9(95% CI, 3.3–10.6), P < 0.001(有意)
副作用:
消化器系の有害事象による治療中止:
Tirzepatide群: 6.3%(23人)
プラセボ群: 1.4%(5人)
結論(Conclusions)
Tirzepatideの投与により、HFpEFと肥満を有する患者において 心血管死または心不全悪化のリスクが低下し、健康状態(QOL)が改善 した。ただし、消化器系の有害事象が認められた。
感想
TirzepatideのHFpEF患者に対する有効性を検証したSUMMIT試験の結果が正式に報告された。
類似の作用を持つSemaglutideでも、HFpEF患者に対する有効性を見た試験はあり(STEP-HFpEF試験)、そちらでも有効性は確認されているが、STEP-HFpEFでは主要評価項目はKCCQ-CSSであり、心血管イベントに対する有効性は見ていなかった。
今回の試験では、わずか731人という限られた患者数でイベント抑制効果を証明した点は特筆すべき点であろう。しかも、Hazard ratioは0.62と非常により数字になっている。
例えば、同じくHFpEF患者における、SGLT-2阻害薬のDapagliflozinのイベント抑制効果を見たDELIVER試験では、HRは0.82であったことを鑑みると、0.62のすごさが分かる。実際、DELIVER試験では6263人を登録して2.3年の期間追跡調査をしているが、今回のSUMMIT試験では登録患者数も追跡期間もより短いにもかかわらず、有効性が証明できているのはいかにTirzepatideが強力か、ということを物語っている。
一方で、SUMMIT試験では肥満患者のみを対象としているという点と、EFが5%以上の患者を対象としている、という点がDELIVER試験とは大きく異なる。つまり、SUMMIT試験の方がより対象患者の範囲が狭く、DELIVER試験が広い患者層を対象にしたのに対し、Tirzepatideは「勝てる土俵」で勝負をした(そして予想通りに勝った)、ということになるだろう。
なお、SUMMIT試験ではプラセボ群のイベント発生割合は15.3%であり、DELIVER含め、他のHFpEF対象の試験よりもイベント発症割合は少ない。この辺りは患者層の違いという要素もあるだろうが、リスクがより低い患者を選んだ、ということもあるのかもしれない。
いずれにしても、非常にインプレッシブな結果であった。