GIP/GLP-1 dual agonistのTirzepatideの2型糖尿病予防効果 (NEJM)
Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention | New England Journal of Medicine
要約
背景
肥満は慢性疾患であり、2 型糖尿病を含むさまざまな他の疾患の原因となる。SURMOUNT-1 試験の以前の報告では、糖尿病のない肥満患者において、Tirzepatideの72週投与は大幅な体重を有することが示されている。今回の報告はSURMOUNT-1試験の追加報告であり、肥満とPrediabetesを有する患者における、3年間の体重減少と 2 型糖尿病への進行抑制に対するTirzepatideの有効性を報告する。
方法
本試験は無作為化二重盲検第3相二重盲検第3相試験であり、肥満患者2,539人(うち1,032人はprediabetes)をTirzepatide 5 mg、10 mg、15 mgを投与する群、またはプラセボ群に1:1:1:1に無作為化した。今回の解析では、肥満とprediabetesがある参加者を対象に、治験薬を176週間投与し、その後17週間の休薬期間を設けた。今回報告される主要な副次評価項目は、ベースラインから176週までの体重のパーセント変化と、176 週間、193週間の時点での
2型糖尿病の発症率であった。
結果
176 週時点で、Tirzepatide投与者の平均体重パーセント変化は、5 mg群で-12.3%、10 mg群で-18.7%、15 mg群で-19.7%、プラセボ群では-1.3%であった (プラセボと実薬の比較は全てP<0.001)。また、Tirzepatide投与者ではプラセボ群よりも2型糖尿病と診断された割合は少なかった(1.3% vs. 13.3%、ハザード比0.07、95%信頼区間[CI]0.0~0.1、P<0.001)。治験薬を中止してから17週間後の時点では、Tirzepatide投与者の2.4%とプラセボ群の13.7%が2型糖尿病を発症した(ハザード比0.12、95% CI0.1~0.2、P<0.001)。頻度の高い有害事象は消化管関連で、そのほとんどは軽度から中等度で、主に試験の最初の20週間の用量漸増期間中に発生した。新たな安全性シグナルは確認されなかった。
結論 肥満およびPrediabetesの患者において、3年間のTirzepatide投与により、プラセボ投与時よりも体重が減少し、その効果は3年間にわたって持続し、2 型糖尿病への進行リスクは著しく低下した。
感想
Tirzepatide投与による20%以上の体重減少効果を示して世界に衝撃を与えたSURMOUNT-1試験の、Prediabetesを有する患者に限定した3年間のfollow-up解析であり、予想通りではあるが、Tirzepatideが強力な2型糖尿病予防効果を示した。
今回の試験で見られた、最大-19.7%の体重減少は、72週時点の数値と概ね同等であり、Tirzepatideの効果は3年間にわたって維持された、といえばそうだが、3年間投与しても追加の体重減少はなかった、ともいえる。
Prediabetesから2型糖尿病への進展がTirzepatide投与によって抑制されたのは、体重減少効果とインクレチン作用の両方の観点から考える必要がある。体重減少効果に関してはTirzepatideは肥満手術に比較するとやや弱いが、例えば以下の論文を参照すると、Tirzepatideの2型糖尿病予防効果は肥満手術よりもさらに強いようにも見える (むろん、単純に数値の比較はできない)。
Bariatric Surgery and Prevention of Type 2 Diabetes in Swedish Obese Subjects | New England Journal of Medicine
恐らく、糖尿病発症抑制という点では、Tirzepatideの直接的な血糖改善作用、及び長期で見た場合のβ細胞保護作用が両方、良い影響を及ぼしているのだろうと推測される。
少し懸念なのは、休薬後のリバウンドである。今回の試験では17週間の休薬期間の評価も行っているが、Tirzepatideを止めることで体重はかなりリバウンドしているようにも見え、同時に糖尿病の発症率も上がっているようにも見える。現時点で、肥満患者にGLP-1薬をどれくらいの期間投与すべきか、という点に関しては明確なコンセンサスがない。が、例えばGLP-1休薬後数年たった時点でも糖尿病発症抑制効果は持続しているのだろうか、言い換えれば、Legacy効果があるのかどうか、などは大変興味深い。