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オススメ映画を紹介するよ! 世界はやさしさに満たされているのか?編

勿論ホラーとかサスペンスとかスリラー大好きなんですが、時には優しさに満ち溢れた世界に浸りたいこともありますよね。ということで今回は優しい登場人物が活躍する2作品を紹介します。ただしテーマは一筋縄ではいかないかも。

三日月とネコ

40代の書店員・戸馳灯、30代の精神科医・三角鹿乃子、20代のアパレルショップ店員・波多浦仁。熊本地震をきっかけに出会った彼らは、家族でも恋人でもなく年齢も職業も境遇もそれぞれ異なるが、愛猫ミカヅキを囲んで仲良く共同生活を送っている。いつも一緒に食卓を囲み、時には悩みながらも優しく寄り添ってきた3人の生活は、灯が編集者の長浜一生と出会ったことで次第に変化していく。鹿乃子と仁も、小説家の網田すみ江や牛丸つぐみとの新たな交流を通して自分自身を見つめ直していく。

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熊本地震発生時から物語はスタート。避難した灯(安達祐実)、鹿乃子(倉科カナ)、仁(渡邊圭祐)は何故かシェアハウスして一緒に住むことになります。鹿乃子はおそらくレズビアン、仁はバイセクシュアル、灯は年を重ねながら心に欠落感を抱えていて、そんな3人が気を使うことなく、ネコと一緒に気楽に過ごせる関係性であったことが、不思議な共同生活を成立させているみたいです。灯が作る美味しい料理も3人をつなぐ大切なパートのようで、所謂「丁寧な暮らし」的描写が結構ありました。

書店員の灯は、主催した小説家の網田(小林聡美)のイベントを通して、編集者に惹かれるように。仁も運命の出会いをしたり、鹿乃子はこれもおそらく灯に思いを寄せながらも、それを隠しながら変化に対応しようとしていきます。

この映画、登場人物に悪人はいなくて、基本的に全員優しい人なので、波乱がありながらもみんなが大人な気遣いを見せ、互いを慮った結末を迎えます。だから理想的ではあるものの、そんな上手くいくかいなとも思ってしまったりします。

灯を演じているのが安達祐実なので、モテない設定がリアルでなかったり、マンガ原作をそのまま映像化したいかにもマンガっぽいシーンがあったり、タイトルが「三日月とネコ」の割にネコ様の可愛さが表現しきれていなかったり、気になるところはありますが、かつて眉村ちあきさんの映画のプロモーションで、女優辻凪子さんと漫才をやっていた上村奈帆さんが、監督としてグイグイ成長している(「書くが、まま」とか、「市子」の脚本も!)のを見ることができ、感慨深いです。次回作も期待しています!

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

京都にある大学の「ぬいぐるみサークル」。「男らしさ」や「女らしさ」というノリが苦手な大学生の七森は、そこで出会った女子大生の麦戸と心を通わせる。そんな2人と、彼らを取り巻く人びとの姿を通して、新しい時代の優しさの意味を問いただしていく。

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タイトルとビジュアルだけ見てしまうと、ゆるっとぬいぐるみとおしゃべりする可愛い映画って感じが。実際登場するのはやさしい人ばかりなのですが、それぞれがやさしさ故に悩んだり傷ついたり傷つけたり、結構グサグサと刺さってきて、考えさせられる映画でした。

冒頭から七森(細田佳央太)は告白してきた女の子をやさしさ故に傷つけてしまいます。本人は思いやっているつもりで、相手がどう思うかは考えられていない。あるいは自分はやさしいのに外の世界がやさしくないから自分が傷ついてしまう(と思い込む)。そして傷つきたくないという自己防衛から外の世界を拒絶してしまう。ストーリーを貫く「やさしさ」のあり方が冒頭から提示されるのです。

大学に入った七海は、初日から麦戸(駒井蓮)と仲良くなります。合わせ鏡のような2人は、そのまま「ぬいぐるみサークル(ぬいサー)」に足を踏み入れます。そこはやさしい人たちが集い、ぬいぐるみに向かって自分の悩みや辛さを聞いてもらう場。それだけ聞くと宗教かっ!って思いますが、普通に楽しそうではあります。七海は麦戸といい感じになるのかなって思っていると、突然ぬいサーの白城(新谷ゆづみ)と付き合い始めます。実は白城はぬいサーで唯一ぬいぐるみに喋らない女の子で、物語を動かしていく存在になります。

七海は、セクシュアリティで言えば現在のところアセクシュアル(無性愛)なんだと思います。まず、(友達としてではなく)人を好きになるという感情がわかっていない。それにもかかわらずなぜ白城と付き合いたいと切り出したのかと言えば、人を好きになるという感情が持てるかを「試した」から。だから麦戸ではなく白城に声をかけたとも言えます。おそらく無意識にしたこの行動でも、七海は白城を傷つけているのです。そしてそれに気づいていない。

またある時七海は、地元で友人と出会い、飲み会に参加します。友人のひとりの心無い一言に憤った七海は店を飛び出し、仲の良かった友達に謝罪されるもそれを振り払い歩き続けます。その姿に、「嫌なこと言うやつはもっと嫌なやつであってくれ」という、外の世界と相容れない七海のモノローグが重なります。中盤の印象的なシーンです。

長くなっているのでちょっと端折ると、麦戸は引きこもり、七海が手を差し伸べ、白城は七海を振り、七海の世界観に異議を唱え、七海は引きこもりとなり、麦戸はぬいサーにより立ち直り、七海に手を差し伸べ、ぬいサーは代替わりをします。端折りすぎ。

ラストでぬいサーに新入部員がやってきます。七海は彼に、誰かに、それはぬいぐるみであったり「誰か」であったりするのですが、自分の思いを話すことの大切さを伝えます。また同時に思いを聞くことも大切だと語ります。七海にとっては、それが1年間のぬいサーで得た学びであり、成長でもあったのです。

と、これだけなら悩んだものが傷を舐め合って救われたみたいな評価になるかもしれないんだけど、最後の最後、ここでも白城のモノローグ(なんと言ったかは映画見て!)がかぶさります。ぬいサーで唯一ぬいぐるみと喋らない白城の、世界と対峙していくという決意が、この映画を重層的なものにしています。果たして自分は、どこに位置しているのか。ただ単にやさしさを描いた映画でなく、自分の立ち位置を問われるような作品でした。

キャストについてひとこと。細田佳央太は繊細な七海を好演。麦戸役の駒井蓮、白城役の新谷ゆづみは余り出演作見てなかったけど良かったなあ。なんとなく「ひらいて」の芋生悠、山田杏奈とイメージかぶってエモかったです。

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