その場限りの舞台

寄席に行く。
わたしは落語が好きだ。

落語を聞くのは、お気に入りの映画や本を繰り返し見たり読んだりする感覚に似ているかもしれない。
結末がわかっていても、同じ話を何度でも楽しめる。

また、ある人が落語とジャズは類似しているとも言っていた。
落語はおなじみの話を噺家がその場の雰囲気や自分の思考でアレンジする。
ジャズもバンドのメンバーがその時のフィーリングや自分のポリシーでスタンダードナンバーもアレンジする。
それぞれの演者に色があり、同じ舞台というものはないから楽しいし奥深い。

昔の女性は男性の3歩後ろに下がっていたと聞くけれど、落語にでてくる女性はけっこう強い。
長屋のおかみさんも、吉原の花魁も男性を手のひらの上で転がしている感じがおもしろい。
男性はご隠居のように賢い人もでてくるけど、だいたいの人がちょっと抜けていたり、お酒を飲んだり借金を作ったりして遊んでいる。
そういう人間の愚かさを笑いにしてしまうのが落語であり、なんやかんやで人間って悪くないなという気持ちにさせてくれる。
バカ話だけでなく、人情話もよい。
じっくり聞かせる話芸に、会場は静まり返るけど、最後はわーっと大きな拍手が起こる。
噺家とはすごい職業だと感じる。

ちなみに落語の世界には、実は女性もまあまあぐーたらな人が出てきたりする。

「くまさんちの女将さんはおくゆかしくていいなぁ。うちのかかぁは、毎日ごろごろしながら腹をぼりぼりかいてやがる」
なんてセリフを夫に言われないように、わたしも気をつけなくてはと思う。

ひょんなことで落語が好きになり、寄席に通い始めた20代の頃は、演芸場も人がまばらだったけど、最近は平日の昼間でもけっこう混雑していることが多い。
それが嬉しくもあり、少し寂しくもある。
だけど落語を含めた日本の伝統芸能がいつまでも人々に愛されていてほしい。

東京を離れることで気軽に寄席に行けなくなるのは寂しい。
お気に入りの噺家さんがでてきた時に、
「待ってました!」
「たっぷり!」

などの声掛けができるようになりたかったけど、結局自分の殻を破ることはできなかった。

また行こう。
その時こそは・・・

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