牛乳を買った日のこと

前回は、わたしが目的地までの道がわからない時にどのように周囲の人に声をかけているかという記事を書きました。

行きたい場所に行くために|so-neco1982
https://note.com/sonec82/n/nf660a7b817d5

しかし、もともとが気の小さいわたし。
堂々と人に声をかけられるようになるまでにはいくつか壁がありました。

今回は過去のお話。

わたしが白杖を使った歩行訓練を受け始めたのは中学1年生の頃。
盲学校にはこのようなことも授業に含まれているのです。

白杖の持ち方や基本的な使い方を学んだ後はほとんど実地訓練です。
単純に道を歩くだけでなく、曲がり角や段差、柱など、目印になりうるものを探す練習もします。

当時わたしは学校の寮に入っていたので、
手始めに学校から郵便局までとか、駅までとか、生活に必要な場所を中心に一人で歩けるように訓練してもらいました。

こつを掴むと思ったより順調に歩けるようになり、自分の行動範囲が広がる感覚が楽しかったです。

だけど、壁は意外に早く立ちはだかってきました。

ある日、先生がこんな課題を出してきました。

「学校からコンビニに行き、店員さんに牛乳の売っている場所を聞いて買ってくる。」

コンビニまでは行ける自信がある。
だけどわたしはたじろいでしまいました。

つい最近までは目が見えていたから、買い物をする時も品物を自分で探して買うことができた。
でも、今は確かに自分で探すことはできない。
でもでも、店員さんに声をかけるのは恥ずかしい。
それに、迷惑だと思われるかもしれない。

わたしはいろいろと抗議しましたが、中1が先生にかなうはずはありません。

だけど、すごくいやだ。

わたしはもやもやとした気持ちを抱えながら歩き始めました。

その時、突然先生に怒鳴られました。

「しっかりしろ!!!」

わたしは驚いたけど、気を取り直してまた歩き始めました。

コンビニに着いて、思い切って店員さんに声をかけると、すんなりと牛乳をゲットすることができました。

先生が怒鳴った理由は二つ。
①わたしが、声をかけることをいやがる故に歩行に集中できていなかったから。これは怪我や事故のもとになりますね。
②店員さんに声をかけられるようにならなければ、ずっと一人で買い物をすることができないままだから。

今振り返れば、「そりやそうだ」ってことなんですが、わたしは先生に教えていただかなければ、自分で気づくことはできませんでした。

一度できるようになってしまえば、なんてことなかったんです。
その後は、放課後に一人でコンビニに行っておやつを買ったり、
人に道を聞きながら初めての場所に行ってみたり、
一緒に出かける友人ができると、ファミレスでメニューを読んでもらったり、
ドリンクバーから飲み物を持ってきてもらったり、
寿司屋に入ってラーメン屋の場所を聞いたり、
どんどんずうずうしくなってここまできました笑

目が見えていても、品物の場所がわからなければ店員さんに聞いたりしますよね?
わからないことは人に聞くのは悪いことではないですよね?
だけど、自分も含めてですが、急に視力が落ちたり全盲になりたての人は、これが意外に壁になったりするんです。

一番は、迷惑に思われたらどうしよう、みたいな気持ちがわいてしまうからでしょうか。
これまでできていたことができなくなったことによる劣等感が生まれてしまうこともあります。
今でもわたしの中にその気持ちがないわけではありません。
実際、どうにもならない拒否をされたことも多々あります。
でも、そこで殻に閉じこもってしまったら自分の行動範囲は狭くなっていくだけです。

人の力を借りながら生きることを受け入れて、場数を踏んでずうずうしくなっていくことが楽しく生活するための近道なのです。

わたしは、一緒に知らない場所でも探検気分で出かけて、
ちょっとしたアクシデントも笑い話にできるような友人がいたから、
ともに成長することができて今があるように思います。

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