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Integration 統合



わたしのツインレイは
去年の5月に亡くなった。

亡くなる2週間前に、
わたしは彼の部屋にいた。

雨が降る早朝、
彼は機嫌を悪くして

わたしに出て行けと
言った。
彼は頑固な性格なので、

一度言い出したことは
曲げないと言うことを

わたしは知っていた。
だから、そのまま部屋を
出た。

傘もないまま雨に濡れて、
早朝のコンビニで傘を買い

濡れた服をコンビニのトイレで着替えていた。

電話が鳴った。
彼からだった。

「戻って来い、鬱陶しい
今夜は泊めてやる」

口が悪い彼の精一杯の
優しさだと分かっていた。

それと同時に、
彼がわたしに酷いことを言ってしまったと言う後悔から、そう言ってくれたのも分かっていた。

しかし、
わたしは彼を振り切った。

振り切らないと
わたし達はダメになる。

お互いがお互いに
もたれかかる、

共依存になりかかっている。

わたしは彼の命が、
残り少ない事を知っていた。

もし、彼がひとりで
亡くなるとしても、

ひとりにさせて
悲しみに暮れるとしても、

わたしは彼の人生に
これ以上介入しては
ならないと感じた。

「ありがとう
優しくしてくれて
でもね、わたし
やはり帰るよ」

ありがとう
ありがとう…

2回言って電話を切り、

泣きながら流しのタクシーに乗り込み、最寄駅まで
行った。

兵庫県の片田舎から
都内まで、電車と新幹線を
乗り継ぎ帰った。

疲れた、と思った。

一年間、月に一度
一回兵庫に行くたびに、
2週間以上滞在した。

癌とアルコール依存に
罹患している彼の

食事補助に通っていた。

食事だけではない
アルコール依存の恐怖障害
に怯える彼の傍らで、

彼の人生の全ての話を
じっと聴いていた。

時折、2人で笑いながら、
YouTubeでお笑い動画を
見た。

笑いのツボが似ていたから
笑い合っている時は、

彼が重篤な病気に罹患している事を忘れた。

彼は時折、冗談のように
結婚しようと言った。

わたしは彼に会うまでに
既に離婚を経験しているので、結婚をしたいと言う彼の言葉は重かった。

結婚しなくても、一緒に居られれば良い。

一緒に居られなくても
時々こうして2人で、

笑いながら過ごせる
時間が有ればいい。

そう思っていた。

彼は死なない。
死ぬわけがない。

そう信じていた。

いつか、彼が病気が治って
2人で神戸の南京町や
須磨の海岸を歩いている。

そう言うシュチュエーションを何度も繰り返し
想像していた。

わたし達は須磨の海岸にいる。
彼は釣り竿を持っている。

彼は海が好きだから、
釣りをしてのんびり暮らしたい。

いつもそうわたしに言う。

いつか、ふたりで釣りに行くこと。

そんなささやかな生きる希望を抱えて、

わたし達は時を過ごす。


都内に帰ってから、
わたしは死んだように
眠った。

彼の電話を着距にした。

少し自分の事を考える時間が欲しかった。

わたし達は互いに依存するわけにはいかない。

依存して、お互いを駄目にしてはいけない。

それがわたしの彼に対する
精一杯の愛情だった。

電話はいつか来るはずだった。

しかし、2か月経っても電話は来なかった。

わたしは彼に手紙を書いた。

彼はおそらく、自宅療養から、入院に切り替わっているはずだ。

わたしはそう信じていた。

7月のある日、見慣れぬ文字の封筒がポストに届いた。

彼のお母さんからだった。

彼は5月3日に亡くなり
四十九日も終えた。

と、その手紙には書いてある。

手紙には、住所が記載されていなかった。

彼が神戸のどのお寺に埋葬されたかもしらない。

知らなくていい。
そう思った。

彼はわたしの中にずっと前から居る。

彼が亡くなる辺りから
わたしは感じていた。

背中が暖かく
柔らかいもので

ふんわりと包まれている
ような感覚が、ずっと続いていたからだ。

彼の不器用な愛をわたしは
皮膚感覚で捉えていた。

しかし、

そうは言っても

愛する人を失った
悲しみは相当のものだった。


彼が亡くなった事実が、
わたしには夢のようだった。

いや、彼は死んでいない。

時折、わたしにテレパシーを送ってくる。

「お前は何にもできないものなあ、俺がお前を守ってやるからもっと俺に頼れよ」

とても大きな愛情を持っていた人だった。

そして、それを言葉で表現するのがとても下手だった。

「言わなくても分かっているだろう?」

彼の思念がダイレクトに伝わって来る。

わたしは毎日、泣き、
毎日タロット占いの動画を見て

亡くなった彼との恋愛を
続けて来た。

ある日、夢を見た。

彼が、麦わら帽子を被って
笑っている夢だった。

「死んだのは冗談だよ」

そんな笑顔だった。

「心配するな、俺がいつお前から離れると言った?
俺はお前から離れない
離れているように感じるのはお前の勝手だ」

「何があってもお前を守る
お前を守るために、俺はずっとお前を探していたんだ
世界中旅して、お前を探して、たった500キロの至近距離にお前がいたなんて、灯台下暗しだった、と言っていただろう?」

亡くなって8か月以上経った今、わたしにはある異変が起こっている。

元々、皮膚感覚が異常に鋭いのだが、その皮膚感覚の内側の細胞のひとつひとつに、目には見えない粒子が流れ込んでいるような奇妙な感覚に襲われている。

細胞ひとつひとつに
異分子が入り込むような感覚だ。

それと共に、毎日眠くてたまらない。

食欲が出て、今までの倍以上は食べている。

それなのに、そんなに太る事がない。

この感覚は何かに似ている。

そう、妊娠して安定期に入った時の感覚にそっくりなのだ。

奇妙な、マタニティブルーのような、どこか懐かしい場所に帰りたいような感覚もある。

わたしにはどこにも帰るところなど無いはずなのに。

違う。

わたしは
確かに帰りたい。

わたしは、彼の元に帰りたいのだ。

彼と過ごした、笑い合っていた懐かしい時間に帰りたいのだ。

「眠りな、今すぐ帰れるから」

彼の声が思考に届く。

そうか、わたしが眠っていたのは、彼のいる場所に
行っていたからなのか。

それで全てが分かった来た。

わたし達は、緩やかに統合し始めているのだ。

わたしの魂と彼の魂の波動が、細かい粒子となって入り乱れ始めているのだ。

どの粒子がわたしでどの粒子が彼かわからない。

光の粒が、ゆるゆると混じり合い、美しい輝きになってわたし達はひとつになる。

それは常に流動的で変化し続けている。

統合とは、固定されたある時点で固まり合うことではない。

お互いの波動が入り混じって光となって、お互いの魂が輝き出すことなのだ。

ツインレイの片割れが亡くなっても、統合はできる。

わたしはわたしのインナースペースで、静かにわたしと彼の統合を見守って居る。

再び、互いが新たな生を受けた時、わたしたちはもう迷わないだろう。

お互いがお互いを瞬時に見つけ出し、

新しい人生を2人でクリエイトしていく。

既に、
多元宇宙では

わたし達は出会っているのかもしれない。

そして、今という不確定な
時間にとどまるわたしの
未来を

確約しているのかもしれない。


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