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ロータス・イン・L

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わたしは、少女の頃
友達がいなかった。


学校、と言う所に
行ってみたけれど、

そこは、わたしにとって、
見えない柵に囲まれた

監獄みたいな場所だった。


わたしは、学校に行かなくなった。

一日中本を読むか、
庭で花を見て、花と会話していた。


そんなわたしを見かねた
お母さんがある日、


ミニウサギを
買ってくれた。


ちっちゃくて、

綺麗なブラウンで


お菓子みたいな色
だったから、

ラスクって名付けた。


ラスクは大きくなるにつれて

濃いダークブラウンに
変わった。


ラスクじゃなくて
ショコラになった。


ある日。

ラスクは
突然、死んでしまった


原因はわからない。

可愛いがり過ぎて
構い過ぎて、

ストレスで死んだのかも
しれない。


わたしは泣いた。


泣きながら、庭の花壇の
隅に穴を掘った。

深く深く掘った。


そうやって絶望感に浸りきりながら
穴を掘っているとき、


誰かがわたしに声を掛けた。


「そんなに泣かなくても
いいんだよ」


泣いていた顔を上げて
後ろを振り返る。


そこには
背の高いひょろっとした

少年が立っていた。

「僕はエル」

少年はそう言って

はにかみながら、
少し微笑んだ。


「どうして泣いてるの?」

少年はわたしに尋ねた。

「ウサギが死んだから」

わたしは泣いて腫れあがった目で、

彼を見た。


「ウサギは死んで無い」

少年はキッパリと
断言した。

「ウサギはね、死んだんじゃ無いの。

これから、花に変容するんだよ」


「変容って何?」

わたしは

わたしの
知らない言葉を
使う少年に、
興味を抱いた。

「蛹が、蝶に変わるようなものだよ」

さらりと、少年は言った。

「ウサギが、花になるの?」

「そうだよ。だからキミは
花壇にウサギを入れる穴を掘っているんだろう?」


「違うよ、お墓だよ。お墓には花を添えるから、お花が咲いてる花壇にお墓を作るんだよ」

「キミは正しい」

少年はそう言って、
わたしの頭を撫でた。

「これからは、僕がキミの友達だよ。

ウサギを花に変える魔法をかけよう」

そう言って少年は、更に深く穴を掘り、ウサギの亡き骸を葬ってくれた。

「お祈りをしよう」

そう言って少年は
お祈りの言葉を口にした。

「全ての生命体、非生命体は宇宙の

創造物なり。

宇宙の広大な変化の海に、このウサギの魂を捧げん」

それからウサギに土を被せ、

彼は、履いていたジーンズのポケットから何かを取り出して、

手のひらでくしゃくしゃと揉み解した。

手のひらを開くと
そこには、ピンク色の
蓮の花があり、

少しずつ美しく花ひらいていった。

少年は、ウサギを埋めた場所に、軽くその花の茎を刺した。

「この花は、キミと僕にしか見えない特別な花なんだ」

彼がそう言うと、
そのピンク色の蓮は
やがて白っぽい金色の光に包まれて行く。

わたしはエルと
友達になった。

ウサギは、きっと
自分の体の代わりに

エルをわたしに与えてくれたのだ。















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