【和訳】国際司法裁判所 勧告的意見 パレスチナ被占領地におけるイスラエルの政策および慣行から生じる法的帰結(プレスリリース2024/57)
国際司法裁判所(ICJ)は7月19日、イスラエル国によるパレスチナ占領政策が国際法違反であるとの勧告的意見を発表した。
以下、ICJが公開している本勧告的意見のプレスリリース版(Press Release 2024/57)の和訳を掲載する。なお、見出しを除く太字は訳者による強調である。
本プレスリリースの英・仏語版、ならびに勧告的意見本文(Advisory Opinion of 19 July 2024)および要約版(Summary 2024/8)は以下のページで閲覧できる。
Legal Consequences arising from the Policies and Practices of Israel in the Occupied Palestinian Territory, in (icj-cij.org)
本勧告の扱う範囲について、以下に注意すること。
・本勧告では「1967年にイスラエルによって占領されたパレスチナ領土全体」を扱っている。これには東エルサレムおよびガザ地区が含まれており、ガザ地区にも依然占領法が適用されることも確認している。(この詳細は勧告的意見の原文参照のこと)
※イスラエル側はガザ地区に軍の駐留や入植地が無いことを以て「ガザを占領していない」と主張することがある。この主張に対抗する国際司法の見解が示されたことになる。
・本件は、2023年10月7日以降のイスラエルによるガザ地区攻撃の影響は考慮されていない。
→すなわち、10月7日よりずっと以前からイスラエルは不法にパレスチナ領を侵犯していたという結論である。
・本勧告的意見は対イスラエルのみならず、「すべての国家」「国際機関」に対してもイスラエルの不法占領に加担しない義務を確認している。
以下訳文
プレスリリース(非公式)
2024/57
2024年7月19日
東エルサレムを含むパレスチナ被占領地におけるイスラエルの政策および慣行から生じる法的帰結
裁判所による勧告的意見の発表および総会が提起した質問への回答
2024年7月19日、ハーグ。国際司法裁判所は本日、東エルサレムを含むパレスチナ被占領地におけるイスラエルの政策および慣行から生じる法的帰結に関して、勧告的意見を述べた。
2022年12月30日、国際連合総会は決議A/RES/77/247を採択し、同決議において、国際司法裁判所規程第65条に言及し、国際司法裁判所に対し、以下の質問について勧告的意見を述べるよう要請したことを想起されたい。
「(a)イスラエルによるパレスチナ人の自決権の継続的侵害、1967年以来占領されているパレスチナ領土の長期にわたる占領、入植、併合(聖地エルサレムの人口構成、性格および地位の変更を目的とした措置を含む)、および関連する差別的な法律と措置の採用によって生じる法的帰結は何か。
(b)上記…で言及されたイスラエルの政策および慣行は、占領の法的扱いにどのように影響を及ぼすのか。また、この法的扱いからすべての国家と国際連合に生じる法的帰結は何か。」
勧告的意見において、裁判所は総会が提起した質問に対し、次のように結論づける。
- イスラエル国がパレスチナ被占領地に存在し続けることは違法である。
- イスラエル国は、パレスチナ被占領地に違法に存在することを可能な限り速やかに終結させる義務を負う。
- イスラエル国は、すべての新たな入植活動を直ちに中止し、すべての入植者をパレスチナ被占領地から退去させる義務を負う。
- イスラエル国は、パレスチナ被占領地において関係するすべての自然人または法人に生じた損害を賠償する義務を負う。
- すべての国家は、パレスチナ被占領地におけるイスラエル国の違法な存在から生じる状況を合法と認めず、パレスチナ被占領地におけるイスラエル国の継続的な存在によって生み出された状況を維持するための援助や支援を提供しない義務を負う。
- 国際連合を含む国際機関は、パレスチナ被占領地におけるイスラエル国の違法な存在から生じる状況を合法と認めない義務を負う。
- 国際連合、特に意見書を要請した総会、また安全保障理事会は、パレスチナ被占領地におけるイスラエル国の違法な存在を可能な限り速やかに終結させるために必要な、明確な方法とさらなる行動を検討すべきである。
裁判所の論拠
裁判所は、要請された意見を述べる管轄権を有し、意見を述べることを拒否するやむを得ない理由はないと結論づけた(第22~50パラグラフ)後、本件の概略的背景を説明し(第51~71パラグラフ)、総会が提起した2つの質問の範囲と意味を取り上げる(第72~83パラグラフ)。
続いて裁判所は、質問(a)で述べられたパレスチナ被占領地におけるイスラエルの政策および慣行が、国際法上の義務に適合しているかを評価する。特に、長期占領の問題、イスラエルの入植政策、1967年以来占領されているパレスチナ領土の併合問題、差別的とされるイスラエルの関連法律と措置の採用について、順を追って分析し、検証する(第103~243パラグラフ)。
57年以上続くパレスチナ被占領地の長期占領の問題(第104~110パラグラフ)に関して、裁判所は、国家は占領国としての地位により、実効的支配を行う領土に関して一連の権限と義務を負うと指摘する。これらの権限と義務の性質と範囲は常に、占領とは軍事的必要性に対応するための一時的な状況であり、占領国に主権を移譲することはできないという同じ前提に立っている。
裁判所の見解では、占領が長期化すること自体は、国際人道法上の法的扱いを変更するものではない。占領の一時的な性格を前提としているとはいえ、占領法は、占領の法的扱いを変更するような時間的制限を設けていない。占領とは、国家が外国の領土において実効的な支配を行使することである。したがって、このような実効的支配の行使が許容されるためには、武力による威嚇または武力の行使の禁止に関する規定(武力による威嚇または武力の行使に起因する領土の取得の禁止を含む)および自決権を常に順守していなければならない。したがって、占領が長期化することは、占領地で占領国が継続的に存在することの国際法上の正当性に関係する可能性がある。
イスラエルの入植政策(第111~156パラグラフ)に関して、裁判所は、2004年7月9日付の「パレスチナ被占領地における壁建設の法的帰結に関する勧告的意見」で述べたとおり、ヨルダン川西岸地区および東エルサレムにおけるイスラエルの入植地とそれに関連する体制は、国際法に違反して設立され、維持されていることを再確認している。裁判所は、2004年の勧告的意見以降、イスラエルの入植政策が拡大しているとの報告に、重大な懸念をもって留意する。
パレスチナ被占領地の併合の問題(第157~179パラグラフ)に関しては、東エルサレムおよびヨルダン川西岸地区でイスラエルが採用している政策や慣行が示すように占領地に関する主権を獲得しようとすることは、国際関係における武力行使の禁止および武力による領土の取得禁止という付随原則に反するというのが裁判所の見解である。
裁判所は次に、イスラエルによる関連する差別的な法律と措置の採用から生じる法的帰結について検討する(第180~229パラグラフ)。裁判所は、イスラエルが占領国として採用した広範な法律と措置は、国際法が規定する根拠に照らして、パレスチナ人を差別的に扱っていると結論づけた。裁判所は、このような差別的な扱いは、合理的かつ客観的な基準によっても、正当な公共的目的によっても正当化できないと指摘する。したがって、裁判所は、イスラエルがパレスチナ被占領地のパレスチナ人に課している包括的制限の制度は、特に人種、宗教、民族的出身に基づく制度的差別であり、市民的および政治的権利に関する国際規約第2条第1項および第26条、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約第2条第2項、ならびにあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第2条に違反するとの見解を示す。
裁判所は次に、質問(a)のうち、イスラエルの政策および慣行がパレスチナ人の自決権の行使に及ぼす影響を問う側面に目を向ける(第230~243パラグラフ)。この点に関して、裁判所は、数十年にわたるイスラエルの政策と慣行の結果として、パレスチナ人は長期にわたって自決権を奪われており、こうした政策と慣行のさらなる長期化は、将来におけるこの権利の行使を損なうものであるとの見解に立つ。以上の理由から、裁判所は、イスラエルの違法な政策と慣行は、パレスチナ人の自決権を尊重するイスラエルの義務に違反していると考える。
質問(b)の前半に関して、裁判所は、国際法の関連する規則と原則に照らして、イスラエルの政策と慣行が占領の法的扱いに影響を及ぼすかどうか、また影響を及ぼす場合、どのような影響を及ぼすかを検討する(第244~264パラグラフ)。
この点に関し、裁判所はまず、質問(b)の前半は、イスラエルの政策と慣行が占領の法的扱いに影響を及ぼすかどうかということではないと考える。むしろ裁判所は、質問(b)の前半の意味は、イスラエルの政策と慣行が占領の法的扱いにどのような影響を及ぼすか、ひいては占領国としてパレスチナ被占領地にイスラエルが存在し続けることの合法性に関わるものであるとの見解を示す。この合法性は、国際連合憲章を含む一般国際法の規則と原則に基づいて決定される。
この観点から、裁判所は、イスラエルによる主権の主張と領土の特定部分の併合は、武力による領土取得の禁止に対する違反であるとの見解を示す。この違反は、占領国としてパレスチナ被占領地にイスラエルが存在し続けることの合法性に直接的な影響を及ぼすものである。裁判所は、イスラエルは占領を理由として、パレスチナ被占領地のいかなる部分に対しても、主権も主権を行使する権利も有していないと考える。また、イスラエルの安全保障上の懸念も、武力による領土取得禁止の原則を覆すことはできない。
裁判所はさらに、イスラエルの政策と慣行の影響、およびパレスチナ被占領地の特定の部分に対するイスラエルの主権行使は、パレスチナ人による自決権の行使を妨害するものであると指摘する。このような政策と慣行の影響には、イスラエルによるパレスチナ被占領地の一部の併合、当該領土の分断、その完全性の低下、パレスチナ人による領土の天然資源の享受の剥奪、パレスチナ人の経済的、社会的、文化的発展を追求する権利の侵害が含まれる。
裁判所は、イスラエルの政策と慣行が上記のような影響を及ぼし、その結果、とりわけパレスチナ人の自決権が長期にわたって剥奪されていることは、この基本的権利の侵害に当たるという見解に立つ。この侵害は、占領国としてパレスチナ被占領地にイスラエルが存在することの合法性に直接影響を及ぼす。裁判所は、占領地の一部を占領国の領土に統合する一方で、占領された住民をいつまでも留保的で不確実な状態に置き、自決権を否定するような方法で占領を行うことはできないという見解である。
以上を踏まえ、裁判所は、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの継続的存在の合法性を検証する(第259~264パラグラフ)。
裁判所は、イスラエルが武力による領土取得の禁止とパレスチナ人の自決権を侵害していることは、イスラエルが占領国としてパレスチナ被占領地に存在し続けることの合法性に直接的な影響を及ぼすと考える。併合とパレスチナ被占領地に対する恒久的な支配権の主張、そしてパレスチナ人の自決権に対する継続的な妨害を通じて、イスラエルが占領国としての地位を持続的に濫用していることは、国際法の基本原則に違反し、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの存在を違法なものにしている。
この違法性は、1967年にイスラエルによって占領されたパレスチナ領土全体に関するものである。この領土全体において、イスラエルは分断およびパレスチナ人の自決権行使能力を妨害する政策と慣行を課し、またこの広範な部分について国際法に違反してイスラエルの主権を拡大してきたのである。またパレスチナ被占領地全体は、パレスチナ人が自決権を行使できるべき領域でもあり、その完全性は尊重されなければならない。
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裁判所は、質問(a)で言及されるイスラエルの政策および慣行は国際法に違反していると認定した。これらの政策および慣行を維持することは、イスラエルの国際的責任を伴う継続的な違法行為である。
裁判所はまた、質問(b)の前半に対する回答として、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの継続的な存在は違法であると判断した。よって裁判所は、質問(a)で言及されるイスラエルの政策および慣行からイスラエルに生じる法的帰結と、質問(b)で言及されるイスラエルのパレスチナ被占領地における継続的存在の違法性からイスラエル、他国、国際連合に生じる法的帰結を併せて述べる(第267~281パラグラフ)。
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SALAM裁判長は裁判所の勧告的意見に宣言を付し、SEBUTINDE副裁判長は裁判所の勧告的意見に反対意見を付し、TOMKA裁判官は裁判所の勧告的意見に宣言を付し、TOMKA裁判官、ABRAHAM裁判官、AURESCU裁判官は裁判所の勧告的意見に共同意見を付し、YUSUF裁判官は裁判所の勧告的意見に個別意見を付し、XUE裁判官は裁判所の勧告的意見に宣言を付し、岩澤裁判官とNOLTE裁判官は裁判所の勧告的意見に個別意見を付し、NOLTE裁判官とCLEVELAND裁判官は裁判所の勧告的意見に共同宣言を付し、CHARLESWORTH裁判官とBRANT裁判官は裁判所の勧告的意見に宣言を付し、GÓMEZ ROBLEDO裁判官とCLEVELAND裁判官は裁判所の勧告的意見に個別意見を付し、TLADI裁判官は裁判所の勧告的意見に宣言を付す。
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勧告的意見の要約版の全文は、「Summary 2024/8」と題する文書に記載されており、その文書には宣言および意見の要約が添付されている。この要約と勧告的意見全文は、裁判所ウェブサイトの本件に関するページに公開されている。
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本件に関する過去のプレスリリースも同ウェブサイトに公開されている。
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注:当裁判所のプレスリリースは、当裁判所の記録事務室が情報提供のみを目的として作成したものであり、公式文書ではない。
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国際司法裁判所(ICJ)は国際連合の主要な司法機関である。1945年6月に国際連合憲章によって設立され、1946年4月に活動を開始した。国際司法裁判所は、国際連合総会と安全保障理事会により選出された15人の裁判官で構成され、任期は9年である。裁判所の所在地はハーグ(オランダ)の平和宮である。同裁判所には2つの役割がある。第一に、国際法に従い、各国から提出された法的紛争を解決すること、第二に、正式に権限を与えられた国際連合機関および国際連合システムの諸機関から付託された法的問題について勧告的意見を述べることである。
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情報部
モニク・レガーマン(裁判所一等書記官、部長):+31 (0)70 302 2336
ジョアン・ムーア(情報担当官):+31 (0)70 302 2337 Eメール:info@icj-cij.org
訳 Yuko
自給自足と国際共同生活をベースにした学校で働いています。以前は都内の某法律事務所で5年間、翻訳パラリーガルをしていました。キリスト者として、イスラエル国によるパレスチナ人の殺戮と抑圧に抗議する責任を感じています。正直な言葉、音楽、踊ることなどが好きです。