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そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第1章 旅立ち編 2】

前話はこちら↓


ーリビングー


朝食の香りが漂っている

いい匂いだ


「おう勇者、おはよう」


…おはよう父さん


「なんだ朝から気だるそうな顔して」


元々、俺はこういう顔だよ


「まぁいい、新聞を持ってきてくれないか?それか魔王を倒しに行ってこい」

新聞を持ってくる  ◀
魔王を倒しに行く


「頼んだ、早くしてくれよ」


あんた息子を何だと思ってるんだ


ー玄関先ー


やれやれ…人使いが荒い


マサアキはポストを調べた!】


【マサアキは新聞を手に入れた!】


父さんに渡す前に軽く読んでおくか


【マサアキは新聞を使った!】


【──魔王ゼジル、またも結界に魔力を割き疲労困憊か、寝たきりを確認──



またか…


──魔王ゼジル


俺が生まれるよりもずっと前、それこそ100年以上も前に突如この世界に現れた魔族の王

狙いは全人類の撲滅、魔族による世界の統括

いかにも魔王だ



や、順を追って説明するはずだったのだが申し訳ない

新聞の見出しが魔王に関する記事だったんでな

なので、悪いがここでまた一つ聞いてくれ

俺が今まで旅立て旅立てと周りから言われても頑なに拒んで来たのには二つの理由がある

まぁ…行けと言われて二つ返事で行くというやつもいないだろうが


一つ

誰がなんと言おうが俺は普通の村人だから

特別な力なんて何もないから

あるのは仕事の手伝いでつちかった無駄に持て余した腕力だけ


いいよ?魔族が腕相撲とかしてくれんなら


いいよ?魔族の群れに遭遇しても「先輩、自分中等部の頃からウエイトやってたっす!ここは行かして下さい!」とかノッてくるんなら


いるかぁ、そんな魔族が

勇者マサアキは力を溜めている!とかやっている間に全滅すること山のごとしだろ

旅立ったところでソッコー死ぬ。これがまず一つ



二つ目、もうさっきので薄々勘づいてると思うが

魔王ゼジル、こいつな?

めちゃめちゃ臆病なんだよ…



【マサアキは新聞を使った!】

【──やはり五重の結界は無理があるか、1層目がゲル状であることが判明──】


ビビりすぎだろ


そう、奴はその盛大な魔力の大半をセキュリティ面に注ぎ込んでしまう事で有名なのだ

というより気が小さい事で有名


五重の結界なんて日常茶飯事さはんじ、門前には地獄の人喰ひとぐい犬ケルベロキラーを200頭配置し城の近くの空域には人喰ひとぐい鳥ブラッドドラゴンを50羽待機させ、地中には人喰ひとぐ土竜どりゅうレッグミリオンを20体忍ばせ、当然城の内部も魔力による仕掛けを幾多いくたにも施し外部との連絡網は全て遮断、取材インタビューなど言語道断さらにはセールス、チラシお断りと異常なまでの徹底ぶりだ

お城を守る魔物達
左からケルベロキラー、ブラッドドラゴン、レッグミリオン


んで、結果今回のように魔力を使い過ぎて寝込むのが大抵のお決まりとなっている

本末転倒とはこの事だ



ここで一旦、根本的な話に戻ろう

俺はマサアキ、不本意だが勇者だ

いや、勇者じゃねーけどこの話の便宜上な

そして魔王ゼジル、世界を脅かす悪の元凶だ


勇者の使命は魔王を倒し、危機にひんした世界を救うこと





うん……





もう倒れてんだろうが


倒れ倒してるだろうが、行く意味あるかこれ?

勝手に現れて魔力の使いすぎで勝手にくたばって?そんでお城に引きこもって?100年も?

なんじゃこいつ、何がしたいんだよ

これ以上倒しようあんのか?


少なくとも俺が周りからはやし立てられて、焦って行くまででもないわ




といった、そんなわけで俺はこれまでの選択を魔王を倒しに行く以外を選ぶことでかわし続けてきたんだ

そして勿論今後も旅立つ事は無いだろう

これから波乱万丈の大冒険を期待させているところすまないが

何度だって言う

俺村人だから、魔王と何の因縁もないの


ごめんね


ーリビングー

はい父さん


マサアキは新聞を渡した!】


「何だ遅かったな、どうかしたのか?」


ちょっとね


「ふーん…ま、飯食えよそれか魔王を倒しに行ってこい」

ご飯を食べるよ     ◀︎
魔王を倒しに行く


「ん、さっさと食え」


ストレスが溜まる…


「あ、勇者!食べたらさっきのお使いよろしくねそれか魔──」

卵を調達する        ◀︎
魔王を倒しに行く


「わかっているならいいわ」


俺は愛されているのだろうか?


ふぅ…おちおち飯も食えないな、ほんと


ピッ
マサアキはリモコンを使った!


【テレビが起動した!】


『皆さんおはようございます!世界の情勢丸わかり!"朝一番の魔法”のお時間です!進行は私、MCのエルナと魔族、魔物の生態に詳しい評論家アーサー・ライトさんでお送りします。アーサーさんよろしくお願いします!』


『よろしくお願いします』


お、ナイスタイミング、アサマホー


『えーでは本日はまず、マギア指数に関する重要なお知らせからです』


『最近、魔族の生存に必要不可欠とされる特殊な元素《マギア》の散布量、こちらが減少傾向にあるという報告が増えています。これは魔族にとっては大問題ですが…アーサーさん、我々人間にとっては朗報と捉えてよろしいのでしょうか?』


『そーですねぇ、まぁ一概には言えませんが、前提として魔族は空気中に含まれるマギアを体内に取り込まないとこの世界に存在できませんから。ひとまずは朗報と言えるでしょうねぇ』


『原因としては何が考えられるのでしょうか?』


『一つ確実に言えるのは、魔王ゼジルが結界生成にたくさんの魔力を使っているからですねぇ。今朝も速報が出ていましたが』


『これは人間も同様ですが、魔族は通常マギアを体内に取り込み、それを自身の体内で魔力に変換することで、魔法を始めとする様々な術を行使します


『なので多大な魔力を消費するであろう結界の生成により世界全体のマギアの総量が減るのは、ある種自然な事でしょう。要は無駄遣いなんですよ』



『なるほど、ではこの状態が続いて行けば今後はどのような展開が予想されるのでしょうか?』


『まぁ人間と魔族、どちらにも大した動きが見られない場合、まず間違いなく人間側の勝利でしょうね。持久戦みたいなもので、マギアが尽きて魔族の全ては消滅するでしょう』


キタキタキタコレ!

おい100万回聞いてくれよ、父さん母さん

専門家が行く必要無いってさ、そのうち魔族サイドが勝手に自滅するって


「えぇ?何?ややこしい話は母さんちっとも分かんないわよ?マギアがどうとか」


そこに何の理解もせず息子を脳死で送り出そうとしてんのかよ。おっそろしいな

ほらほら、父さんはテレビの言ってること分かるだろ?てかテレビで情報収集してるわ俺

どんな勇者だ


「んん?まぁそうだなぁ魔王、かっこいいよなぁ倒せたら。父さんももう少し若かったらなぁ〜、はは!」

「それよりお茶を淹れてくれ勇者、それか魔──」

お茶を淹れる     ◀︎
魔王を倒しに行く


「うむ」

うむじゃねぇよ、新聞やぶんぞクソジジイ



『しかしそこまで人間優位の中、世の中には魔王打倒を掲げる人達もたくさんいますよね?そこには何のメリットがあるのですか?』


『魔王ゼジルを倒すことで統率を失った魔族は魔界へ帰ると言われていますねぇ。つまり現在魔族に支配されている町や村、これから襲撃を受けるであろう場所の絶対数を減らすことが出来ると考えられています』


『なるほど〜、確かにこうしている間にも今まさに魔物や魔族に襲われている人達もいる訳ですものね』


「ほらやっぱり!必要なことなんじゃない。迷惑してるんだってみんな、辞めさせてきてちょうだいな」


そんな職場の厄介者にちょっと苦言を、みたいな感じでいけるか


『えぇ、しかしそれはほんの一部の崇高な思想を持った人達だけで、実際にはこの機会に弱り切った魔王ゼジルに付け込んで、一攫千金を狙う輩が大半というのが実情です。莫大な富と名声が手に入りますから』


「かか、金!?金だぞマサアキ!やった!息子が魔王倒して人生いっちょ上がりだ!父さんと母さんを豪邸に住まわせてくれ!行って来い早く!」


あぁ…父さんが終わってしまった…

そんなとこだけ反応良いの嫌だなぁ


『はぁ〜、それでは今後もこの調子が続けば魔族全体もどんどん弱体化し、新たに魔王を倒しに行こうという人たちが増えるかもしれませんね』


『えぇ、私達でも倒せてしまう時代が来るかもしれませんよ?』


『ははは!またまたご冗談を』


『はい、そんなところでこれからもこの重要な問題については最新情報が入り次第随時お届けします。以上、マギア指数に関するお知らせでした』


……………


「勇者、ご飯冷めてるわよ」


はぁ〜…


はいはい…


〜To be continued〜

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魔王を倒しに行く

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