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そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第3章 ラスン救済編 17】

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ーラスン 修道院ー

「まずい……」

ウロウロ…
【ウマオは修道院の周りを調べている!】


「……まずいっす…グリル君がいない」

「皆さんの対応に追われて、全く気に掛けてなかった」

「こんなに探しても居ないなんて……まさか着いて行ってないっすよね。やばい、もしそうならマサアキさんにどやされる…!」

「今から確認しに……いやでも……」

「あぁ…!もうどうしたら……!」


「「「馬のおじさーんッ!!」」」


「ん?あれは……村の子供達じゃないっすか」


「はぁ…!はぁ…!リリアルお姉ちゃん、いる?」


「あぁはい、先程まで少し暴れてて、落ち着いたのか酒が回ったのか分かんないっすけど、今は中でぼーっとしてるっす……どうかしたんすか?」


「あのね!?マサ何とかさんが…!」

「そう!…たいへんなの!」


────

────────

──────────────


ー修道院 食堂ー


ガシャア…!!
【リリアルはふらついて棚を倒した!】

「あぁ…もう!ちょっとまた!リリアルさん!」


フラフラ…
「…離して下さいウマオさん…私は行かなくてはなりません…」


「そんな千鳥足かましてる人に行かせるわけにはいかないっすよ!」


「…甘いことを言っている場合ではありません…子供達の話が本当ならばじっとなどしていられにゃいのですから…」


「いやだってほら!まだ少し酔っ払ってるじゃないっすか!」



「───え!?それは本当っすか?マサアキさんが!?」


「うん、なんかボコボコにされて…」
「あとちっちゃい子もいたけど……多分その子も」


「ちっちゃい子って、グリル君すか!?」


「うん、多分」


「そんな……何でまたそんな無茶をあの人達は…立ち向かわないでと言ったのに…」


「でも村の皆はおかげで助かったんだよー?」
「そうそう!今日はみんなのごはんとか、持って行かれたのもそんなになかったの!」
「お願いおじさん、お礼言いたいから助けてあげて」




「……まさかこんな事になるなんて……やはり、行かせるべきじゃなかったんすかね」


「…大丈夫ですウマオさん…私が何とかしますから…あなたは何もご心配なさらずに…」


「いいから一旦座ってください!またあちこちにぶち当たるっすよ!」


「…しかし…!早く……早く行かなければマサアキさんが…!…」


バシャア……!
【ノエラは二人に水を掛けた!】

「「……っ!?…」」


「少し頭を冷やしなよ。リリー」


「…ノエラちゃん……」


「何で自分まで……」


「ありがとねん、ノエラちゃん」

「いい?聞いてリリちゃん?」


「……お母様…」


「焦れば状況は好転するのん?あなた一人で行って二人を取り戻せるの?」

「あなたはシスターでしょう?私情にかられ取り乱してどうするの、目先の事だけにとらわれていては次第に周りが見えなくなっていくわん」

「そうなったら、待っているのは真っ暗な闇だけよん」


「……………」


「自分を苛む気持ちは痛いほど分かるわん。私だって……ジュースと間違ってワインを片っ端から空けて行った事に少なからず責任を感じているもの…」


「というかあの…マサアキさんが一人で行かざるを得なくなったのは、ほぼそれが発端っすよ──」

「気持ちは皆一緒なのん!だからこそどうするべきかは皆で考えましょう!!」


「いいかしら?」


「……はい…すいませんでしたお母様…」


「分かればいいのよん」


「いや、大きな声で誤魔化し──」

「皆も!!いいかしらん!?」


「「「はい、マザー!!」」」


「言わせまいとする圧が凄いっす……」



──1時間後──



「───……では以上を救出作戦の内容としますが…皆さん異論質問等はありませんか?…」


「「「………」」」


「…では作戦決行は明朝…夜明け頃とします…各々しっかり準備をして万全を期しましょう…」


「明朝?そんな悠長に構えていてよろしいのですか?」

「そうですリリアルさん…私達の方なら今晩辺りでも問題ありませんよ」

「えぇ、奇襲をかけるならその方が都合も良さそうですし」


「…夜は魔物も凶暴化しますし…皆さんの貴重な体力を無駄に浪費することは避けたいのです…それに今回は直接敵地に乗り込む手筈…道中暗くて統率が取れなくなっては却って危険なのです…」


「しかし、そうしている間にもし手遅れになったら…」


「…連れ去られたという事はそれなりの用途があっての事なのでしょう…少なくともすぐに手をかけられる心配はないと思います…」


「リリアルさんがそう言うなら……」

「はい…私達もそれに従いますけど…」

「正直少しだけ怖かったですしね、心の準備は必要かもしれません」


「…そういう事です…明日はおそらく総力戦になります…コンディションを整えるという事も立派な作戦の内なのです…皆さん分かりましたか?…」


「「「はい!!」」」



「リリアルさんはやはりすごいです。先程こそ動揺していたもののすぐに気持ちを持ち直し、冷静な作戦を立てる事が出来るなんて」

「はい、私達と年もさほど変わらないのに、流石は我らがマザーの一人娘です」

「不安な気持ちも勿論ありますが、リリアルさんが一緒なら大丈夫のような気がしてきました」

「そうですね。リリアルさんが居ればきっと明日の作戦はうまくいきます」

「はぁ~今から緊張してきました!リリアルさんの足手まといにならないように気を付けないといけません」


「………皆さん…少し大袈裟ですよ…」


「そんな事ありませんよ!謙遜しないでください。リリアルさんは私達の…ラスンの希望なのですから、ねぇ皆さん?」

「「「はい!!」」」


(…………希望…ですか…)


「物凄い信頼っすね。リリアルさんって見習いのシスターじゃなかったんすか?マザーさん」


「…………」


「マザーさん?」


「ん…あぁごめんなさい…何か言ったかしらん?」


「いや、やっぱりリリアルさんは村の人達も含めて多くの人から頼られてるんだなって」


「……あぁ」

「えぇ、そうねん…」


「……?」



「…それでは作戦会議はここまでとしますが…最後に一つ連絡を…」

「…私は明日の作戦に備えて自室でとびきり危険な武器を制作しますので…日没後は私の部屋に近づかないでくださいね…」


「とびきり危険な武器…ですか?」

「それは一体どのようなものなのでしょうか?」


「…ふふふ…知りたいですか?そういえば実験体というのも必要だったのです…どうしても気になるのならば体に直接教え込んであげましょう…」


「い…いえ!分かりました、近づきません!」


「…賢明です…それと皆さん分かっていると思いますが…くれぐれも本日は早く床に就くようにしてください…夜更かしは作戦に支障をきたしますし…何より睡眠不足は私達シスターにとって大切な美容を損なう大敵となりますから…いいですね?…」


「「「はい!」」」


「……では…解散…」



「ふぅ……」


「お疲れ様っすリリアルさん。何だか大変な事態になってきたっすね」


「…ウマオさん…」

「…村の事情に巻き込んでしまい申し訳ありません…しかし…先ほども言いましたがウマオさんは明日の作戦には加わっていないので…何も心配しないで下さいね…」

「…マサアキさんも虫けらさんも…必ず私たちが助けますので…安心して村で待っていて下さい…」


「あ…あぁ、はいっす」


「…色々あってウマオさんも今日は疲れたでしょう?…空いている部屋があったはずなので案内します…そちらでゆっくりお休み下さい…」


「…………ちょっといいかしらん?リリちゃん……」


「…何でしょうお母様?…」


「………あ、いや……やっぱりいいわん、ごめんなさい」


「……?…はい…」



―修道院 リリアルの自室(夜)―


「……これでいいでしょう…完璧です…何度も頭を捻った甲斐がありました…」

スッ…
【リリアルは置き手紙を机に置いた!】


「…時間もありません…なんとしても明日の朝までには全てを終わらせるのです…」

「…すみません…皆さん…」


もっと自分自身の事、大切にしてやった方がいいぞ

シスターとして、長く世の為人の為に尽くしたいと思ってんなら、尚更だ

第3章 第7話より


「………すみません…」


ー修道院 食堂(夜)ー

(…夜もだいぶ更けていますし…流石に薄暗いですね…)

(…しかし電気は点けられません…誰かに気付かれては私の計画は失敗です…)

キョロキョロ…
【リリアルは辺りを調べた!】



【リリアルは流し台を調べた!】

【リリアルは包丁を手に入れた!】


(…こんなものでも…無いよりはマシですかね…)

「…さて…」


"さて”、どこに行くのん?」


「…ひっ…!…」


「あぁ…ごめんねん、脅かすつもりはなかったんだけど」

パチン
【マザーは食堂の明かりを点けた!】


「…ひぃ…!!…」


「何で電気を点けた方がもっと驚いてるのよん!」


「……え?…え?…」

「…………」

「………あ…お母様でしたか…」


「随分かかったわねん私だと認識するのに!」


「……そうですか…メイクを落としているのですね…修道院が魔物に入られたと思い危うく緊急避難警報を発令させるところでした…」


「何て事を考えていたの…実の娘にそんな事されたらきっと一生立ち直れないわん」


「…次からはお互い気を付けましょうね…」


「私は何に気を付ければ良いってのよん!」

「……もういいわん、そんな事よりリリちゃん」

「ここで何をしていたのん?」


「……!…」


「その包丁、夜中に女の子が手にするには些か物騒じゃなくって?」


「…これは…小腹が空いたので夜食をと思い…」


「下手な嘘を付かないでちょうだい。食べ物に余裕が無いことはあなたも知っているでしょう?」


「……あ…間違いました…今から村の中を見回りしようと思っていたのです…それで万が一不審者が出た時のために護身用として少しお借りしようと…」


「刃物片手にパトロールするシスターがどこにいるの!そんなのあなたが既に誰よりも不審者よん!」


「…あ…違くて…えーとえーと…」


「リリちゃん!」


「…は…はい?…」


「余計な手間は省きましょう。もう分かっているからん」

「…あなた一人で助けに行くつもりなのでしょう?」


「………」


「…お母様…どうしてそれを?…」


「見くびらないで、昼間あれで平静を装っているつもりだったの?私から見れば思い詰めているのがバレバレよん」

「私が一体何年間……あなたの母親をやっていると思っているのん?」


「…12年程じゃありませんでしたっけ?…」


「意外と薄っぺらい返答だったわん!」

「確かにそれ以前の私はお父さんだったからお母さん歴はそんなものでしょうけど、今のはそんな揚げ足を取る場面じゃないでしょう!?」


「…ちなみに覚えていますか?…私は元々好奇心旺盛で活発的な女の子でしたよね?…」

「え?…あぁ、確かに昔はもっと明るかったわよねん。それがいつしか今みたいにボソボソ喋るようになって…」


「…いつしかというより…それを機にです…」


「嘘でしょう!?」


「…当時5歳という幼い私には刺激が強すぎました…大好きなお父さんが桃色に染まってしまったその衝撃は…私の性格をプラスからマイナスへといざなう出来事としては十分だったのです…」


「そ…そんな…リリちゃんの為によかれと思っての一大決心だったのに…私が間違っていたなんて…」


「…当たり前です…初めて女装をして鏡の前に立った時点で気付いてください…」


「うぅ…」


「…どこをどう見てイケると思ったのですか?…」


「やめて!もうやめて!!」


「………でも…」

キュ…
【リリアルはマザーを優しく抱きしめた!】


「……!」


「………でも…知っていますよ…」

「…それも全部…私の為だということを知っています…」

「…ただでさえ男性の少ないこの村で…わざわざシスターになってまで…遠い背中を追う私が迷わないように…少し前を歩こうとしてくれている事も分かっています……」


「リリちゃん……」


「…こんな事になってしまって…ごめんなさい…やはり私では足りないのでしょうか?…」

「…私はどこまで行っても希望止まりのようです…真に皆を安心させ…心を照らし続ける太陽には…なれないのでしょうか?…」


「もう……お母さんの影に囚われて生きるのはやめなさい…」

「苦しいのならやめてしまえばいいわん。リリちゃんはリリちゃんじゃない…」


「……………」

「………なんちゃって…です…」

「…拘束魔法…タイムバインド…」


「……なっ!?…リリちゃ──っ!」


【リリアルはタイムバインドを放った!】

カチン…
【マザーの身動きを封じた!】




「………騙し討ちのような真似をしてすみません……それでも私は行かなくては行けません…」

「…ケジメをつけませんと…」


ゴゾゴソ…!
【リリアルはマザーの懐を探った!】

キラ
【リリアルは倉庫の鍵を手に入れた!


「…鍵…お借りしますね…」



ー修道院 倉庫ー

倉庫


ゴソゴソ
【リリアルは倉庫を漁っている】


「…ありました……」

パカ
【リリアルは宝箱を開けた!】


「…チェーンソー…《羅刹らせつ君》…火力、切断速度ともに慘鬼君を凌ぐほどのポテンシャルを秘めてますが…操作性に少々難があり…かつてのお母さんでも扱いきれなかったと言われる暴れ馬……」

「…慘鬼君亡き今…この子に賭けるしかありません…」

羅刹

「…最低限の手入れをして…それから──…」

カタン……ッ!
【倉庫の備品は音を立て倒れた!】


バッ!
【リリアルは慌てて羅刹を装備した!】

「…誰ですか!?…」


「ちょちょちょ!ストップストップ、自分っすよ!」


「…ウマオさん?なぜこんな時間にこんな所へ?…」


「あぁえっと…その…」


「…目が冴えて上手く寝付けないのなら…今からぐっすりと眠りにつける良いおまじないを教えて差し上げましょうか?…」


「あの…とりあえずそのチェーンソーから手を離してもらっていいっすか?」


「寝付けるわけないでしょう……マサアキが連れて行かれたって言うのに」

「でも、リリアルさんも同じってわけではなさそうっすね」


「………これは…」


「いや、回りくどいやりとりは無しにしましょうか」

「実は聞いてしまったんす。食堂でのマザーさんとの会話」

「一人で助けに行くって……本気っすか?」


「……………はい…」

「…こうなってしまったのも私のせいです…傭兵に依頼したからといって解決出来るわけは無いと分かっていながら…つい気を緩めてしまった…」

「…その油断が生んだ事態が今なのです…私には…マサアキさんと虫けらさんを助け出し…バミラと直接決着をつける責任があります…」


「そんな責任って…シスターの皆さんの気持ちはどう考えているんすか」

「あれだけの期待をされていながら、それをこんな無下にするような形で返されたら…」


「………期待されているからこそ…です…」

「…私は腐っても皆の希望ですから…その希望が簡単に挫け…立ちはだかる壁を前に心を折られてしまっているようでは…これより先のラスンの未来に平和と繁栄はありません…」

「…朝起きたら悪さをする魔族などはもう居らず…全てが解決していた…それが一番…皆の望む所なのです…」

「…その理想を叶えるためにも…私は行きます…」

「…だから…そこをどいて下さい…」


「…………………」

「………いやはや…今までいろんなお客さんを乗せて運んできたけど、こんな強情っぱりな人は初めてっす」

「仕方ないっすね、全く……分かりました。観念しますよもう」


「……?…何がです?……」


「自分も……お供するっすよ」


「…いや邪魔です…」


「即答!?」

「えぇ?あの…何となくいい流れだったし、もう少しなんかこう、葛藤とかあってもよくないっすか!?」


「…邪魔なものは邪魔です…大体ウマオさんがついてきた所で何が出来ると言うのですか…」

「…荷車を引く以外に能がないだけならまだしも…突然いなないて敵に感づかれる危険性も無視できませんし…」


「何で勝手にそんな危険性を視野に入れてるんすか!」


「…あとひづめがパカラパカラいうのも迷惑ですし…」


「いわないっす!もう完全な馬扱いじゃないすか!」

「とにかく自分も行くっすよ!駄目と言われてもついて行くっすから!」

「事情を知ってしまった今、放っておけないし、心配なんすよ…」


「…はぁ…どうしましょう…本当に邪魔です…」


「そんな露骨に邪魔邪魔言わないで下さいっす!」



「………わかりました…同行を許可します…」


「ほっ…本当っすか!?」


「…えぇ…こんな所で擦った揉んだを繰り返し時間を無駄にするのも惜しいので…」

「…ただし…条件を一つ…バミラのアジトの前までです…それ以降は本当に危険なので…」


「それでも構わないっす!少しでもお役に立てるなら」


「…では交渉成立という事で…武器のメンテナンスが済み次第…すぐに向かいましょう…」


「はい!」




(…………お母様…)

(…それとシスターの皆さん…)

(…勝手な行動…申し訳ありません…行ってきます…)


ガチャ…!
【リリアルは羅刹を装備し直した!】


「……待っていて下さい…マサアキさん…」


〜To be continued〜


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