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そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第2章 謎のシスター少女編 3】

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―始まりの村 ドミリア―

マサアキ
HP 76
MP 0
LV.8


よ、ドミリアの寄生虫ことマサアキだ

いつまで始まりの村に居るんだとか、早く旅立てよとか

みなまで言わなくてもいい、もう村は出るつもりだから


あの夜…

グリルを救うため、魔王ゼジルを打倒すると宣言をしたあの日

耳障みみざわりの良い言葉を並べていたものの、自分の力量を考えた場合、即座に今のままでは無謀だという結論に至った俺は、あれから色々旅立つための準備を始めたんだ

自分を鍛えたり、不安を取り払うための瞑想をしたり、旅に役立つアイテムを集めたり、恐怖に打ち勝つための瞑想したり、あとは気持ちを落ち着かせるための瞑想をしたりとかな

その甲斐あってか最近は少し体が浮くようになった



まぁそんな冗談はさておき

今、俺は村の出入口付近にいる

準備を始め、丁度半年が経った今日この日を、俺の記念すべき旅立ちの日にしようと前々から決めていたからだ

ここから全てが始まる、この村を一歩出たその瞬間に

命の保証なんてない、仲間もいない、戦闘技術は言うまでもなく金だってほとんど無ければおまけに彼女もいねぇ

そんな村人の物語が…


──10年間


何を言われても嫌だの一点張りだった俺も、随分丸く収まってしまったものだ

最後に……いや


もうよそう、これ以上の言葉は野暮だ

そろそろ行くか、世界と魔族を救う旅に

きっと魔王を倒して帰ってくるよ

それまでじゃあな。村のみんな



…という感じのモノローグも脳内で再生を繰り返し、かれこれ7週目に突入するんだが、なんだろう?

どうにもおかしい

というのもさっきからずっと誰か来ないかとこの場に待機しているんだが、一人として見送りに来ないんだ

どういう事だ?皆前まであんなに行け行け騒いでたじゃん

それがいざ行くと決まったらここまで反応が淡白になるの?はなむけの言葉とか一切なし?

そろそろ本当に行っちゃうよ?



別に村のみんなにワァーっと見送られる事を期待していた訳じゃないが、こうもあっさりしていると命懸けの旅に出るという実感が全く湧いてこない

一人でピクニックに行く気分だ

もしかして俺が今日旅立つって事をみんな知らないのか?


いや…しかしそんなわけは無い

数日前にお馴染みの選択肢を魔王を倒しに行くと決定した瞬間、村全体が一斉に騒ぎだし、その勢いでお祭りまで開催されたのだから

およそ大半は知っている筈だ。忘れたのだろうか

念を押してビラでも配っておけばよかったな


「ちょっとォォォ!!」


ん、この声は?


「はぁ…はぁ…よかった…まだ行ってなかったのね」


これはこれは…意外な人がお見送り第1号だな

村娘さん


「当たり前よ弟子の門出かどでだもの。私が来ないで誰が来るのよ」


その言い方は胸に刺さるものがあるな。やめてくれ



改めて紹介しよう

この半年の間、俺に戦い方を伝授してくれた村娘だ

二択を迫られるので、極力人との交流を控えていた俺も最近気付いたのだが、実は村長の娘さんらしい


「いきなり俺に戦い方を教えてくれって言われた時は驚いたわよ」


俺も頼むやいなや「いい目ね、反吐へどダラダラ悶絶スパルタコースでいい?」って言われていきなりストリートファイトが始まった時は驚いたよ


「その節は首から下を地面に埋めてしまってごめんなさい…私不器用で人に物を教えたりするの苦手だから」


いや、あの時のはそういう問題じゃなかったろ


「戦いは教わるより自分の体で覚えるのが一番良いと思ったの」


結果的に体が覚えたのは恐怖だけだったぞ



本当はこいつとのハチャメチャな修行の詳細を涙ながらに語りたい所なのだが

思い返すと体が痙攣し、蕁麻疹じんましんが出そうになるので、今回は割愛させて貰う

ところで村娘


「何よ?」


一応ここの村民として聞くが、お前の父ちゃんもとい村長は顔を見せに来たりしないのか?


「パパは見たいドラマの再放送があるって言ってたから」


は?何て?


「だからドラマの再放送があるんだって、今日逃したら今度またいつやるか分からないって言ってたから多分来ないわ」


なめてんのか、俺だって今日逃したら二度と来ないかも分かんねぇんだぞ


「まぁ、あなたがどうしても旅立つのと同じように、パパにはパパの譲れないものがあるんだと思う」


なに無理矢理かっこよくまとめようとしてんだ

譲れないもの?チャンネル権か?

テレビ叩き割られてーのかコラ



「あ…それはそうと、はいこれ!」

【マサアキは村長の餞別せんべつを手に入れた!】


なんだこれ?


「パパから少しだけどお金を預かってきたの。旅の足しにって」


マジでか?悪いな

遠慮なく貰うよ


【マサアキは361Rルーク手に入れた!】


……うぅん?え?


「どうしたの?」


貰っといてこんなこと言うのもあれなんだが、あの…本当にあれだな


「あれって何よ?」


いや、なんか金額がいやに細かかったから…

もう少しまとまってるのかな~と思ったんだけど


「パパ今はポケットにそれしか入ってないって言ってたから」


ポケットマネーかよ


「ごめんなさい…私も村の皆から少しずつ融資して貰って出した方が良いって言ったんだけど、パパがこういうのは気持ちだからって」


いやこれ気持ちの面でも十二分にゴミだぞ


「あとこれは私から」


【マサアキはワールドマップを手に入れた!】


ワールドマップ

地図か?


「えぇ、それさえあればもしどこかで迷っても遭難することは無いと思う」


【マサアキはワールドマップを使った!】


…おぉ、これは普通に助かるわ


ただ細かいな、ずっと見てると目が疲れそうだ


「本当に?ごめんなさい!もっと見やすく書けばよかったわね」


これお前が書いたの!?


「え?えぇ、本を見ながら大陸の地形とか山や海の範囲、町とか村の位置も詳しく調べて精密に仕上げてみたのだけど、使いにくいのなら無理に貰ってくれなくてもいいわ」


すごいなお前!全然使うわありがとう!


「そ、そうかしら?大したこと無いわよ」


いや大したことあるだろ

手作りの地図とか、これ以上気持ち込もった物もそうそう無いぞ



──うし

そんじゃあ、そろそろ行くわ


「もう行っちゃうの?」


これ以上ここに居ても仕方ないしな

色々助かった。恩に着るよ村娘


「別にそんな…良いわよ…」

「……ねぇ?本当に一人で行くの?あなた村にお友達とかは?」


友達とワイワイ行くものでも無いだろ…

それにこれは俺の独りよがりだからな。もしも着いてきてくれるような奴が居たとしても巻き込むつもりは無い

ま、あんたがついて来てくれるんなら話は別だけどな。相当心強いし


「私が?冗談。私はただの村娘よ?旅のお供なんて足手まといになるのがオチよ」

全てにおいてハイスペなのに自己評価の感覚だけ異様にズレてるのは何なんだ?


「でも、そう…立派な覚悟ね。一体何があなたをそうさせるのかしら」


や……覚悟だなんだって、んな大層なもんじゃねぇよ

ただ一人、放っておけないやつが──

「ちょっとォォォォ!!」


誰だよちきしょう

今良いとこだったのに


ドドドドド…!!


え、何この音?


ドドドド…!!
ドドドドド…!!

【大勢の村人が押し寄せてきた!】


「「「勇者ァァァァ!!」」」


ぬお!?


「今日出発だったの!?明日だと思ってたぞ!」

「寝坊しちゃってごめん!!間に合ってよかった!」

「仕事長引いてさ!!もっと早く来たかったんだけど悪いな!!」

「もう行くのか!?これよかったら使ってくれ!」

【マサアキは薬草、毒消し草を手に入れた!】


なんだよコイツら…

今更こんな…


「「マサアキ!」」


っ!

父さん、母さん…


「僕ちゃんもいるよ!」


あ…養鶏所のおじさん…


「俺もいるぜ!」


あ……


いや誰だよお前


「おいどんもおるのでごわす!」


もっと誰だよ。こんなやつ村に居たか?


ガバ…!!
【母と父はマサアキを抱き寄せた!】


っ!?


お、おい…やめろよ


「遅れてごめんね」

「本当はいの一番に来たかったんだが…」


い…いいよもう、分かったから



はずい、離れてくれ


「離さないわ。もう二度と」


何でだよ。離れろ


「ドラマでこういうシーンがあったな母さん」


「えぇ…今ならヒロインの気持ちも分かるわ」


あんたらも見てたのかよ再放送

感動の場面台無しだな



「おーおー盛り上がっているようだね」


「「「村長!!」」」


「パパ、来たのね!」


…よくもノコノコと姿を現せたものだな

えぇ?ドミリアのパパよ


「すまないマサアキくん…立て込んでいた仕事の方がついさっき終わってね」


平然と嘘言うな。終わったのはドラマの方だろ


ガバ…!!
【村長はマサアキを抱き寄せた!】

っ!?


「本当はいの一番に来たかったんだけどね…」


何どさくさに紛れて父さん達と同じ展開にもってこうとしてんだ

全然しっくり来てねーぞハゲ

今すぐ離れろ。ぶち殺すぞ


「離さないさ、もう二度と」


気持ちわりーんだよおっさん!



「おぉふぅ…村長に手をあげるとは何事だマサアキくん…」


うるせーよ

あんたなんか村長じゃねぇ


「う、オホン…では気を取り直して」

「マサアキくん」


あ?


「知っての通り今の世には幾多もの魔族、魔物が蔓延はびこっている」

「奴らは我々人間の生活を深く侵害し、際限の無い暴虐を日夜繰り返している。言うまでもなく危険だ」

「しかし我々人間は如何いかんせん弱い…ただの村人である私達には何も出来ないのだ」


へぇ…一応言ってみるけど、俺もただの村人だからね?


「これを何とか出来るのは勇者であるマサアキくんしかいない!」


はいはい…もう何も言わねーよ


「苦難の相次ぐ旅になるだろう…キミは勇者であると同時に紛れもなくこの村の住人だ。だから村の長として今一度改めて頼みたい」

「魔王を倒し、我々人間の平和を再び取り戻してはくれないだろうか?」


白々しい…答えなんかもう分かりきってるくせによ

あんたこれだけのギャラリーの中NOって言えると思ってんのか?


はい   ◀︎
いいえ



「「「うおぉォォォォォォォ!!勇者万歳!!」」」


ただし勘違いはするなよ。お前ら愚民共の為じゃねぇ

俺は俺の目的の為に旅に出る。忘れんな


「ありがとう、マサアキくん…どうか我々の為に頑張ってくれ…健闘を祈るよ」


聞・け・よ人の話をよ

くそが



「そうと決まればマサアキくん、まずはここから北にあるモンバルという町を目指すがいい」

「世界を放浪する旅人達の拠点とも言える大きな町だ。魔王に関する有力な情報もきっとあるだろう」


モンバル?なんかどっかで聞いたような…


「そこまでの道程みちのりは私が手配した馬車を使うといい」

「今すぐに出す事も出来るがどうする?もう村を出るかね?」


……あ~〜ちょっと…

【マサアキは辺りを見回した】


「ん?どうかしたかい?」


いや、大した事でもないんだけど


グリルのやつ来なかったな……最後に一言と思ったんだが、しょうがないか


まぁ……俺がいなくても何とか上手くやっていけるだろ


〜To be continued〜

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