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白い紙の個性 【青二才の哲学エッセイ vol.22】

 印刷会社の営業として、印刷物に使う紙を何にするか、お客さんと一緒に考えることも仕事の一つだ。
 
 大抵は白い紙に印刷をするわけであるが、ひとえに「白い紙」と言っても実に多様な種類がある。うちの会社には大体30種類くらい常備してあるが、これとこれは似ているなと思っていた紙でも、実際に取り出して並べてみると意外と違いがはっきりしている。青みがかって見えるもの、クリーム色をしているもの、白さの度合いがそれぞれ微妙に違う。

 色だけではなく、手触りや光沢度、表面の凹凸にもそれぞれ違いがある。他の紙よりもサラサラしている紙、光沢の強い紙、光沢のないマットな紙、特徴的な凹凸のある紙、というように。本や雑誌が手元にある方は試しに何冊か見比べてみてほしい。(表紙にはラミネート加工されているものが多いので、中身の紙で比べて欲しい。)それぞれの紙を重ねてみたり、親指と人差し指で擦ってみたり、光に当ててみたりするとわかりやすい。

 「白い紙はどれを使っても同じ」「そんな種類があってどうするの」そう思われる方もいるかもしれない。でも、実際には使う紙によって仕上がりの雰囲気が変わる。これは展示会など大きなイベントに行ったときに、いろんなパンフレットやチラシをもらって比べてみるとわかりやすい。光沢の強い紙は華やかで際立って見えるし、光沢のない紙は落ち着いた雰囲気を纏って見える。もちろん手触りもそれぞれ違う。ここには製作に携わる人達のこだわりが詰まっていると思う。
 私も、印刷業界にいる端くれとして意図を持って製作に当たるようにしている。お客さんの作りたいものや場面に応じて提案する紙を変える。

 例えば、清潔感を意識したいのだろうなというときには白色度が高いものを提案することが多い。この前は薬品メーカーの製品カタログを作ったのだが、その時には他の紙と比べてやや青白っぽい紙を使った。また、保育園の案内パンフレットを制作した時は、温かみや優しさを感じられた方がいいかと思い、クリーム色に近くてサラサラした紙を使った。

 こうした最終的な用途だけでなく、実際に描かれるデザインも考慮に入れる必要がある。担当するデザイナーさんを交え、いくつか紙を並べて相談しながら決めていく。「この手触り合いそうだね」とか「やっぱりマットな方がいいかな」とか言いながら。さらに言うと紙によって値段もそれぞれ違うので、お客さんの予算とも相談することになる(紙の値段だけだと2倍、3倍と変わることも珍しくない)。このように、紙を選ぶ際に判断するポイントはたくさんあり、いつもこの紙ということはない。万能とうたわれている紙もあるけれど、裏を返せば没個性とも言える。写真の再現性という面では良くない凹凸の激しい紙も、手触りと見た目の面白さが気に入られて選ばれることもある。

 ひとえに「白い紙」といっても様々な要素が詰まっている。それぞれに特徴があって、それぞれに生きる場面があり、良さがある。ただこの良さは単体では成り立たないものだ。比べられることによってその良さが際立ち、場面に応じて選ばれていく。オンリーワンの良さも、周りと比較することからはじまるのかもしれない。

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