見出し画像

広告デザインからジェンダーを考える vol.36

 私は小さな印刷会社で営業をしている。印刷会社といってもいろいろな会社があるが、私の勤めている会社の業務を簡単に言うと、カタログ、パンフレット、パッケージ、チラシなどといったものを、要望に合わせて紙の種類や印刷方法を相談しながら決めて制作する、というものが多い。グラフィックデザインから請け負うこともよくある。
 今回は、健康食品を製造販売する会社さんの商品の印刷物に携わった後で思うことがあって、それについて書く。

 あまり詳しくは書けないが、その商品は栄養価の高さがウリの粉末ドリンクである。水や牛乳などに溶かして飲む。この商品のパッケージやチラシの制作をグラフィックデザインから任せてもらえることになった。大変だけども結構やりがいのある仕事である。

 デザインについては外部のデザイナーさんに協力してもらう。こういった健康食品は市場に溢れているので、差別化されているポイントをうまくグラフィックに落としこみ、意図する相手に正確に伝わるようにしなければならない。そういったことをまとめてデザイナーさんに伝える。かっこよく言うと私はディレクターである。ターゲットは大体40〜60代くらいの女性で〜、商品の特徴はこうで〜。こんな感じの雰囲気で〜、などといったことを文章や簡単なイメージなどで渡すと大体わかってくれる。いつも頼んでいるデザイナーさんは、言葉の機微みたいなものを理解してくれるので助かる。それで期待以上のデザインを上げてきてくれるので非常に嬉しい。ちょっと感動してしまう。今回も多少の紆余曲折はあったものの、お客さんに喜んでもらえた。めでたしめでたし。

 と、いきたいところなのだが、しばらくしてこの仕事をふと振り返った時に、これでいいのだろうかと思えてきた。私が気になったのは、ターゲットの設定としてデザイナーさんに伝えた「40~60代の女性で〜」というところである。説明をするときに年代や性別でくくることは今回に限らずよくやる。それでデザイナーさんにも私の言わんとしていることはなんとなく伝わる。でもこれって私が、性別による固定化されたイメージを再生産していることに繋がっているのではないか。

 何が言いたいかというと、男性らしいデザインや雰囲気、女性らしいデザインや雰囲気が、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきという固定観念をこれからも受け継ぐものになるのではないか、そして、私もささやかながらも、その一翼を担っているのではないか、ということだ。決してデザイン上では多くのことを語っていないけれども、巡り巡って「やっぱり男ってこうあるべきなんだ」「女ってこうあるべきなんだ」と思わせているかもしれない。こういう外部要因から自分らしさを出しづらくなっている人がいるかもしれない。


 私は男だけども、かわいいものが好きだ。小物、雑貨、お皿などといったものが特に好きだ。ガーリーでポップなもの、エレガントなものというよりは、ナチュラルな雰囲気のものによく目が留まる。アースカラーとか刺さる。買い物に出かける時はそういうお店に自然と足を運んでしまう。まあ今でこそこういう好みを割と言えるようになったけど、学生時代の頃は自分の好みの中で、周りにさらけ出す部分は選んでいた節があったし、好きな自分を認めたくないような気持ちもあった。それはデザインやプロモーションを見て、女性がターゲットだし、自分がこういうのを好きになるのってなんか違うのかな、と感じていたと思う。「周りから馬鹿にされるのでは・・・」というのもあったと思う。

だからユニセックス的なデザインにしようと言いたいわけではもちろんない。私としては、まずは設計段階で男女を断定することをやめてみようと思う。ターゲットを、「こういうのが好きな人」という嗜好性、「こういうことをするのが好きな人」という行動レベル、「どれくらい知っているか」という知識レベル、「どうなりたいか」という欲求、こういった人々の内面で詳細に定義していくのはどうかと考えている。これらを考える上で、男女のフィルターをかける必要はないはずである。「かっこよくなりたい」「きれいになりたい」「美しいものを使いたい」「使っていて心地よいサービスがいい」などという気持ちに男女の違いはない。こうした配慮はデザインやブランディングに落とし込んだ時にきっと伝わると思っている。

ちょっと面倒かもしれないけど、こうした段階を踏むことで、相手のことを、社会のことをよく知るきっかけになるのではないか。新たな顧客の掘り起こしにもつながるはずだ。(私のような)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?