🇨🇭スイスワインとドロソフィア・スズキ
「ドロソフィア・スズキがスイスワインに迷惑をかけたことを日本人として知っておくべき」
スイスワインに関するいくつかのYouTubeやブログで述べられていた。
アーティストやプロレスラーの名前ではない。
ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)とは、オウトウショウジョウバエのことで、黄桃やブルーベリー等の果実に寄生する害虫。
これが原産地の東アジア(日本・中国・韓国等)より欧州や北米に侵入したといわれている。
2008年と2014年にスイスをはじめ、欧米諸国で甚大な被害を及ぼした。
それゆえ、このことを知った私をはじめ日本人は「スイス・欧米のみなさんゴメンナサイ」という肩身の狭い思いをしている。
オウトウショウジョウバエの学術名にある「スズキ」の名は、大正時代に京都で私設の花園昆虫研究所という昆虫標本の販売や昆虫研究者らへの提供などを行っていた鈴木元次郎氏に由来する。
鈴木氏は、元蒔絵職人。
1939年に阪急電鉄が宝塚昆虫館を開館させる際、展示標本をほぼすべて自身の標本から提供し、また昆虫館に勤務して資料拡充の活動を支えた。
あわせて鈴木氏は、当時日本を代表する世界的昆虫学者の松村松年博士にご自身が発見したオウトウショウジョウバエを提供した。
これを研究した松村松年博士による『日本昆蟲大圖鑑』で発表され、「スズキ」の名が1931年に世界デビューすることになった。
ゆえに正式な学術名は、発見者である鈴木元次郎氏と研究者の松村松年博士に由来するDrosophila suzukii (Matsumura, 1931)なのだが、一般的には「ドロソフィア・スズキ」と呼ばれている。
表記もsuzukiではなく、suzukiiでiが1文字多い。
ちなみに、ショウジョウバエは約3,000種が知られており、スズキの他にもベップ、イチノセ、カネコ、キタガワ、タカハシなど日本人研究者の名前がついたものも多い。
ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)は、熟した果物類や樹液やそこに生息する野生酵母を餌とするから自然と酒や酢にも寄ってくる。
もともとショウジョウバエの猩々(しょうじょう)とは、赤い目をして酒にたかることから、顔の赤い酒飲みの妖怪「猩々」にちなんで命名された。
そして安物の酒には見向きもせず、ワインでも上等なものほど寄ってくるという。
大蔵省(当時)の醸造研究所は、一時期ショウジョウバエを唎酒判定に使おうという研究に真剣に取り組んでいたそうだ。
ある意味、我々ソムリエ・国際唎酒師のライバルだ。
また、コーネル大学昆虫学科・ニューヨーク州立農業試験場 瀬戸昌宣博士(主筆)の論文『オウトウショウジョウバエの日本と欧米における生態と防除の研究事例(2015年)』によると。
ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)は、温暖な気候を好み、約 1 ~ 2 週間で卵から成虫になる。
成虫の寿命は 3 ~ 9 週間とされ、メスはその間 200 ~ 600 個の卵を寄主果実に産む。
産卵された果実は、黒褐色に腐敗し、果実中に蛆が混入するため、生食用の果実では商品価値がなくなる。
日本を含む東アジアから欧米各地に侵入し、2008年以降に急速に重要害虫となったとある。
★★★ここで、疑問と発見があった。
学術名が「スズキ」という日本人名ゆえ日本のみが悪いというミスリードで犯人扱いをされているのでは?
そこでいくつかの論文をチェックしたところ日本だけが悪いのではないという論拠を発見した。
稲盛財団の京都賞と助成金受賞記念講演会論文
ヴァルター・ヤコブ・ゲーリグ博士(スイス バーゼル大学教授)の『ある生物学者の旅(2001年)』によると。
ゲーリグ博士が、1958年にチューリッヒ大学の動物学研究所の古い建物の小さな研究室でショウジョウバエの培養研究をしていた日本人ではない東アジアの国の教授と会って話をしているのだ。
しかも、その教授はゲーリグ博士に初めて培養に成功したショウジョウバエを見せてくれた事実が存在する。
(下記論文資料 page 146 147: photo 11 参照)
https://www.kyotoprize.org/wp-content/uploads/2019/07/2000_B.pdf
つまり、1958年にはドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)がスイスに存在していたのだ。
ちなみにゲーリグ博士は、ショウジョウバエを使った生物の発生過程の研究により、ホメオボックスおよびその種間共通性を発見し、生物の形態形成の基本的な理解に画期的な貢献をするとともに、今日の生物学の進展に大きく寄与したことでで京都賞を受賞された。
ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)は、スイスワインにおいて害虫だが、生物学進展に寄与する存在でもあるのだ。
話を戻して、『Academic Accessleator』というアカデミックライティングで使える英語フレーズと例文集によると。
ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)を紹介する論文を書く際に、アジア・東アジア・東南アジアが原産地とあり、日本を特定していない。
学術名が「スズキ」という日本人名ゆえ日本のみが悪いというミスリードで犯人扱いをされているのでは?
という疑問からの汚名を晴らす一助になると思うも、決定打とするにはまだリサーチの必要ありだ。
機会があれば、スイス バーゼル大学・チューリッヒ大学の教授経験者・研究者・卒業生の方々のお話を聞かせていただき事実を解明したい。
最後に、私がドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)にこだわる理由。
以前、北海道の札幌に住んでいた時に「札幌市時計台」と「北海道大学キャンパスウォーキングツアー」で英語ボランティアガイドをしていた。
札幌市時計台は、北海道大学の前身 旧札幌農学校演武場だった。
時計台の歴史と共に、札幌農学校の著名な卒業生であり母校北海道大学名誉教授になった「日本昆虫学の祖」 松村松年博士の業績に関する説明をさせていただいていた。
また、北海道大学キャンパス内で「Boys, be ambitious like this old man」で有名なウィリアム・スミス・クラーク博士像紹介の後に、ドロソフィア・スズキ/学術名:Drosophila suzukii (Matsumura, 1931)が保管されている歴史的建造物である旧昆虫学養蚕学教室・昆虫学標本室の紹介もさせていただいていた。
そのような縁もあり、松村松年博士や鈴木元次郎氏、さらには日本を代表し、日本で2番目に多いファミリーネームである全国の「鈴木」さんの名誉のために、今回のリサーチに駆り立てられた。
日本とスイスは、薬学分野で世界をリードしているので、更なる協力を継続し、副作用のないテロワールに優しい効果的な防虫剤が開発されることを切に願っている。
スイスワイン🇨🇭それはワインラバーに残されたファイナルフロンティア
お読みいただきありがとうございました。
アビアント(à bientôt)
この記事の執筆者
🇨🇭ソムリエ シャスラ
スイス プロフェッショナル ソムリエ協会(ASSP)所属ソムリエ/国際唎酒師(英語)/世界唎酒師コンクールクォーターファイナリスト