「オードリー・タン 母の手記『成長戦争』」近藤弥生子著 を読んで、心が震えた【前編】
オードリー・タンとは
タンさんを一躍有名にしたのは、やはり「コロナ対策」。それは、様々なデジタル技術を駆使して民意を取り入れ、それを政策に生かして行っています。彼がデジタル大臣としてかなりのスピード感を持って行った数々の「コロナ対策」。マスクマップ・濃厚接触者の追跡・ワクチン接種の予約システム改善などがあります。
私が特に面白いと思ったのは、タンさんのコロナ対策で柱となる「3つのF」です。それは、『Fast(素早く)』『Fair(公平に)』『Fun(楽しく)』。
ここに『Fun(楽しく)』が入っているのが、何だか台湾らしいというか、タンさんらしいなと思いました。日本政府が言ったら、炎上しそう…
「オードリー・タン 母の手記『成長戦争』」
オードリー・タンさんを語るのに、もう一つ外せないキーワードは「ギフテッド」。そのIQは180以上とも言われています。
この本では、そんな桁違いの天才であるタンさんの生い立ちや、学校でのいじめ、教師からの体罰(台湾が当時そういう時代だった)、家族の葛藤や分裂、ドイツ生活や協力者、などなどが書かれています。
この本の一つ大きな特徴と言えるのは、先ず、タンさんの母親である李雅卿さんが書いた原書「成長戰爭」があります。そして、近藤弥生子さんが原書から引用する形を取り、そこに近藤さん自身の見方を加え、近藤さんの著書として出版したところです。
もともと近藤さんは、李雅卿さんの著書「成長戰爭」の翻訳本を日本で出版しようと思っていたそうです。ですが、このような形での出版になったのは、完全にタンさんからの提案に沿った結果だそうです。
心が震えた
「苦しみの奴隷」
場面は、タンさんが小学校3年生の時。学校でいじめがエスカレートし、タンさんは自殺願望をも持ち始めるほど追い詰められていました。そんな状況の中、休学したいと訴えるタンさんは、教師や父親・祖父母から激しく非難されるのでした。
大人になったタンさんが、そんな当時を振り返って語った言葉が書かれています。
自分では「これは乗り越えられる困難なんだ。乗り越えるべきなんだ。」とやってしまいがち。だけどそれは、「苦しみの奴隷になる」ことと紙一重のこと。子どもの世界でも大人の世界でもあり得ることです。現状を良くするために努力し、自分でも知らぬ間に「苦しみの奴隷」になり、そこから抜け出せずに、チャンスが来ても何もできなくなってしまう。どれだけの人がこうやって考えられるのだろうか。特に私のような子どもを持つ親だったり、学校教育に携わる大人が持っておくべき、一つの「アラート」であると感じました。心が震え、肝に銘じた言葉でした。
私は、台湾南部の都市・台南に15年暮らしていました。夫は台湾人で、娘二人は台湾と日本のミックスです。夫が子どもの頃も、学校では教師の体罰が当たり前の時代。テストで100点を取らないと、100点に満たなかった点数の分だけ、先ずは学校で先生に叩かれ、家に帰ったら親に叩かれたという話を聞いたことがあります。タンさんは、ちょうど私や夫と同年代。
今では日本でも「ギフテッド」という言葉が徐々に浸透してきました。しかし、今から30年ほど前の台湾で、インターネットやSNSがない時代の「ギフテッド」の子を抱えた家庭の葛藤と挑戦は、どれほどのものだったのでしょうか。
本書の中で、「心が震えた言葉」があり過ぎて、1回では書き切れませんでした。
明日の【後編】もまた読みに来てください。
染