![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168165032/rectangle_large_type_2_a0b94840c334ccb6184571606fb7bf63.jpeg?width=1200)
バクテリアの「冬眠」を解明!新しい治療法への期待
この記事は「増殖しない「冬眠状態」のバクテリアを調べる新しい技術」をより多くの方に知っていただくため、専門的な内容をできるだけ身近な言葉で説明しています。正しい内容が知りたい方は、元のプレスリリースをチェックしてくださいね。
私たちの身の回りには、とても賢い細菌がいます。抗生物質で攻撃されそうになると、まるで冬眠するように活動を極限まで抑え、じっと時を待つのです。この「冬眠」状態の細菌は、病院での感染症治療を難しくする厄介な存在として知られています。
例えば、肺の感染症の原因となる緑膿菌は、このような戦略をとることが分かっています。普通の状態なら効くはずの抗生物質も、冬眠状態の細菌にはほとんど効果がありません。
謎だった「冬眠」のしくみを解明する新技術
これまで研究者たちは、細菌の冬眠状態を詳しく調べたくても、実験室でその状態を作り出すことが難しく、研究が思うように進みませんでした。しかし今回、物質・材料研究機構(NIMS)とカリフォルニア工科大学の研究チームが、画期的な実験装置を開発しました。
この装置は「96連ポテンショスタット」と呼ばれ、96個の小さな容器で同時に細菌の活動を測定できます。これは96台の細菌用の活動量計を一度に使えるようなものです。この装置を使うことで、研究者たちは細菌が冬眠状態でどのように生きているのかを、はじめて詳しく観察することができるようになりました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735699827-FXQ8hKDwtlWrpn6R3cTASUad.png?width=1200)
驚きの発見!エネルギー消費は通常の1000分の1以下
研究チームが緑膿菌を詳しく調べたところ、冬眠状態の細菌は通常の状態と比べて、なんと1000分の1以下という超低エネルギーで生きていることが分かりました。これは、私たちでいえば1日3食の食事を3年に1回程度に減らすようなものです。
細菌はこの極限状態で、生きるために最低限必要な活動だけを行い、それ以外のすべての活動を停止させています。この発見は、生命活動の根本的な理解にも大きな一歩を記録したと言えます。
新しい治療法への期待
この研究成果は、難治性感染症の新しい治療法開発への大きな希望となっています。これまでの抗生物質は、主に活発に増殖する細菌を攻撃する戦略でした。しかし今回の研究により、冬眠状態の細菌がどのように生き延びているのかが分かってきました。
この知見を活かすことで、冬眠状態の細菌にも効果的な新しいタイプの治療薬の開発が期待されています。さらにこの技術は、工場の配管の腐食や水処理施設での問題など、私たちの生活に関わる様々な分野での応用も期待されています。
その疑問にQ&Aでお答えします!
![](https://assets.st-note.com/img/1735699827-ndOgJtWsy4blES0rGxT8uP5v.jpg?width=1200)
バクテリアの冬眠を支える「フェナジン」とは何ですか?
緑膿菌は、酸素が少ない環境でも生き延びるために、フェナジンという特別な物質を作り出します。通常、細菌は酸素を使って呼吸をしていますが、バイオフィルムの奥深くなど、酸素が届きにくい場所では、このフェナジンが酸素の代わりとなって細菌の呼吸を助けるのです。
フェナジンは細菌が自ら作り出す小さな分子で、特にPhenazine-1-carboxamide(PCN)という種類が重要な働きをします。このフェナジンは、まるで充電池のように電子を運ぶ役割を果たし、細菌が最小限のエネルギーで生き続けることを可能にしています。
96連ポテンショスタットはどのように細菌の活動を測定するのですか?
この装置は、電極が印刷された96個の小さな容器で構成されています。各容器では、フェナジンが運んできた電子を電極で受け取り、その量を電流として測定します。これは、ちょうど太陽電池が光を電気に変えるように、細菌の代謝活動を電気信号として捉えているのです。
従来の装置では1回に1つか2つの条件しか測定できませんでしたが、この新しい装置では96個の異なる条件を同時に測定できます。しかも、すべての容器で全く同じ条件を再現できるため、より信頼性の高いデータが得られるようになりました。
この国際共同研究はどのように始まったのですか?
2022年7月、NIMSの岡本章玄グループリーダーがカリフォルニア工科大学でセミナーを行った際、この装置の可能性に気づいたのがDianne Newman教授でした。当時、Newman研究室では緑膿菌の低代謝状態の研究で行き詰まっていました。大型の電極装置では細かな条件設定が難しく、データの再現性にも課題があったのです。
その後、北海道大学の博士課程学生Ho Chia-Lunが中心となって装置の有効性を実証し、2023年にはカリフォルニア工科大学の博士課程学生John A. Ciemnieckiと共に本格的な研究をスタートさせました、この研究には微生物学と電気化学という異なる分野の10年以上の知見が結集されています。
バイオフィルムと細胞膜については何が分かったのですか?
研究チームは、バイオフィルム内の細菌が生き延びるために、呼吸と発酵を組み合わせた特殊な代謝を行っていることを発見しました。また、ほとんどの抗生物質は効果がなかったものの、細胞膜を保つ機能を妨げると細菌を殺すことができることも分かりました。
これは重要な発見です。なぜなら、細菌が冬眠状態で生き延びるためには、細胞膜の維持が決定的に重要だということを示しているからです。この知見は、新しい治療薬の開発における具体的な標的を示唆しています。
この研究の産業応用の可能性について、具体的に教えてください。
例えば、鉄のパイプラインでは細菌による腐食が大きな問題となっています。これは、パイプの内側に形成されたバイオフィルム内の細菌が、冬眠状態で長期間生存し続けることが原因です。また、水処理施設では、フィルターの目詰まりの多くがバイオフィルムによって引き起こされています。
この研究で開発された技術を使えば、これらの問題を引き起こす細菌の活動を詳しく調べることができます。その結果、効果的な対策方法の開発や、問題が起きる前の予防的な処置の確立にも役立つと期待されています。さらに、この技術は医療機器や食品産業など、清潔さが重要な分野での細菌制御にも応用できる可能性があります。
執筆の励みになるので、内容がおもしろかった!参考になった人は「いいね」お願いします。他の研究も知りたい人は「フォロー」しておくと漏れなくチェックできますよ!
いいなと思ったら応援しよう!
![研究員n](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159761964/profile_7031e7e10e0fcbb2ce87054e67dfed68.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)