人間の脳にある"シワ"の新たな役割を発見 !アルツハイマー病予防の鍵となるか
私たちの脳は、考えることや記憶すること、体を動かすことなど、実にたくさんの仕事をしています。24時間休むことなく働き続けているのです。でも、これらの活動には必ず「ゴミ」とも言える老廃物が出てきます。この老廃物の中でも気になるのが「アミロイドβ」というタンパク質です。このタンパク質が脳に溜まってしまうと、アルツハイマー病の原因になると考えられています。
研究の新しいアプローチ
では、この老廃物はふだんどのように処理されているのでしょうか。これを調べるため、金沢大学の研究チームは新しい方法を考えました。これまでの脳研究では主にマウスが使われてきましたが、マウスの脳には大きな問題があるんです。それは、人間の脳にあるような「シワ」がないこと。
そこで研究チームは、人間の脳により近い特徴を持つフェレット(イタチに近い動物)を使うことにしました。なぜかって?フェレットの脳には、人間の脳のように表面にシワがあるんです。
驚きの発見
研究チームは、脳の周りにある「脳脊髄液」に蛍光色素を入れて、その流れを観察しました。すると、シワのないマウスの脳では、脳脊髄液が表面全体から一様に染み込んでいくだけでしたが、フェレットの脳では違いました。フェレットの脳では、シワの溝になっている部分から効率よく脳脊髄液が染み込み、老廃物を除去していたのです。
さらに研究を進めると、このシワの溝には特殊な細胞があり、それを制御する遺伝子も見つかりました。つまり脳のシワは、街の排水システムのように、効率的に老廃物を除去する仕組みだったんです。シワにも意味があったんですね!
この発見が教えてくれること
この発見は、脳について二つのことを教えてくれました。一つは、脳表面のシワには、老廃物を除去するという重要な役割があるということ。もう一つは、この仕組みが上手く働かなくなると、アルツハイマー病につながる可能性があるということです。
研究チームは、今回見つかった細胞や遺伝子の働きをさらに詳しく調べています。この研究が進めば、アルツハイマー病の予防や治療に役立つ新しい方法が見つかるかもしれません。脳のシワという、見慣れた構造に隠された新しい仕組みの発見は、私たちの健康に大きな希望をもたらしてくれそうですね。
その疑問にQ&Aでお答えします!
Q1: 脳のシワの「突出部分」と「陥凹部分」では、どのような違いがあるのですか?
脳のシワには、山のように盛り上がった「突出部分」と、谷のように窪んだ「陥凹部分」があります。注目すべきは陥凹部分の働きです。研究チームの観察により、この陥凹部分が老廃物を除去する際の重要な「集積場所」として機能していることが分かりました。
これは街の排水システムに例えるとわかりやすいかもしれません。突出部分は丘の頂上のような場所で、陥凹部分は雨水が自然に集まる低地のような場所です。陥凹部分には特殊な細胞が集中して存在し、そこに集まってきた老廃物を効率的に処理する仕組みが備わっているのです。
Q2: 論文に書いてある「グリンファ系」とは、どのような仕組みなのでしょうか?
グリンファ系は、脳の中の「清掃システム」と考えるとわかりやすいでしょう。「グリア細胞」(脳の支援細胞)と「リンパ管」(体内の老廃物を運ぶ管)の働きを合わせ持つことから、この名前が付けられました。
このシステムでは、脳脊髄液が脳の組織の間を流れながら老廃物を回収し、それを脳の外へと運び出します。今回の研究では、このグリンファ系が脳のシワ、特に陥凹部分で特に活発に働いていることが明らかになりました。これは、私たちの脳が進化の過程で獲得した、とても効率的な清掃の仕組みだと言えます。
Q3: 発見された「特殊な細胞」は、具体的にどのような働きをしているのですか?
シワの陥凹部分で見つかった特殊な細胞は、アストロサイト(星状細胞)という種類の細胞です。この細胞は、通常の状態でも脳の環境を整える重要な働きをしていますが、シワの陥凹部分に存在するアストロサイトは、特に老廃物の除去に適した特徴を持っています。
具体的には、これらの細胞は水分子を通す「アクアポリン4」というタンパク質を多く持っており、脳脊髄液の流れを効率的にコントロールする能力があります。また、これらの細胞は特殊な配列で並び、いわば「誘導路」のように機能して、老廃物が効率よく運び出されるのを助けているのです。