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これって、きもの屋さんで あるある?

きもの製作現場で…

キモノ製作現場にいます。
製作依頼を受けた反物を染め上げるために、職工人の方々と、図案段階からキモノ作りに関わっています。

職先や工場で打ち合わせをしている時、たまたまその場で出会う、一般の方から尋ねられることがあります。

 「キモノをお召になられないのですか?」と。

 心の中で思います。(ああ…。またか。)
モヤモヤした気持ちになります。


きもの製作現場での服装

仕事の時は、大抵、黒っぽい服装をしています。

黒色の綿パンかチノ。グレーかチャコールの替え上着ジャケット。
襟付きの白シャツにネクタイ。黒のスリッポン。
カジュアルなジャケパンが仕事着です。
勿論、洋服です。

様々な色合いの反物が身の回りにあります。
それらの色の邪魔をしないように、無彩色で無地系を着ます。
また、和室に上がったり、土間にいたり、工場、工房、作業場、職場などあちこち移動します。ですから、脱ぎ着しやすい靴を履いています。

 私の仕事は、キモノの製造現場で作り手の業者を管理監督し、そめもの品となるように作り上げることです。
ショップで、一般の方々に向けて、キモノを販売する仕事をしているのではありません。


普段着も、仕事着も、きもの姿?

キモノと言えば、何か特別なことを想像していまう方が、そこそこいらっしゃいます。

着物姿で機織りする鶴の恩返し。
悪代官に賄賂を届ける着物姿の呉服問屋。
輿入れのお嫁さんに連なる着物姿の行列。

 キモノという言葉をきっかけに、気持ちが急にタイムスリップし、昔話の社会が現在も続いているのではないかと、思い違いされているようにも思えます。

今は令和です。

京都にいても、和服姿を全く見かけない日が結構あります。

和の文化の中で、キモノを纏うことを、ごくごく普通だと思える日常生活は、過去の世界観です。

今となっては、空想か架空の話のようなものです。

もちろん今も、キモノ姿が日常で、普段も仕事も、キモノの方もいらっしゃいます。

でも、茶道や華道、踊りや芸事、習い事やお稽古事に従事される方、花街や日本料理店、和風旅館や呉服屋くらいです。

一般の社会人ユーザーが常にキモノを着る、ということは、もう無いでしょう。
ですから、ほとんどの人は、非日常の特別な日か、趣味的に着たい場合に限られてしまうと思います。

キモノの製造に関わる者は、一般ユーザーです。
日常生活でも、仕事中でも、キモノを着ることはないのです。


きもの製作現場の誤解あるある

甲:「キモノを着ておられないのですか?」
と仕事中に尋ねられた時、判りやすさを心掛けて返答しています。

乙:『和服は好きですよ。たまに着ます。』

甲:「キモノのお仕事の方なのに、あまりお召になられないのですか?」

乙:『小売屋ではないからですよ。
一般消費者をお客さんとして、接客することはほとんどありません。
キモノ姿で、雰囲気を作り出す必要がないのです。
モノ作りに関わる仕事ですから、動きやすい格好が一番です。

すこしズレる話しかも知れませんが、例えば、
ネクタイ工場の職工さんは、多分、ネクタイ姿でお仕事されないと思います。
天ぷら屋の大将も、三度三度、天ぷらを食べているのではないでしょう。

製造に関わる仕事と、製品を享受することとは別のことだと思っています。

甲:「それは、そうですよね。…。」

乙:『個人的には、正月にキモノを着ようと思いますし、夏には浴衣を着ようとしますよ。
仕事から家に帰ると、キモノを着ていたこともありました。

キモノを着て楽しんだり、くつろいだりすることと、キモノの仕事をすることは、全く別のことです。
意外と気付いてもらえないところです。

仕事仲間の職工人も、仕事中に和服姿はゼロ人です。
手足を動かしますので、ラフな格好が多いですよ。

イメージ的には、たすき掛けの和服姿で職人さんが、友禅している。
なんてことがあるかも知れませんが。
せめて、それは、昭和までです。
何十年も前の過去の話です。

作務衣や甚平も、人気がありません。
お寺で働いているかのような、違う職業に見えるからでしょう。

スポーツウエアや、伸縮性のあるカジュアルウエアの方が多いと思います。

製作現場では、動きやすが重視されます。
だからキモノを着ません。

個人的には、キモノを着ること自体は、とても好きですよ。
普段と違う楽しさがありますから。
でも、仕事中は、着ないんですよ。
キモノよりも仕事をしやすい恰好があるからなんです。』

☆☆☆☆

キモノの仕事をする時は、キモノ姿。

これって、誤解あるあるを超えて、偏見ですよね。

〈おわり〉


☆おまけ☆ 

呉服屋さんあるある

「仕事中にキモノを着ないのですか?」
呉服屋さんからも尋ねられることがあります。

残念です。

自分はキモノを着て仕事をしているという、お仕着せ感覚からでしか、キモノ産業に関わる他の業種の人達を見ることが出来ないのでしょう。
キモノの小売屋さんも、偏った考え方を持つ場合があるのです。

この種の偏見は、他にもあります。

キモノは特別だ、キモノは伝統文化だ、民族衣装だ。
だから、どんなことをしてもいいんだという考え方です。

そのようなことは、例えば、接客に表れます。

十三参りや成人式の着物を求めに来る10代のユーザーさんを、ミドルやシニア世代のお店の人が接客します。
(もちろん、保護者の方も同席される場合があります。)

傍から見ると可笑しく感じます。
年齢ギャップ凄過ぎです。
10代のお客さんへの接客は、せめて20代で、かつ、同性のきもの屋さんが自然じゃないでしょうか。
ショップでのセール業務なら、ユーザーさん側と販売側との年齢の差は、せいぜい10歳差ぐらいまでが一般感覚の範囲でしょう。


若者を接客する高齢者。
多様性と言えば多様性ですが…

不思議な呉服屋の接客あるあるですよねー。

〈おしまい〉

PROFILE
中井 亮 | nakai ryou
1966年生まれ。京都府出身。そめもの屋。
幼少の頃より 家業のキモノ製作現場に親しむ。

友禅染めを中心に、古典柄から洒落着まで、様々なジャンルの後染めキモノ製作に携わる。模様染め呉服悉皆業を営む。
また、染色作品の個人制作や、中高校生へ基礎美術の指導を行っている。

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