Unreal Engineワールドへのキャプチャーオブジェクトの配置
2022年、当時の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のCG制作にゲーム開発エンジンである Unreal Engine を使用した特集記事が目についた。昔からCGを使った映像は見慣れていて、その映像クオリティが向上し、実写と見分けがつかなくなっているということは聞いていたが、Unreal Engineの本家のゲーム開発だけでなく、映像制作ツールとしての活用は思ったよりも先に進んでいた。
当時のゼミ生の多くは「映像制作」をテーマとして卒業研究にとり組んでいたのだが、学生たちにその記事を見せ Unreal Engineをツールとして使ってみたいかと聞いてみたところ、Unreal Engineよりも、それを開発した "Epic Games"の名前に皆飛びついた。Unreal Engineを使うためには、容量が大きく、グラフィックボードを持ったいわゆる"ゲーミングPC"が必要であるが、当時、これが動きそうなPCを4台確保できたので、早速インストールしてみた。
当時使用できたPCはゲーミングPCとしてはちょっと非力であり苦労も少なくなかったが、最終的にはクオリティの高い作品ができあがってきた。
この染岡ゼミ2023卒業生作品ダイジェストの2つめ「短編小説 狼少年と架空の星より」はUnreal Engineを使用して制作されたものである。
学生に環境を用意しとっかかりを示せば、多くの学生は自律的に技を習得し、作業を進めていけるのだが、肝心の私も Unreal Engineを使えるようにならないといけない。時間を見つけてはいろいろと試してみるという繰り返しだが、私はゲームをやらないので、まず用語の違いに四苦八苦。ゲーム経験者の学生に翻訳してもらいながらなんとか自分も使えるようになってきた。そこで自分自身の忘備録も兼ねてマニュアルを作成することにした。
アメリカ中西部のショッピングモールを探索する
Unreal Engineの特徴は、Epic Gamesが提供する豊富なアセット(この場合はパーツ集)を利用できる点にある。有料のものもあるが、無料のアセットをコレクションしておくだけでもなんとかなる。今回は Epic Games Launcherのマーケットプレイスで提供されている "Downtown West Modular Pack"の世界観をプロジェクトに追加し、この街をキャラクターがアメリカ中西部のショッピングモールを探索する映像を作成することにした。
まず Unreal Engineを起動し、「ゲーム」の中から「サードパーソン」を選択する。Unreal Engineのプロジェクトファイルはインストールするアセットにもよるが数ギガ~数十ギガバイトの容量をとるため、十分に余裕のあるドライブを選択する。プロジェクト名は適当につけられるが基本はアルファベットと数字しか使えないのと1文字目はアルファベットでなければいけないので要注意。ここではファイル名を "test202401"にしておいた。
次にEpic Games Launcher を起動し、「UnrealEngine」 の「ライブラリ」を選択し、購入?した"Downtown West Modular Pack"を選択する。
Unreal Engineに戻り、コンテンツブラウザーからDowntown_Westのプロジェクトを探し、そのMapsからDemo_Enviorment を呼び出すと街そのものを読み込むことができる。
マップの読み込みには少し時間がかかるが、読み込みが終了したらDowntown West Modular Packの写真で見た街の中にいた。
環境を読み込んだら、右上の「設定」から「ワールド設定」をひらき「ゲームモードオーバーライド」を 「BP_ThirdPersonGame」に設定する。これで、左上の緑の▷を押し、しばらく待って画面を一回クリックすると、Third Personモードでキャラクターを動かしながら街を散策することができるようになる。
ショッピングモールに「まほろばの標」を置いてみたい
2024年、理工学部のために来られた某先生が持ち込んだAI研究用のPCをゼミの学生が使わせてもらえるようになった。パソコンはパソコンなのだが、最高峰のCPUとグラフィックボードを備えるこれらのPCはAI研究用のPCであることは間違いないのだが、学生たちにとっては垂涎の最高峰ゲーミングPCということもできる。古いPCのパーツを集めてだましだまし使っていたこれまでの苦労をあざ笑うかのように広大で複雑な空間をキャラクターたちは高速でさくさくと走り回っている。環境が良くなったからだろうか、3年のゼミ生たちは数か月で多彩な成果をあげつづけるようになった。このままではしめしがつかないので、新しい要素をいれてみることにした。
2014年11月。安田女子大学の芝生広場に世羅町出身の彫刻家 杭谷一東氏制作のオブジェ「まほろばの標」が設置された。この大理石のオブジェは触感がすべすべしており、その形状に誘われるのか、これに登ったり、くぼみに二人並んで座ったり、内側を滑り台のようにすべってみたりと子どもたちはもとより一部の学生たちがやりたい放題している場面に時々出くわすことがある。
2019年、造形デザイン学科一期生のゼミ生の1名が卒論で写真から3Dオブジェクトを制作するSfM(Structure from Motion)に取り組んでいた。レーザースキャナーを使わないで写真だけで3Dデータを作成しようという試みである。水の広場やドローンを飛ばして9号館の制作に挑戦したがなかなかうまくいかない中、まほろばの標を取り囲むように撮影した70枚の写真から3Dデーの取り出すことに成功した。
写真から点群データを取得できたのは良いが、当時の技術では点群のノイズを除去し、面を貼り・・・で3Dプリントまで一筋縄でいくわけもなく、複数のソフトを組み合わせて卒論発表会ギリギリのタイミングで3Dプリントまでたどり着くことができた。
2019年に5か月かけて処理を行ったSfMであるが、最近 Epic Games Launcher に Reality Capture なるアプリが追加されていて、どうやら写真から3Dデータを取り出す機能もあるようなので、当時撮影したまほろばの標の写真を入れて処理してみたところ・・・・なんと5分足らずでテクスチャーを貼ったカラー3Dモデルまであっさりと出てきてしまった・・・
ということで、この3Dモデルを fbxで書き出し、Downtown Westに設置完了。ゲームに慣れていないがゲームモードで画面キャプチャーしPVを作成した。めでたしめでたし。