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緑茶のティーバッグはなぜ『美味しくない』のか

こんにちは。名古屋で伊勢茶カフェの店長をしています、松本壮真(まつもとそうま)です。

以前友人にもらった『GUINNESS』という黒ビールを飲んだのですが、めちゃくちゃ久しぶりにお酒を飲んだからかなんとなく体調が悪いです…笑

そんな中、書きます。言い訳です。

今日は、『ティーバッグ(以下TB)はなぜ美味しくないのか』について詳しく話しますね。厳密には「なぜ美味しくないイメージを持つ人が多いのか」という話をします。

ちなみにそんなに大事な話ではないんですが、「ティーパック」「ティーバッグ」どっちで呼べばいいんだろうと思っている方もいるかもしれませんが、一応「ティーバッ『グ』(tea bag)」が正式とされています。パックでも良いような気もしますけどね。笑

ティーバッグの歴史

以前ティーバッグ(TB)についてアルバイトの子が調べてくれた資料があったので、そこから抜粋&要約します。

一般的にはニューヨークの貿易商Thomas Sullivan氏が1908年にTBを考案したと信じられているのですが(僕は初めて知りました)、実はこれは事実ではない。本当は、ウィスコンシン州の2人の女性LawsonさんとMolarenさんは1901年8月26日に当時としては珍しい「茶葉ホルダー」なるものの特許を申請している。①毎回ポットで淹れると手間がかかる②かなりの量の茶葉がいる③直ぐに飲まなければ新鮮さが失われて満足のいく味にならない⇒結果残って捨てられる、という理由から作ったそうです。

ここで注目したいのは、「味」は重視されていなかたんですね。そして、Thomas Sullivanさんが作ったTBも「味はお粗末だった」と記されている(そもそも接着に使った糊で味が台無しだったそう)。

当初、TBはイギリスには受け入れられませんでした。伝統を重んじるイギリスには合わなかったようです(とはいえ現在ではイギリスで消費される紅茶のうち98%がTBであり、「イギリスにはリーフとティーバッグ、どちらが良いという概念が無い」と書いてある記事すらありました)。

流行ったのはアメリカだったそうです。ファーストフードが相次いで開発されていた時期に普及したと言われています。この時にも当然利便性が重視されていました。

日本では1965年ごろから10年ほどかけて普及したと言われています。

今ではTBも紙製のものからナイロン製のものまで(あとはトウモロコシ原料に使ったものまで)色んなものがあります(ちなみに、ウチもトウモロコシ製のものを試したのですが破れやすくてやめたようです)。そして形も平らなものからテトラ型などがあります。

良い茶葉はリーフで。

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かつてのイギリスのように、「良い茶葉は急須で飲むもの」という認識が未だにお茶業界では根強いです。「美味しいお茶を作る!」という事を信条にして丁寧に丁寧にお茶を育てているお茶農家でも、TBはこだわっていなかったりします。もちろんTBもこだわっているお茶農家さんもあるとは思うのですが、全体で見るとこの『良い茶葉は急須用』という価値観は結構根強いです。※ウチの『千寿』クラスの茶葉をTBにしていると知ったら発狂する人もいるかもしれません笑

「良い茶葉は急須用、そうじゃないものはTB用」というのは「赤信号は止まる、青信号は進む」くらい、何の疑いもなくほぼ常識になっているような感じさえあります。

「美味しいTBを作る」ってなった時に、僕が言われたのは「TBを飲む人はお茶にこだわってないから売れないよ」という言葉でした。これはお茶農家の方にも言われたし、お茶を販売されている方にも言われました。これ、本当にめちゃくちゃ色んな人に、しかも強く強く言われました。ただ僕はその意見には懐疑的でした。「美味しいTBを求めている人はいるはず」と信じていました。僕自身がそうだったので。一人暮らしで自炊をしなかった僕は、生ゴミが出るのが嫌で急須で淹れるのが億劫でした。でも美味しいお茶が飲みたい時はありました。この他にも色んな事情があって急須で淹れるのは厳しいけど、美味しいお茶は飲みたいって人は確実にいると信じていました。

つくってみて、お客さんの声を聞いて、やはり僕の考えは間違っていなかった「TBを飲む人の中にも味にこだわる人もいる」という事が証明できたと今では思います。

TBの原料

「お茶=葉っぱ」というイメージの方が多いかもしれないのですが、一般的なTBの袋を開けてみると「茎」と「粉」みたいなものが入っているかと思います。あれはお茶業界では「出物(でもの)」と言われるもので、製造途中に出る「最終的に茶葉にならない部分」です。「茎」や「枝の皮」「粉」(粉末緑茶とは別です)などが「出物」にあたります<ごめんなさい、分かりやすい「出物」写真がなかった>。この出物だけを使ったTBも多いですし、この出物を混ぜているTBも多いです。

※ちなみに深緑茶房では、TB用にブレンドした茶葉を使っていましたが以前からTBに使うのは「茶葉のみ」でした。

そもそも、茶葉と一般的なTBを比べると原料から全く違うものを使っているんです。それは同じものになるわけないですよね。

あ、別に「出物」自体がダメと言っているわけではないです。出物は出物でもともと捨てる部分ではないでの、出物の楽しみ方みたいのがあります。

なぜ抹茶・粉末緑茶を混ぜるのか

TBパッケージの裏側を見ると、原料に抹茶や粉末緑茶が入っているものがあります。

一番お茶が美味しい(栄養価が高い、成分が多い)とされるのは、冬の間にたっぷりと蓄えた4〜5月頃に摘む、いわゆる『新茶・一番茶』と言われるものです。お茶って年に何回か摘んだりするのですが(お茶農家によります)、ウチは一番茶のみをお出ししていて、2番茶以降は問屋さんに卸しています。ちなみに1番茶と2番茶や秋番茶を比べると、明らかに味が違います(もしよかったらそんなワークショップをしましょう)。2番茶以降の方が渋い(苦い)&味に深みがないです。TBには2番茶以降を使う事も多いです。

<今回の話には直接関係ないので飛ばしてもらってOKです①>
『え……?じゃあ2月に売ってるお茶も4月とかに摘んだお茶?え?古くない?鮮度大丈夫?』と思われるかもしれません。また後日詳しく書きますが、必ずしも新茶が美味しいというわけではないんですね。お茶って低温で寝かせる事によって味が馴染みます(?)。カドが取れてまろやかな味わいになるんですね。ウチのように寒い地域で取れるお茶は特に寝かせたお茶の方が特徴的だったりもします。スッキリとした新茶と、まろやかな寝かせたお茶。どっちもそれぞれに良さがあります。

なぜTBの中身に抹茶などを混ぜるかずばり言うと、『茶葉だけでは味がもの足りない(と感じる)から』です。そのお茶屋さんが茶葉で販売する全商品にも混ぜているなら別ですが、基本的には不足分を補うために混ぜます。なんか「混ぜる」っていう言い方は良くないですね。全然これ自体は悪い事ではないと思っています。騙してるとかではなく、優先度が低いってだけの話なので全然良いと思います。というかむしろ、物足りないままじゃなくて抹茶・粉末緑茶を入れてる分こだわっているようにも思います。
※『抹茶と粉末緑茶の違い』そして『ちょっとブラック(ボックス)な抹茶の話』も機会があれば記事にしますね。後者は誤解あると大変なのでだいぶ慎重に書きます。

<今回の話には直接関係ないので飛ばしてもらってOKです②>
抹茶や粉末緑茶を入れると何が変わるかと言うと、味と色が変わります。特にちゃんとした抹茶を混ぜる場合には、お茶に「旨味」がプラスされます。あとは直接「粉末」が湯呑に出るので、色がしっかりとした緑色になります。

急須の方が美味しいという論文は無い

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※写真はイメージです

日本一大きいお茶の研究センターに通っていた同期に聞いた事があります。「急須の方が美味しいって明確なデータや論文ってあるの?」って。同期も気になってセンターの方に聞いたそうです。そしたら、『無い』との事。そして、こう続けたそうです。「急須の方が美味しいと証明したい人たちはいっぱいいる。それでもなお、現時点でそういう論文が出てないということはそういう事(証明できないという事)だと思う」と。これめちゃくちゃ説得力ありますよね。笑

僕も「急須の方が美味しい」という話自体は昔からよく聞きました。でも「何が違うのかなぁ?」と思っていました。

もちろん急須で淹れる人の技術によって味が変わるという事はあると思うので、職人技のように急須で美味しいお茶を淹れる方はいると思います。それは納得できます。ただ少なくとも、「同じ茶葉なのにTBで淹れるとまずい」という話はないだろうと思います。

イギリスでは、TBは「誰でも美味しく淹れられる」という認識があるようです(イギリス人に聞いたわけではないので確証はないです)。日本茶もTBは誰でも美味しく淹れられます(下記の『おまけ』に詳しく書きます)。

そんなこんなで結論!!

「ティーバッグだから美味しくない」のではなく、「美味しくないティーバッグがある」というのが正しい認識!美味しい茶葉を使えばティーバッグも当然ながら美味しい!

というのが今回の結論です。

おまけ 〜不思議なTBの話〜

高級茶も熱湯30秒で淹れられる不思議なTBのお話しです。

2019年6月に「こだわったTBをつくろう」という事で、つくってみたんですね。確かに美味しいんですが、販売当初は急須で淹れる時のように温度を調整してました。「このお茶は70℃」「このお茶は高級茶だから(芽が若いから)60℃」みたいに。当初はTBなのに全然手軽さがなかったんですね(笑)

『なんかTBにした意味ないなぁ…』と薄々感じていました。でも「良いお茶は温度を下げなければいけない」という常識にとらわれていた僕たちには、「TBも温度を調整する」というのが当たり前になってしまっていました。

もうこの「良いお茶は温度を下げる」って、お茶業界的には「月曜日の次は火曜日」くらい当たり前のことなんです。そしてお茶業界にいる者にとってはこれはもう『反射』です。「高級茶→温度下げる!」くらい反射的に出てくる言葉です。「そうとしかあり得ない」と思っていました。ずっと。

で、ある日何気なくウチの会長に「なんかこのままだとTBは急須の劣化版みたいな扱いになってしまうから、これをなんとかしたい。味を変えずにもっとTBらしさを出してお客さんに伝えたい」と無茶ぶりをしました。そしたらなんと1週間以内に、「ポットから直接お湯を入れて30秒で美味しく淹れられたよ」と連絡がきました。その時もまだ疑ってました、ぼく。本当に「温度を下げない」なんていうの、それくらいあり得ない事だったんです。「高級茶を熱湯で淹れる」なんて、、、と思ってました。玉露の入った急須に熱湯入れようとしたらビンタされますよ。知らんけど。

で、実際淹れてみたら、あら不思議。本当に美味しいんです。通常、熱湯で淹れると渋味がガッと出るんですが、TBは渋味が出なかったんです。

これ明確な論文がないのでハッキリした原因はお伝えできないんですが、「TBの場合は茶葉が開きにくいからではないか」という結論に勝手になっています(誰かご存知だったら教えてください)。

事実として、TBは熱湯で淹れても渋くならないという事を確認しました。

めちゃくちゃ淹れ方を伝えるのがラクになりました。以下の画像はTBを購入してくれたお客さんにお付けしている淹れ方カードです。

TB淹れ方_香小町・伊勢玉緑茶_A7

TB淹れ方_千寿・深緑_A7

「TBは美味しくない」というイメージをこれからも覆し続けていきたいと思います。

というわけで、今日は「TBが美味しくない理由」改め、『美味しくないTBがある理由』についてお伝えしました

今日はここまでにします
ではまたあした

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