U-フレットとか楽器.meなどを見て弾き語り配信してる人を聞いてきになること・その2(中島みゆきの「糸」を例にクリシェについて)
前回よりも今回は、特にギターで弾く場合は単純に出来ないところがあり、説明もかなりのボリュームになります。また前回のようによく分からなかったらとりあえずこう弾いておくのがいいという結論もないので(私ならこう弾く程度の提示はしますが)ご了解ください。
今回は中島みゆきさんの「糸」などで出て来る進行です。非常によく出て来る進行だし、原則はシンプルなのですが、細かく説明すると意外と大変です。
「織りなす布はいつか誰かの」っていう歌詞のところです。
前回と同じくU-フレットとか楽器.me、更に今回はJ-Total Musicで書かれているものを見てみましょう。
Uフレット
楽器.me
J-Total Music
J-Total Music~初心者向け簡単Ver.~
オリジナルキーはB♭で、これらは3カポでやるように指定さてれます。カポ無しでこのまま弾くとキーはGになりますね。
さて、これはいわゆるクリシェと言われる進行ですね。クリシェとはコードトーンの一つを、他の音は維持しながら動かしていく技法です。
この場合はマイナーコードの1度(8度)の音を半音ずつ下降させていきます。この場合Em(E G B)のEの音をE→D#→D→C#と下降させていっています。ところがこれ三つのサイトでこのように表記が全部違っていますね。このクリシェは
1,一番下のベース音をE→D#→D→C#と下降させるか、
2,ベース音はEで維持したまま上の方の音でE→D#→D→C#と下降させるか
で大きく分けることが出来ます。コードネームを書くと
1,Em→EmM7→Em7→Em6
2,Em→Em/D#→Em/D→Em/C#
となります。上の3つのサイトに書かれているのこれのは全てこれのバリエーションと言えます。Em/C#はC#m7-5と同じですが、Em/C#の方がコードの中の1音が変化していることが分かりやすのでこう書きました。実際にはC#m7-5と書かれる方が多いです。
Uフレットのは最後がC#m7-5となっていますが、ベース音をEにしたらEm6になって1のそのままになります。楽器.meのは1と2を両方書いてしまっていてベース音を下げたいならば2の書き方で十分なのではないかと思います。J-Total Musicの初心者向けじゃない方は表記としてあまり良くないと思いますが、この表記もしばしば見かけます。
このコード進行を実際に弾く時に問題となるのはEm/D#のところで短9度という不協和音が出て来ることです。なので不協和音を避けるためにEの音を弾かない(omitする)ことがよくあります。そうするとJ-Total Musicのに書かれているD#augというコードと同じ音になります。ただしこうするコードの中の1音が変化していることが分かりにくいのでEm(omit1)/D#と書くのがいい気がしますが、まあ見ることはほとんどない表記ですね。EmM7でもUフレットの押さえ方では1弦と4弦が短9度の音程になり不協和音となりますので、それを避ける人もいます。
以前に誰かがギター弾き語りでこの進行を弾いていて、前半にアルペジオで弾いているときは不協和音を避け、後半ストロークの時には不協和音も気にせず弾いているのを見たことがありますが、一つの良い方法だと思います。
さてさてでは実際にどう弾くのがよいか考えてみます。ますベース音(ルート音)をそのままで上の音を変化させる場合はUフレット押さえ方は、不協和音を気にしないのであれば、外声内声の流れ、押さえ易さの観点からも、有力な選択肢でしょう。最後のC#m7-5はベース音をそのままEを鳴らしてEm6にしても全く問題ないので次のようにすることも出来ます。
譜例1
こうすると低いBの音が最後のところで消えている以外はコードの中の一音だけが変化していることになるので、クリシェの本来の意図にはよく適っています。J-Total Music~初心者向け簡単Ver.~も押さえ方こそ書いてありませんが、Uフレットのと比べてC#m7-5がA7になっているだけ(代理関係にあります)なので、どちらも有力な選択肢だと思います。
不協和音を避けるとしたら次のように押さえることも出来ます。
譜例2
ストロークで弾くとしたら5弦のミュートが大変でしょうが、アルペジオで弾く場合などは有力な選択肢になるのではないでしょうか。「糸」を弾く時に使うかはともかく個人的にはたまに使う押さえ方です。
では次にベース音を下げる場合ですが、6弦開放でEを鳴らしてしまうとそれより下の音はありませんので4弦2フレットから初めて次のようなのが考えられます。
譜例3
これも一音だけ変化するという意図に完全に沿っています。
さて、次に不協和音を避けたい場合どうするかということですが、例えば次のようなやり方が考えられます。
譜例4
二番目のコードはどう表記すべきかよく分かりませんが、あくまでEmであることを基準に表記してみました。ちなみに2つ目のコードだけトップノートが変わるので、トップノートでメロディーを作るイメージで3番めのコードの一弦の音を変えて例えば…
譜例5
こうしてみるとキーは違いますが三番目のコードまでレッド・ツェッペリンの「天国への階段」階段のような感じになりますね。個人的には「糸」をこのキーで弾くとしたらこれを適当にアルペジオで弾くの選択するかなー。
ところでこの曲を福山雅治さんもやっております。
キーはEですが4フレットにカポをして、カポなしだとCになる形ですね。Uフレットで見ると
聞いた感じ福山さんもこんな感じで弾いてますね。実際僕もこっちのキーで弾くとしたらこんな感じで弾くかもしれません。
さてこれもAmのうちの一音だけ動かすというクリシェのコンセプトに忠実に五線譜にすると下記のようになります。
譜例6
譜例7
譜例6はギターでは弾けませんし、譜例7もAm/G#をこの位置で弾くのは不可能ではないけど大変です。ピアノだとどちらも超簡単そうですが。
上の方の音を下降させる譜例6のような感じだとA→G#→G→F#と下降するF#をオクターブ上げざるを得ず下記のように弾くことになるでしょう。
譜例8
福山さんに場合はこれのAm6のところをルートをDにしてD7にしている形でかなり近いですね。キーがGの時のJ-Total Music~初心者向け簡単Ver.~がちょうど福山さんのやってる進行と同じになります。このタイプのクリシェのバリエーションとしてよく聞きます。
ベース音を下げるパターンの場合はEmの時の譜例3~5をAmに平行移動すると下記のようになります。
譜例9
譜例10
譜例11
ところで「天国への階段」と言えば数年前盗作訴訟がありましたね。訴えたSpiritというバンドの「Taurus」という曲では下記のようになってるようです。
譜例12
裁判はレッド・ツェッペリンの勝訴になったようですが、全く当然です。こんなのを盗作とされたら音楽出来なくなりますよ。それはともかくこの押さえ方は必要十分な音のみで出来ているので良いのですが、最低音が高い点(これは譜例9以降共通していますが)、鳴らしてる音数が少ないという点で前後関係によっては使いづらいかもですね。しかしこれに低音のAを加えると両方の問題が解決します。
譜例13
この押さえ方をこの曲で採用するかどうかはともかく、クリシェのコンセプトに忠実でギターで弾くのも現実的ということで、覚えておいてもいいかもですね。
さてところで最初の方に挙げたJ-Total Musicのこのコードネームを見て皆さんはどう弾きますか?
特にD#aug。D#augを検索して出て来るものを見てみましょう。
これらのどれでもD#augだから同じだろうと適当に選ぶとよくない結果になる可能性があります。例えば一番最初のやつを選ぶとしましょう。他のコードも検索して一番最初に出て来るやつで繋いでみます。
譜例14
同じコードの中の一音だけ動かすというクリシェのコンセプトからはかなり離れたガタガタな感じになってるのが分かると思います。
色々と細かく書き過ぎたかもしれませんが、本来コードの一音だけを動かすというコンセプトであるということを理解していればどの押さえ方を選択するかということの助けになるのではないかと思います。そのためにもコードネームに惑わされないことも重要ですね。D#augなどはこの事情を非常に分かりにくくするので気をつけましょう。よく出て来るので慣れれば見抜けるようになると思います。