絶景温泉200#9【城崎温泉の温泉街】
新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。
第9回は、城崎温泉の温泉街(兵庫県)。
『絶景温泉100』(幻冬舎)のラインナップを決める際、最後の最後まで入れるかどうか悩んだのが、城崎温泉である。
1300年の歴史を誇る城崎温泉(兵庫県豊岡市)といえば、作家・志賀直哉の「城の崎にて」で名を馳せた名湯。城崎の最大の魅力は、島崎藤村や与謝野晶子など多くの文人・墨客に愛された風情ある街並みだ。
温泉街の中心を流れる大谿川にかかる石造りの太鼓橋と、川に沿って並び立つ柳の木。春は桜、冬は雪が景色に彩りを添える。まさに絵になる風景が続く。
温泉街に繰り出すと目に入るのが浴衣姿。かろんころん。下駄を鳴らして宿泊客が外湯(共同浴場)めぐりを楽しんでいる光景は、温泉地の原風景ともいえる。
他の温泉街ではあまり見られなくなった光景であるが、城崎の宿泊客のほとんどが浴衣姿で7つの外湯に出かける。というのも、街全体をひとつの宿に見立てて旅人を迎えるのが城崎流だからだ。駅が玄関、旅館が客室、柳並木が廊下、外湯が大浴場・・・というわけだ。
外湯をめぐる湯客の姿も含め、温泉街の風情は日本有数である。「温泉街の絶景」と呼ぶにふさわしい。それでも『絶景温泉100』への掲載を見送ったのは、城崎のシンボルでもある外湯の源泉の質が許容範囲外だったからだ。
ひっきりなしに入浴客がやってくるので、衛生面を考えれば循環ろ過・塩素消毒は仕方ないが、あまりにカルキ臭が強く、湯を愉しむことができなかった苦い思い出がある。
ただ、昨年、10年ぶりに城崎の外湯をめぐったが、循環ろ過は変わらぬものの、カルキ臭は最低限に抑えられており、源泉からストレスを感じることはなかった。
また、内湯に源泉かけ流しの湯船をもつ旅館が多いので、宿さえ選べば湯を重視する人も満足できる可能性が高い(ちなみに、各宿に配湯される源泉は制限されているため、どこも湯船は小さい)。
これらの理由から、「絶景温泉200」には当然リストアップされるべきだと考えたわけだ。
温泉街は昼間も風情漂うが、個人的に好きなのは夕暮れから夜にかけての風景だ。街灯や宿から漏れる明かりに照らされた温泉街は、夜も人の往来が絶えない。浴衣でそぞろ歩きを楽しむ親子、相手が湯から出てくるのを待つ夫婦やカップルの姿・・・。
歌舞伎座のような威風堂々とした外観と洞窟風呂が名物の外湯「一の湯」の近くには、歌人・与謝野晶子の歌碑が建つ。
「日没を 円山川に見てもなほ 夜明めきたり 城崎くれば」。日没後の温泉街は活気に満ちていて、まるで夜明けのような明るさだと、城崎のにぎわいを表現している。時代を経ても街のにぎわいは変わらないようだ。
絶景スポットをもうひとつ。ロープウェイに乗り込み、大師山(標高231m)の山頂へ登ってみてはどうだろう。展望台から三方を山に囲まれた温泉街を見下ろすと、狭い谷間に広がる街の向こうに、円山川と日本海。うっすらと丹後半島も。
隣りにいた若い関西人カップルが「うわぁ絶景やん」と感嘆の声を漏らしていたのに倣い、私も心の中で「ほんまに絶景やん」とつぶやいた。
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