
光
2月2日 日よう日
冬が終わる1日だった。春を迎えるための1日だった。
下津光史さんのワンマンライブに行った。
前日2月1日に下津さんのインスタでライブの存在を知る。なんと、たった2駅先の重要文化財が会場というから行くしかない。
しかも、そもそも下津さんをフォローしたのがその3日前で、この奇跡に胸が踊る。人生を動かす予感のする、偶然。そうそう、私はこういうのが好きなんだった。
整理番号がほぼ最後尾だったので、自由席だったものの最後列を選ばざるを得なかった。本音を言うとやはりもう少し前で聴けたらよかった。最前、とは言わないけれど、この席よりたった2列前へ座るだけでも全く違う体験だろうな、と思った。
否、逆にあの最後列で良かったのかもしれない。近すぎればきっと、夢の中、光の中に完全に溶けてしまっていただろう。現実との間を彷徨うくらいが丁度良い。私の非日常は、すぐ夢かはたまた誰かの記憶みたく遠くへいってしまうから。
あの、娘にスケボーを教えていたら大事な中指を捻挫したと笑う陽気な関西弁の男からは、色や情景付きの音が溢れ出していた。
ギター1本で春を感じさせ、風を浴びせ、海を見せた。独特な声で愛を届け、平和を教え、広い大地へと誘った。
13曲目に、いちばん好きな踊ってばかりの国の「サテン」を披露してくれた。文字通り、泣きそうになった。声が私を包み、抱きしめてくれたみたいだった。
いつも簡単に飽きる2時間弱は、すぐに過ぎていった。会場の全員がただただ光の中で揺らいでいた。
思えば、音楽でここまで感動したことは今まであっただろうか。
初めてと言い切ってしまうにはわざとらしいが、だがしかしこんなにも好きだと思えるのは。胸をいっぱいにさせるのは。きっと人生で稀なことだろう。
途中、下津さんはMCで「皆さんは冬が好きですか」と問うた。そして、「僕は冬でいっぱい我慢して、そしてやってくる春が好きです」的なことを言っていた。言葉自体は曖昧だが、強く印象に残った。
私は夏好きを自認してからというもの、自然と冬嫌いも付いてくるようになった。でも、冬が来ないと夏は来ない。当たり前のことだけれど。何より確かに、春は冬のあとだからあんなにも心地が良いのだ。
そのMCのあとに歌ってくれた「ツクシ」もすごく良かったな。
まだまだ寒くとも、まずは暦から、世界は少しずつ春になってゆくのだ。会場を出ても京都の空は相変わらず曇天だったが、春をさきどる暖かな光を胸に抱え、帰路についた。