交際392日目 帰ってきた言葉に救われる

『良くはない。
でも最悪ではない。』
彼がポジティブでない状況でよく言う言葉だ。

彼が窮地に立たされた時に言う言葉。
彼らしいと思う。
わたしが好きな物の見方だ。
その言葉に何度も力をもらっていた。

さて、最近の私は拘束がない分、
どこかいつも不安で、自分に自信がない。
これができない、あれも迫ってくる、
どうしよう。とぐるぐるしている。

自分の状況を見ては、
妄想して怯えて、焦っている。

先日ドライブ中に、急に聞かれた。
『いつ僕のこといいなと思ったの?』

私はメンタル女の子なので、
彼に何度か聞いたことがある。
「いつから私のこといいなと思ったの?」

割と付き合いたての頃、
何度聞いても教えてくれなかった。
「言いたくない」だそうで。
少し粘ったけれど、
「多分聞いても嬉しくないと思う」と言われ、
寂しさを感じながらも聞くのをやめてしまった。

だから急にはじまりの話をした事に、驚いた。
私たちの距離が近くなったのは、
私が色々諦めて、好意が伝わることを恐れなくなったからだ。
恐らく起点は私で、急に関係が発展するまでは、
彼にとって特に気になる人物ではなかっただろうと予想していた。

多分はじめからですと吐いたあと、どうしても気になってしまった。

「どうして聞いたの?」

『いや、去年の日記見てたら、京香出てきたんだよね』
夏ごろで、付き合う半年ほどまえのことだ。
「私も覚えている。」
その時期1年目にしては驚異の、
二十何連勤を重ねている彼が、仕事の話をしていた。

仮配置2ヶ月目。
たまたま会って、立ち話だったけれど
割と長時間話し込んだ。

自分の仕事内容だとか、
今の環境について話していた。

基本的に彼は愚痴を言うタイプでもなく、
その時も愚痴を言われたとは思っていなくて、
ただ、しんどいんだろうなと思っていた。

そして同時に私は精神的に厳しい時期で、
自分の望む場所から程遠い職場で、
自分の理想と対極な、
なんなら想像してもいなかったような、
悪い状態にいた。

その時のわたしにとって、
彼のその時の仕事が単純に、
私にとって理想に近かったのだ。

だから一言ポンッと言い放った。
『そんなに悪くないんじゃない?』

後になって、想定していた以上に
彼はネガティブな状況にいたことが分かったので、
付き合ってから、この無責任な発言を実は悔いていた。
そもそも別に彼の為でもなんでもなく言った言葉だ。

そう、ただただしんどいという彼の状況が、
私の視点では、
喉から手が出るほど羨ましかっただけだ。

「今考えたら無責任だよね。」
私の言葉に、いや、と彼が話す。
『あの時僕にとって都合の良いことだけを言わない人だと思った。』と続けた。

そういう見方もできるか、と思っていた。

彼は続ける。
『僕よく、最悪ではないって言うじゃないですか。』
「うん。」
『それはあの時の言葉がきっかけなんですよね。』

『そんなに悪くないんじゃない。』

自分が放った言葉が、
彼のいいなと思うところの一部になって、
回りまわって自分の弱くて柔らかい心のどこかに、
すっと帰ってきた。

そんなに悪くない。
最悪じゃない。

どんなにポジティブで居ようとしても、
不安で仕方がない自分の心を、
僅かに溶かしたのは、過去の自分が放った言葉だった。

そして何気なく放ったその言葉が、
私にとって、かけがえのない関係性の種を植えていた。
そして、彼の価値観にすら影響を与えている。

愛おしくてたまらない、この瞬間に繋がっている。

うまくいかないし、目の前の事には焦るし、
自分の不甲斐なさに情けなくなる。

でもそんな時に必要なことを、私はもう知っていた。
探し求めて探し求めていたものが、
実は手の中にあった。そんな感覚。

聞いたことはあった。
でも初めて理解できた。

何がどう繋がって、
今の幸福をもたらすのかなんて、
私の頭で考えられる範囲のことではない。

だから不安になった時は、誰かによりかかりながら、
そっと呟こうと思う。

そんなに悪くないんじゃない。

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