まちの魅力を愛情をもって受け取り、磨き、言語化して伝えていく - 岩手県釜石市 地域活性化起業人 -
「地域活性化起業人制度」で岩手県釜石市へ派遣されている池井戸 葵さんへ、公式note編集長のみやたけ(@udon_miyatake)がインタビューしてきました!🎤
ソウルドアウトでは、企業経営者の想いを伺い、理念を策定する「想いの言語化」サービスを提供されている池井戸さん。釜石ではどのような活動をされているのでしょうか?
釜石では、地域貢献活動に幅広く積極的に取り組む
─── 釜石市での業務内容を教えてください!
池井戸:釜石市の魅力や価値を見つけ、磨き、魅力的な言葉にして、発信する活動をしています。
具体的には、釜石市の観光コンセプトの言語化と、サイト制作による発信、紹介パンフレットの作成、ワーケーションサイトやパンフレットの制作を行なっています。また、来釜する前の主な仕事は、企業の代表の方の想いを「経営理念」に落とし込み、発信するというもので、釜石でも地元企業の理念づくりや、経営や事業コンセプトの策定などに取り組んでいます。
加えて、釜石市役所からお声がけいただき、中高生に向けたキャリア教育の一環として「自分らしく楽しく生きる」ための授業を行なったり、企業向けにマーケティングセミナーを開いたりと、地域にお役立ちできる機会があれば、積極的に取り組んでいます。
─── 「自分らしく楽しく生きる」ための授業というと、どういった内容のお話をされたのでしょうか?詳しく教えてください!
池井戸:この授業は、釜石市の行政や民間企業が一体となって進めている「釜石コンパス」というプロジェクトの一環で、実施させていただくことになりました。「釜石コンパス」は、高校生が人生の先輩から生き方や働き方について学ぶことで、将来についての考えを深め、一歩踏み出すきっかけを提供するというプロジェクトです。
授業では私自身の体験談をもとに、「自分らしく、楽しく生きるヒミツ4つ:“それ間違ってるよ“って言われないか、不安に思うことがある方へ」というテーマでお話させていただきました。実は私は、中学生から大学生の頃、生きることにものすごく悩んでいたんです。なぜ生きる必要があるのか?答えを強烈に求めていました。そのとき、本当に尊敬できる人に出会ったことをきっかけに、人生を楽しく、前向きに生きられるようになったんです。授業ではこの経験を踏まえ、私が特に大事にしている考え方のヒントを4つ、お伝えしています。
人生はほかの誰のものでもなく、自分自身のものです。誰かを幸せにするためには、まずは自分が幸せである必要があること。喜びと感動に満ちた人生を送ることが最も大切であること。自分の可能性を信じて、自由に考えて自分で決めるということ。未来をつくるのは自分の話した言葉だから、肯定的な言葉を使うということ。そういったお話をしました。
中高生からは「自信がもてた」「けがをして人生が暗いと感じてしまっていたけれど、もう一度明るく生きられそう」といった感想をいただきました。一人ひとりがのびのびと楽しく生きるヒントになっていたら嬉しいです。
観光地域コンセプトを言語化。全員の言葉を一致させる
─── 中高生からの感想を拝見し、思わず目頭が熱くなりました……。では、もっとも力を入れている”言語化”のお仕事にフォーカスしていきます。釜石市の観光コンセプト「オープン・フィールド・ミュージアム」の言語化・発信に関する業務では、どういった活動をされていたのでしょうか?
池井戸:赴任当時、「オープン・フィールド・ミュージアム」という構想はあったものの、説明が難しい、細かい部分での解釈が人によって異なる、といった問題がありました。そこで、まずは関係者の中で「オープン・フィールド・ミュージアム」の共通認識をつくるところから始めました。
─── どうやって言語化していったのでしょうか?
池井戸:私の感覚でつくるのではなく、まちの皆さんが今後も使うことのできる、「地に足の着いた」言葉をつくりたいと考えていました。
まず、釜石市商工観光課の方、かまいしDMCの河東社長をはじめ、関係者の方々にこの構想に関するヒアリングを行なった上で話し合いの場を設け、言葉を一つひとつ確認しながら、共通言語をつくっていきました。
─── 全員の共通言語をつくりあげる過程では、どのような苦労があったのでしょうか?
池井戸:立場によって解釈が異なる場面もあったのですが、その立場だからこその意見であって、すべて正しいんです。「正義の反対は正義」だということを痛感しながら、着地点を探る難しさがありました。
例えば、「育む」「育まれる」という言葉尻一つをとっても、意味が変わってきます。一つひとつの言葉を一緒に検討し、調整していきました。いつも支えてくださった商工観光課の皆さまや、かまいしDMCの河東社長には、本当に感謝しています。
─── 全員の立場や考えていることを考慮しながら進めていかれたのですね。では、「オープン・フィールド・ミュージアム」はどう言語化されたのでしょうか?
池井戸:釜石全域を「屋根のない博物館」と見立てた観光地域コンセプトとして、改めて定義付けしています。
まちの自然や歴史、生業や人の生き様など、すべてが宝物です。宝物を発掘して、訪れる人が楽しめるように磨き、紹介しているのが釜石なんです。例えば、地元の魅力を楽しめるように体験コンテンツを企画したり、商品を開発したり、ですね。空間すべてが博物館なので、ふらっと訪れても、何気なく宝物に触れて楽しむことができ、ほしかったヒントが見つかる。そんなまちだと定義しています。
しかし、それなら「観光コンセプト」と書けばいいのでは、と思われるかもしれません。
なぜ観光「地域」コンセプトなのか。それは、観光による「地域づくり」を大切にしているからです。人口が減少していく社会の中で、ずっと続く地域でありたい。まちを愛し、誇りをもって住む人を増やしたい、と考えているんです。だからこそ、宝物を紹介するのは、まちの人全員です。紹介する過程で、まちの魅力に改めて触れて、誇りや郷土愛が育まれていくことを期待しています。
最終的に目指しているのは、持続可能な観光地をつくることです。人々が生き生きと暮らし、ファンが定期的に訪れるまち。まちの歴史や自然が保存され、それが人口増加やファンづくりにさらに繋がっているまち。そんな観光地を目指しています。
この観光地域コンセプトは「地域づくり」の視点が強めだと感じていました。しかし、観光コンセプトでもあるので、観光客へのメリットはすごく大切です。ですので、最も大切にしている考え方として、あえて以下のメッセージを作成しました。今後、人が入れ替わり「『オープン・フィールド・ミュージアム』って何?」といった話が出てくる可能性があります。そんなときに立ち返る原点になれば、と考えました。
─── 「オープン・フィールド・ミュージアム」が言語化され、最終的にはウェブサイトを刷新したと伺いました。どういったポイントで改善されたのか教えてください!
池井戸:当初は体験コンテンツが並べられたサイトという印象だったんです。誰が、何ができるサイトなのか分かりづらくて。そこでオープン・フィールド・ミュージアムという観光コンセプトに基づいた「観光・体験ポータルサイト」としてフルリニューアルしました。
観光コンセプトとその運営に関する考え方・取り組みがまとまっており、かつコンセプトに基づいた体験コンテンツが全てまとまっているサイトです。観光客の方も、修学旅行やワーケーションを検討されている方も、このサイトを見れば完結できるようにしました。
「言語化」の3つのポイントとは。根底にあるのは、人への尊敬と愛情
─── 言語化することでどんな効果があったと感じられていますか?
池井戸:共通言語ができたことで、釜石がどんなまちなのか関係者自身が自信をもって話しやすくなり、外からみてもわかりやすくなりました。一本の軸ができたことで、新しいことにチャレンジするときには、その軸からぶれていないかどうかで判断できますし、どうしてやるのか、背景や目的を説明するときの拠り所になります。
─── たしかに、一つ拠り所があると、意思決定がしやすくなりそうです。言葉を扱う仕事をしていく上で大切にしていることを教えてください!
池井戸:人を尊敬し、愛情をもってその魂を扱い、言葉で表現し広めていく、ということです。
私は、「言語化」を分解すると三つの領域に分かれると考えています。まず、「人としてどうあるべきか?」という哲学。次に、表現領域における考え方。最後に、「どう表現するか?」という具体的な手法です。言語化においては、哲学や表現の考え方が特に重要だと感じています。
そしてその中では、例えば以下の三つのポイントを特に大切にしています。一つ目は、ネガティブ(不安)をポジティブ(愛情)に変えていくこと。同じことを言うなら、「〇〇をしないで」よりも「〇〇をしよう」、あるいは「〇〇しかない」よりも「〇〇もある」と書きます。
脳科学的に、「脳は否定形を理解できない」といわれていることもありますが、これは「世の中をどう見て生きているか?」と同じだと思うんです。人生とは、喜びであり感動です。もっと大きくいえば、「愛情」という言葉でまとめられると考えています。その視点から物事を見れば、自然と言葉も、ポジティブで肯定的なものになると思うんです。だから、愛情を伝播させるように、ネガティブはポジティブに変えていく。今、心の奥底で愛情を求めている人はとても多いです。感情は連鎖するものなので、言葉をきっかけに前向きな連鎖を生み出したいと考えています。
二つ目は、自分の物語から「あなたの物語」に変えていくこと。ビジネスは、お客様の問題解決です。ビジネスに限らず、何かのプロジェクトや活動も、全てそうだと考えています。だから想いを伺うときも、この考え方に基づいています。例えば、もし「自分のために〇〇を始めました」と伺ったら、「それによって、誰の悩みを解決したかったのでしょうか?」と改めて伺います。そして最終的には、「あなた(文章を読む人)」が主人公になれるような物語に変換して書くことを大切にしています。先ほども言いましたが、感情は連鎖するものであり、感情に触れて揺れた心から共感(感動)が生まれると考えています。
三つ目は、定義付けをすること。上記二つとは少し領域が異なりますが、私は、この世界は全て言葉でできており、人間は「定義」で物事を捉えていると考えています。例えば、人が桜を見ることができるのは、「さくら」という名前がついているから。そして桜を「美しく散りゆくもの」と感じているとすれば、桜に「美しく散りゆく」という意味付けがされているからだと考えています。生まれ育った環境によって人の価値観は大きく異なりますし、言葉に抱くイメージも大きく変わります。言葉には、過去の文化や価値観が沁み込んでいるものだと思うのです。だからこそ、全員が同じものをイメージできるようにするには、言葉の定義付けをすることがとても大切だと考えています。
中高生に行なった授業の内容も、仕事として携わっている「言語化」も、根幹にある考え方は同じです。言葉が変われば、考え方も行動も変わります。言葉をつくることで、地域や企業の理想の未来を、一緒に実現していきたいです。
釜石は「物語の多いまち」。釜石の一員として活動する中で見えてきた魅力
─── では、池井戸さんの考える、釜石ならではの魅力を教えてください!
池井戸:「物語が多いまち」だと思っています。人の生き様、まちの成り立ち、自然など、いろいろな物語があって、人と繋がることで刺激をもらえる、私の第三の故郷です。
釜石の始まりは小さな漁村で、アイヌ人が住んでいたともいわれています。クジラも捕れるような、豊かな海がありました。江戸時代末期には近代製鉄(西洋風の鉄づくり。砂鉄ではなく、鉄鉱石から鉄を作る)に国内で初めて成功し、日本を支えるまちにまで発展しました。
一方で、自然災害も数多く体験してきた過去があります。2011年3月11日には、東日本大震災で甚大な被害を受けており、懸命に復興した人々の物語が数多く生まれました。釜石では、震災の記憶を未来にまで語り継いでいくべく、震災の出来事と学びを追体験できるプログラムを複数提供しています。ワーケーションや研修で体験することができ、参加されたある企業の方が、「日本人として非常に重要な学びを得ることができた」とおっしゃっていたのはとても印象的でした。経験を未来につないでいく上で、貴重な取り組みだと感じています。
*震災について学べるプログラム(メディアにも数多く取り上げられています!)
また、人という面でいえば、あったかくて前向きな方が多いまちだと思います。やりたいことを応援してくださる方も多く、地域活性化起業人としては本当に活動しやすいです。
「想いの言語化」を軸に地域や企業を支援したい
─── これまでも池井戸さんは日本各地に旅行などで訪れる機会も多かったと思います。ですが今回は、長く住んで地域に関わることで見えてきたこともあったのではないでしょうか?
池井戸:地域で活動させていただいているからこそ、たくさんの方の情熱に出会えたと感じています。同時に、悩みを伺う機会も徐々に増えてきました。せっかくいただいたご縁なので、そうした悩みを一緒に解決したいと思い、本来半年までだった任期を1年に延長をお願いしました。できればもう少し延長したいと考えています(笑)。
─── 地域に長く寄り添うことで、またたくさんの物語に出会えそうな予感がします。それでは今後、どのような活動をしていきたいと考えていますか?
池井戸:私は釜石が大好きなので、「想いの言語化」を軸に、釜石や地元企業様の成長発展を精一杯ご支援していきたいと考えています。ソウルドアウトの地方、中小・ベンチャー企業に特化したデジタルマーケティングの力で、一人でも多くの方へ、その魅力を広めていきたいです!
─── ぜひ、一緒にご支援していきましょう!
【話し手:池井戸 葵/インタビュー・執筆:みやたけ(@udon_miyatake)】