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フランス現代思想から解釈する『メイドインアビス』【Part1/5】


注※この記事を読む前に、私が書いた記事の「
芸術行為とは何か?【Part1/8】|旅思想日記|note」から、Part8まで読んで頂きたい。


「メイドインアビス」に見る芸術行為の本質

 これまで述べてきたように、バタイユは幼年性の視点から第二の死を生きるあり方、ブランショは「異世界」から文学空間の提唱、ドゥルーズは「リゾーム」などといった新しい概念から欲望の自由さの解釈など、三者三様のカフカ解釈を行ってきたが、それはどれも芸術行為の本質をつく革新的な思想だったと言えるだろう。
 このような彼らの思想と重なるような作品は恐らく世界に数多存在するであろうが、ここでは『メイドインアビス』というタイトルのアニメ作品を紹介したいと思う。

 今まで述べてきたカフカ的な芸術の本質的行為に繋がる『メイドインアビス』というアニメが2019年7月から9月にかけて放映された。
初回は何気なく興味本位で見ていたこのアニメであるが、フランス現代思想に触れた後に改めて見返してみるとこの作品の驚くべき考察が見えてきた。
というのも、この作品はアニメという一種の芸術作品を通して芸術の本質的行為を示唆しているメタ的な作品なのではないかという考察である。
このアニメの概略としては下記の引用の通りである。

「人類最後の秘境と呼ばれる、未だ底知れぬ巨大な縦穴「アビス」。その大穴の縁に作られた街には、アビスの探検を担う「探窟家」たちが暮らしていた。彼らは命がけの危険と引き換えに、日々の糧や超常の「遺物」、そして未知へのロマンを求め、今日も奈落に挑み続けている。」

Wikipedia


『メイドインアビス』の概要


 このアニメは全13話から構成される。主人公のリコが暮らす街、「オース」にはどこまで続くかすら未だ解明されていない、直径約1kmの巨大な縦穴「アビス」が大口を開いている。
その中には大変危険な魑魅魍魎やオースの技術ではまだ作れないような貴重な遺物が数多く存在している。
アビスには特殊な「力場」なるものも存在するが故に地上から観測することは不可能である。
そのようなアビスの謎は次々と人々を魅了し、より深くへと誘った。
そうして幾度も探検を繰り返す冒険家たちはいつしか「探窟家」と呼ばれるようになっていった。

 しかしこのアビスに挑むのはそう容易い事では無い。
潜ろうと思えば誰でも潜ることは出来るのだが、アビスの中から地上へと上昇する際に、通称「アビスの呪い」と呼ばれる上昇負荷が探窟家を襲うのである。

 アビスは深さ0m〜1350mの一層、1350m〜2600mの二層、2600m〜7000mの三層、7000m〜12000mの四層、12000m〜13000mの五層、13000m〜15500mの六層、15500m〜20000mの七層に区分けされており、その層ごとに気候や環境、生態系すらも大きく異なる。
このような過酷な環境故に20000m以深は現在もなお解明されていない。

 また、探窟家を襲う上昇負荷はその層ごとによって異なり、一層からの上昇負荷は軽いめまいと吐き気。二層は重い吐き気と頭痛。三層は幻覚や幻聴、四層は全身の激痛と出血。五層は五感の喪失とそれに伴う意識混濁。六層は人間性の喪失、あるいは死。七層は確実な死と、このように深ければ深いほどに地上へと上昇する際に体にかかる負荷は重くなっていくのである。

 探窟家になるにはオースの探窟家組合に所属しなければならず、首から下げる笛の色によって潜入できる深度の制限が異なる。
まだ潜ることが許されていない探窟家の卵である「鈴付き」、一層の450mまで潜入可能な「赤笛」、二層までの「蒼笛」、四層までの「月笛」、五層までの「黒笛」、深度制限のない「白笛」に分けられている。

 この物語はオースの孤児院で暮らす赤笛のリコと、アビスの中で失神していたところをリコに拾われた謎のロボットであるレグの二人を中心に展開される。
白笛である母のような偉大な探窟家になる事を目指しているリコ。
その日も彼女は一層にて探窟に精を出していたのだが、その最中に突如アビスの怪物に襲われ、命の危機に瀕する。
このリコの危機を強力な熱線で救ったのがレグであった。
レグは熱線を放った後に失神していたところをリコに回収される。
アビスで手に入れた遺物は全て孤児院に納めなければならないのだが、リコは孤児院の大人たちを欺いてレグと共に過ごすようになる。

 レグとの共同生活も数ヶ月が経った頃、リコの母親の白笛と封書が地上に上がってきた。
封書にはアビスの未だ確認されていない生物の情報と「奈落の底で待つ」とだけ記された紙が同封されており、更にレグに酷似したロボットのような絵も描かれていた。
ライザの封書を読んだリコは母に会いに行くために、レグは自分が何者なのかを知るために共に母親が待つであろうアビスの深層を目指し、旅を始めるといったストーリーだ。

 このアニメにはこれまで述べてきたバタイユらのカフカ解釈を通して見えてきた芸術の本質的行為と重なる部分が多々存在するのだ。


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フランス現代思想から解釈する『メイドインアビス』【Part2/5】|旅思想日記|note


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