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スジャータのアイス

「スジャータのアイス」とは、スジャータという名古屋の会社が、新幹線のみで販売しているアイスのことだ。

新幹線の巡回販売員に300円を払って渡されるソレは、標準的な紙カップに入っているのだが、それが石のようにカッチカチなのである。

だから、食べるまでに大抵5分間以上は待たねばならないし、その度に「いやいや硬すぎでしょ」って呆れながら突っ込んでしまう。


そんなスジャータのアイスには、思い出が詰まっている。

このアイスを初めて食べたのが、ゼミの合宿で四国を訪れた帰りの新幹線である。

都内に住んでいるため四国はやはり遠く、移動費と現地の美術館巡りで、ほとんどバイトをしていない自分のお金はほぼ底をついていた。

ゼミ合宿には同期の男が1人で、一緒に帰る友人がいないので、1人寂しく高知駅でうどんを食べて新幹線で帰ることにした。

新幹線を探しているホームで、私が尊敬していて大好きな先輩の姿を見つけた。先輩も1人で、どの新幹線に乗るか迷っていたようだから、一緒に帰ってくれることになった。それはそれは、とても嬉しかった。

新幹線では、私が「どんな作品を作りたいのかが分からない」といった漠然とした質問をしたのに対しても、真摯になって相談に乗ってくれたし、知らなかったアワードの存在も教えてくれた。

その時に、移動販売員の方がやってきて、先輩が「スジャータのアイスは食った方が良いよ」と言った。私は本当にお金がなかったから迷っていると、「奢ってやるよ」と言い、スジャータの抹茶味をくれたのだ。

そこで味わったスジャータアイスの美味しさは、優しさに包まれるような感覚の美味しさであった。

それから、ふとした時に、あの時のスジャータの味を思い出す。


次にスジャータアイスを食べたのは、大切なパートナーと京都への旅路に新幹線に乗った朝である。

この時は、新幹線に乗ってから、絶対にスジャータを買おうと考えていた。

なかなか移動販売員の人が回ってこない中で、お金がない中で先輩に買ってもらったスジャータを思い出す。

心の中に優しさが溢れて、ほっこりした心地になった。

そうこうしている内に、スジャータ販売員がやってきた。眼光を鋭くして、絶対に通り過ぎないようにタイミングを見計らう。

「すみませ」まで言った所で、後ろの席の方が販売員を呼び止める。少し焦りすぎたと、パートナーと笑って話す。

うっかりして逃さないように、またしっかりと機会を見計らう。そして、呼び止めた。

「アイスを2つで。」

「何味になさいますか?」

「バニラと、ストロベリーで」

「600円になります。」

先輩の優しさで知ったスジャータの味。これを私はパートナーにも味わって欲しいと思った。

だから、私がパートナーの分も支払わせてもらって、「はい、どうぞ。」と渡した。

そうして、かつての私のように嬉しそうに食べるパートナーを前に、今度は先輩の立場でスジャータの味を楽しむことができた。

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