栄養最小律という名の桶の誤解
リービッヒの最小律をご存知でしょうか。
作物の収量は最も養分が少ない元素で決まる、様々な分野でも応用されています。
実際にはこれを説明した下記の「ドベネックの桶」の絵が有名かと思われます。
しかし、この考えが常に成り立たない理由を、土壌学の観点で説明したいと思います。
収量逓減(しゅうりょうていげん)の法則との矛盾
収量逓減の法則を分かりやすく説明しているサイトがありました
収量逓減の法則とは、ある時点から『投入量と増収量が比例しなくなる現象』のことを指します。
一方で、リービッヒの最小律の本質は、『投入量と増収量は常に比例する』という説です。
収量逓減の法則は農家さんに限らず、皆さん心当たりがありませんか?
土壌で作物を育てていると、この法則は必ずみられます。
では、両者の矛盾を土壌ではどのように説明するのか。
それは「土壌中での養分の移動性」です。
土壌での移動:マスフローと拡散
各元素の土壌の移動度は、植物と同様に元素で異なることが知られています。
NPKの3元素に限って少し分けてみたいと思います(電荷は省略)
移動しやすい:NO3
移動しにくい:NH3、PO4、K
ではこの移動性の違いが何を生み出すか考えてみましょう
移動しやすい元素は、植物が水を根から吸収するのに従って一緒に移動します。
このことを『マスフロー(Mass flow)』といいます
一方、移動しにくい元素を植物が吸収すると、根の周り(根圏)と根圏外で元素濃度に差が生まれます。
この際、濃度差に従って濃度が高い根圏外から、濃度の低い根圏へと元素がゆっくり移動します。
このことを『拡散(Diffusion)』といいます
なぜこの現象が、リービッヒの最小律と収量逓減の法則の矛盾を解消するのでしょうか。
最小律と収量逓減の矛盾なき解釈
例としてリン酸を挙げます。
リン酸は極めて強く土壌にくっつく元素で、黒ぼく土が多い日本では昔から問題でした(黒ぼく土についてはまた後日)。
そのような土壌にくっついた元素はどのように植物へ吸収されるのか?
答えはシンプルです。
「元素のある位置まで根が伸びる」
拡散で吸収される元素は、根域(根はり)の拡大に伴って吸収されます。
一方で、マスフローで吸収される場合は、根域は関係ありません。
すなわち、リン酸は単純な濃度ではなく、根域が植物へのPの供給量を決めます。
「濃度は十分でも、根域が拡大しないと生育しない。」
よって、最小律ではなく、収量逓減の法則の現象がみられるのです。
ここまでは理論的な説明でした。
ある実験における植物吸収では、ある濃度までは拡散、それ以降はマスフローで吸収するという現象がみられます。
吸収量が増えるにつれて、濃度障害で減収することもあり、それが収量逓減の法則のようにみえるという場合もあります。
結びに
現在も多くの場面で、リービッヒの最小律というのは話題に出されます。
しかし、実際にみられる多くの現象は収量逓減の法則の場合が多いです。
収量逓減則が起こる理由の一つは、土壌中での元素の移動性です。
元素の移動性というのは植物の吸収メカニズムを決定づける重要な因子の1つです。
ここに絡んで、今後またお話していこうと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
皆様からのコメント等お待ちしています。
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