見出し画像

「つかめないもの」

6/28 11時、ひっそりとお店を開けた。空が明るくなり雨が止む。お客さんがたまに来ては帰っていく。お店の作品の背景であるかのように音楽を流す、一曲終わり、また、次の曲へ。緑茶を飲みながら、この文章を綴る。開け放たれたお店のドアからバイクのガソリンの匂いが入ってきて、消えていく。何を書けばいいかがすぐにわからなくなり、お茶を一口含み、また書き足す。

Joan Tollifsonの「つかめないもの」がとても興味深い。250ページ程あるが、どこを開いても同じことが書いてある!なんの努力もいらないこと。今あるようにあるしかないこと、すぐに苦しみを作り出してしまう思考について、上下左右前後からなんとかわかるようにとさまざまな例えを交えて綴ってある。どうしてこんなに何度も説明を繰り返すかと言えば、それは思考ではつかめないものだからこそ。ことばでは伝えられないことをなんとかことばで伝えようとしているから。

Charlotte Day WilsonやLianne La Havas、Ivy Soleの曲が流れている。彼女たちはそれぞれ、カナダ、イギリス、アメリカのミュージシャンで、今日、ひぐらしストアでランダムにプログラムが選んだ順番で彼女たちの曲が流れる。まったく新しいこの組み合わせ、このお店と販売している作品と今日の天気と音楽と水たまり。これをJoanはダンスと呼ぶ。ダンスを楽しむこと以外の目的がないダンスがこれだと。

お昼を過ぎて、空がさらに明るくなる。通りから入ってくる空気がたっぷり湿っていて温かい。かかとが出てしまう小さなサンダル、さまざまことに気づきつつ、このすべてをすべて伝えることがどんなに文章がうまくても無理であることを理解し、そのことについて少しも残念に思わないこと。出来ることと出来ないことの両方がJoanのいうダンスであることがなんとなくわかる。

Ivy Soleのポエトリーリーディングのよなラップが気持ちいい。この気持ち良さも、伝えることは難しい。この気持ち良さを伝えなくても同じように感じる人もいれば、いくら説明してもまったく興味を持たない人もいるだろう。この気持ち良さを得るために血眼になってやっとIvyを見つけたかといえば、そんなことはなく、たまたまこんなミュージシャンはいかがですかとプログラムが伝えてくれただけ。これを人の頭は気持ち良さを目的とした行動や検索が原因で、この気持ち良さが結果だと考える。これをJoanなら、逆にその気持ち良さを得ないことがあなたにはできましたか?と尋ねてくる!答えはもちろん「できない!」。あなた自身についての決定権も突き詰めればあなたにないよね、と教えてくれる。これが諦めではなく、開放だと。そこがスタート地点だと。

Joanの「つかめないもの」をいつも鞄に入れて持ち歩いている。読まなくても持っていたい本、本全体が静寂の塊のような本。私たちのあまりにも大きな根本的な勘違いについて彼女の背景から彼女を通して彼女のことばとなってあらわれることとなった一冊の本。これを自分が読むことになったことと、このブログの文章を読むことになったひとにこの気持ちが伝わればと思いつつも、伝わるひとにだけ伝わること、ありとあらゆる条件によって起こるこれは天気が常に移り変わっていくことと何も違わないことだと教えてくれるそんな本。そして最後にはこの本にしがみついている自分に気付き、何にもしがみつかないで歩けるようにと、足元を照らすロウソクの火を吹き消してくれるそんな本です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?