詩『散』
立ち枯れた木のいかずちのように走る枝がつないでいたもの
それはどんなにか豊かだったろうとわたしは想像する
生い茂る葉越しに見える澄んだ青や明るい鳥の声であったり
なにげなくすぎる季節や行き交う人々の言葉であったり
月を格子に捕らえた黒い虚像は凍てつきそうな湖上から
なにを誇示したいのか口早におなじ話ばかりする
そのたびに波立つ水は歪んだ視界と曖昧になり
現実をますます撹乱させるので思わずかぶりを振った
ひび割れた心に枝先がやけに引っ掛かりチクチク痛む
木が自分の心象であることに気づくのは容易だった
絡みつくように擦り抜けていた風たちも凪いでしまい
貧しい土壌から動けない身をひたすら呪うばかりである
否 わたしは
むしろ木ではなくこの世に間借りする一握の土のほうだ
必要な養分を持たないために木を枯らしてしまった
花も実もつけられぬまま立ち尽くしている亡骸を
セピア色に乾いた墓標を背負ったままでいる土だ
もはや幻想である
忘却ではなく理想的な過去に思い当ってもあまりに儚い
沸き返るように咲く花々や人々の賑わいもない
この先も生きることは虚しい自己主張にすぎないのか
判らない
確かなのは種から木を育て直す必要があるということ
取り返しがつかないだろうということ
それだけ