詩『通学路』
なにもなかったあのころ、と思い返すが、
今も昔もそう変わってはいないだろう。
あふれるような孤独にあえぎ、未来におびえ、
自分を持て余していたころはまだ、
現在も歩いている道の遠くに存在している。
ぼくの影は概念となり、時空の端を巻き込んでいる。
もう存在し得ない景色たちを織り込みながら、
たまになにかのきっかけで色濃く浮かびあがるのだが、
気づいてきたことがひとつある。
しあわせを感じたいのだということだ。
生まれてこのかた進み続けている道は、
塗装のない悪道なのでたまらず背なかを見たくなる。
そこには自分の歩いてきた跡があるから。
輝いてはいなかった。充実してもいなかった。
それでも昔の居場所というのは愛おしいものらしい。
これまで存在してきた自分の許に帰りたくなる。
ぼくだけが通れる道を行き来する。
忘れたり迷ったりしながらも、幾分慣れた足取りで。
ぼくはぼくを学ぶための通路をたどる。
ぼくという存在を、確かなものにしていくために。
索漠としているだけではなく。
かと言い胸踊るなにかがあるわけではなく、
泣くような美しい光景が待つわけでもない。
けれど馴染み深い道を何度も何度もかようのだ。
ただひとつの道を。
いつもの道を。
20210711
深夜の二時間作詩 第117回「通学路」