
作品の受け手が誰一人いなかったとしても、あなたはものを作るのか
ここ最近、自分が物書きとして作品を書くモチベーションってなんだろうと考えていて、参考にすべくTwittterでつながっている物書きの皆さんに向かって、こんな質問をしてみた。
ちょっと質問をさせてください。皆さんはインターネットが繋がらない衣食住が整った無人島に降り立ってただ1人生活するとして、それでも作品を書こうと思いますか?
— Soh (@soh_writing) February 1, 2021
つまり、作品を読まれる可能性が「完全にゼロ」のときに、それでも作品を書きたいと思いますか?
質問に対してわりと関心を持ってもらえたようで、当初回答を期待していた物書き勢だけじゃなくて、絵描きの皆さんにまで拡散してもらえて、想定を遥かに超え、24時間で20000票近くも投票してもらえた。
結果としては、上の通り、ほぼ7割の作り手が「無人島でも書く(作る)」というものだった。
この問いの当初の意図は「誰にも邪魔されない環境で作品が書けるものの、作品の受け手が誰もいないとき、それでも作品を書こうとするか」というものだった。
そのために設定した「無人島で1人で生活」という具体的な状況だったが、無人島でどう生き残るかとか、精神崩壊を防ぐためにはどうすればいいか、みたいなサバイバル方面の機知に富んだ方向で意見をくれる人も多く、適切な例示ではなかったかなと反省しきり。
とはいえ、皆さんの想像力(妄想力)の一端を垣間見れ、楽しかったのでまあ良きかなと思いました。
ともあれ、おそらく受け手がいなければ「書かない人」になるだろう自分にとって、70%近くの人が「書く」と回答したのは、個人的には意外な結果だと感じた。
もらったリプライや引用RTの意見を追っているうち、みんなの物を作る動機に大まかな傾向があるなと感じたので、不躾ではあると承知しながらも、以下のように分類してみることにした。
①自給タイプ
②信念タイプ
③影響タイプ
④妄想タイプ
⑤金銭タイプ
⑥交流タイプ
順番に説明します。
書く派
①自給タイプ
そもそもさ、人に読ませる前に書いてる俺が第一読者ですから
— ろん/桐野紡(とうのつむぐ) (@sinroon) February 1, 2021
もともと自分のために書いているので読んでくれる人がいなくてもOK、という自給自足なタイプ。自分=読者なので、無人島に行こうが、宇宙に行こうが、環境さえ整っていれば自分のために書く。
ちなみに「書くけどちょっと雑になるかも……」という人もちらほら。まあ自分がわかればOKですものね。
「未来の自分に向けて書く」という人もいて、これもまた面白い意見だなと思いました。確かに今の自分と未来の自分は他人のようなものかもしれない。
②信念タイプ
書きます。書くことの動機は、届けたい想いがあること、書くことそのものが約束であること、そして書くことで自分がまだ生きていると実感するからです。
— 千楓@『痛みのクオリア』ステキディプント電子書籍選出ありがとうございます (@Sen_Kaede) February 1, 2021
そして万が一、誰かがこの無人島に流れついたとき、心の慰めになるように。私が死んだあと、悲しい奇跡が起きない保証はないので。(知り得ない) https://t.co/riyEQWAKf0
「いやもしかしたらこの島に流れ着いた誰かが読むかもしれない」
「瓶に詰めて作品を流せば誰かが拾うかもしれない」
「百年後に発掘されて読まれるかもしれない……」
という風に、ごくごくわずかな読者の可能性に賭けて作品を書くタイプ。読まれる可能性がゼロ、という前提を覆して、読んでくれる他者を想定しているという点で、自給自足型の作り手とは明らかに異なる動機を持っている。作り手としては非常に強い意志を持っている人々だなと感じた。
書かない派
③影響タイプ
僕は「書かない」タイプですかね…作品や僕の活動は「誰かに影響を与える」ものだと思うので。
— 水谷一志 Kazushi MIZUTANI (@CreatorKm) February 2, 2021
人は人との関係性でできていると思います。(別にきれいごとではありません。みんなと仲良くしようとは全く思いません…)僕はいわゆる「モノ」にあまり興味がないんです。
ただ暇過ぎて書くかも。笑
「書くこと」=「誰かに読んでもらえる」というところを大きなモチベーションとするタイプ。自分はわりとこれだと思う。喜んでほしいんですよね。なので「読者がまったくいない」という思考実験の上では、書かない。
読者を想定するのが前提ということは作品を客観視する土台があるので、作り手としてメリットがある一方で、PVや人気の増減とか、ウケたウケないに対してモチベーションが上下するのがデメリットかもしれない。
④妄想タイプ
これ多分僕は書かないんですよね。
— ξ~(´・д・`)「リクト」@VRモノ投稿中 (@rikuto_syosetu) February 1, 2021
なんでかって言うと、物語を”考えた”段階で僕の場合はその物語を消費し終わっていて、執筆作業は自分が楽しんだ後の物語を読者にシェアするための作業、という感覚だから、なのですが。 https://t.co/U0QeWTWCq4
「頭の中で妄想を繰り広げるが、それを書くことはしない」というタイプ。もの作りの動機としては自給タイプに近いのだけれど、作品に落としこむ、という行為は他者に向いているという感じか。
作り手としてのバランス感覚がある人たちかもしれない。
⑤金銭タイプ
作品を通じて稼ぎたいので、商業として成立しないのであれば書かない、という潔いタイプ。創作者は嫌儲であるべき、みたいな思想に傾きがちですが、得意なことや向いていることをしてお金を稼ぐというのも、非常に立派なことだと思います。
中間派
⑥交流タイプ
ただ一つ気になるのは、この環境……他の人の作品は拝めるのかなぁ🤔
— ジオ (@GO42_meteor) February 1, 2021
自分の作品は書くのは絶対条件であるけれど、他の人の作品にも触れていないと僕は書けなくなりそうだなって。
「書こうと頑張るけど、他人の作品を見て刺激をもらえないのであればアイデアが枯渇して心折れそう」というタイプ。
作品を通じて誰かとコミュニケーションを取りたい、という点では影響タイプと一緒。だけれど、交流の相手が読者というよりは他の作品の作者である点や相互的である点が、消費と生産が入り混じった2021年っぽいし、非常にユニークだなと感じました。
結論:創作の燃料はいろいろあっていい
ざっくりいうと、内的欲求を満たしたい割合が高い人は書くし、外的欲求で物を書いている人は、他者がいなければ書かないという感じか。
創作におけるモチベーションの種類はいろいろあるけど、自分の意見としては、「正しい創作的態度」というのは存在しないので、どんな欲求が原動力になっていても良いのではと思う。
これは別に「みんな違ってみんないい」みたいな美辞麗句を唱えたいわけではない。「ものを作りたいなら、そのためのエネルギーを生み出すどんな種類の燃料でも燃やしまくって利用すべき」というのが自分の考えだからだ。
その燃料が美しく精錬されてSDGsを考慮したものであろうが、黒煙をもくもく吐き出すような、地球環境に悪そうなどす黒い感情であろうが、燃料は燃料である。エンジンが回ればエネルギーが生まれ、エネルギーが生まればものは完成する。
ただし、くべる燃料によって陥りがちな問題の傾向というのはあると思うので、長く創作ライフを謳歌しようとしたときに、自分の欲求については把握しているといいかもしれないな、とも思う。
そんなこんなで、私自身これからも色々なモチベーションを活用して、作品を作っていきたいな、と思うのでした。
アンケートに回答してくれた皆さん、意見をくれた皆さん、ありがとうございました。