たてや

知識多め、頭緩めなシナリオライター。名前のない感覚や感情や視点が表現された小説や批評や詩歌や映画やゲームや美術が好きです。https://twitter.com/soh_writing

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どんなに個人的な作品も、ちゃんと世界とつながっている

イギリスで見た日本のバンドのライブその昔、イギリスでとある日本人のバンドのライブを見たことがある。MONOというバンドで、まあMONOと聞くとおそらく100人中99人は消しゴムを思い浮かべると思うが、そっちではない。 MONOは、ポスト・ロックというニッチな音楽ジャンルで、長きにわたり地道に活動してきた4人組のバンドである。1999年結成なので、彼らのキャリアは今ではもう20年を超える。 会場となったサウンド・コントロールというライブハウスは、イギリスの中都市マンチェスタ

    • 感覚が息づく言葉について

      物書きの端くれである私は、どうにかして、読み手の心に響く言葉を選びたい、見つけたいといつも願っている。 信じられないほど膨大な情報が渦巻くこの世界から、言葉を用いて情景や感情を掬い上げようと不器用に文を吐き出す。しかしそれはたいていの場合、平板な文字のつらなりが作り出す、ぼんやりとした抽象的な事実でしかない。言葉とは本質的に記号であり、何も入っていない空箱に過ぎないからだ。 そんな言葉が、時に記号の世界を飛び超えて、読み手の心に光を射し込ませることがある。モノクロームの像

      • 7期ゲンロンSF創作講座(第4回)梗概感想

        聴講生の縦谷です。第4回のテーマは「最新技術をテーマにSFを書いてみる」ということで、リサーチとネタ出し両方必要というちょっと大変な課題だなと、外野から憐憫の情と共に応援しておりました。 というわけで提出された全作の感想を掲載させていただきます。今回から特に好きだった作品には★を付けさせていただきました。拡散支援のためにタイトルにリンクを貼ってみましたが、飛び先が間違っていたりしたら教えてください。それではどうぞ。 朱谷『酔宙夢譚』 「木から作られるお酒」というネタに、舞

        • 7期ゲンロンSF創作講座(第3回)梗概感想

          聴講生の縦谷です。受講生の皆さんが提出した第3回(お題:「2回以上ひねりなさい」の梗概の感想を掲載させていただきます。今回は初投稿ということで、張りきって全作品にコメントしてみました。 ご参考までに私の読み&書きの経歴は以下の通りです。 主にゲーム系のシナリオライターです SFはライトミドル層くらいです(人生で読んできたSF作品はおそらく500冊くらい) 大学で文芸批評をしてました 小説は純文学、一般文芸、ラノベ問わず浅く広く読みます。エンタメもそうじゃないのも好き

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        どんなに個人的な作品も、ちゃんと世界とつながっている

          物語に尊い関係性を求める僕たちは、失われた絆を探しているのかもしれない

          物語の中で、強い絆や信頼を描くことを求められる傾向が、年々強くなってきていると感じる。 キャラクターが自分の損得や理性や打算抜きに誰かを思い、行動するとき、我々はそこに「尊さ」を感じ、心を震わせる。 過去の作品にもこういう信頼関係みたいなものは描かれてきた。ジャンプ作品におけるいわゆる「努力・友情・勝利」の友情部分はまさにそれだろう。 それでも、今や物語の目的やキャラ単体の魅力よりも、キャラクター同士の関係性を描くことを最優先で求められている気がする。 我々は、何を差

          物語に尊い関係性を求める僕たちは、失われた絆を探しているのかもしれない

          「シンプルだけど奥が深い」について考える

          ゲーム企画の仕事をしていた身としていつも思うのは、ゲームの最大の弱点は「ルールを覚えるのがしんどい」ということである。 家庭用ゲームであれ、ソーシャルゲームであれ、ボードゲームであれ、ゲームを楽しむためにはルールを覚えなければならない。 ルールを覚える時間は、はっきり言って全然楽しくない。 一般的に、ゲームの開発者はゲームが好きで、ユーザーに長い時間を使ってゲームを楽しんでほしいと考えている人が多い。なのであれもこれもとゲームに色々な要素を詰め込みがちである。 結果と

          「シンプルだけど奥が深い」について考える

          作品の受け手が誰一人いなかったとしても、あなたはものを作るのか

          ここ最近、自分が物書きとして作品を書くモチベーションってなんだろうと考えていて、参考にすべくTwittterでつながっている物書きの皆さんに向かって、こんな質問をしてみた。 質問に対してわりと関心を持ってもらえたようで、当初回答を期待していた物書き勢だけじゃなくて、絵描きの皆さんにまで拡散してもらえて、想定を遥かに超え、24時間で20000票近くも投票してもらえた。 結果としては、上の通り、ほぼ7割の作り手が「無人島でも書く(作る)」というものだった。 この問いの当初の

          作品の受け手が誰一人いなかったとしても、あなたはものを作るのか

          共産党の検閲をかいくぐり音楽を聞いた中国人の友達の話

          音楽のインディレーベルをやっている中国人の友達がいる。彼女から以前聞いた話が、自分にとってなかなか衝撃的だったので、書き残しておこうと思う。 15年以上前、彼女が中学生だった頃の話だ。 当時の中国では、現在と同様、共産党政府が映画やゲームなどの各種コンテンツに監視の目を光らせていた。 もちろん音楽も監視の対象で、共産党の体制に悪影響があると判断された楽曲は、すでにリリースされているものであっても、問答無用で流通禁止になってしまう。 流通禁止になった楽曲の在庫は、すべて

          共産党の検閲をかいくぐり音楽を聞いた中国人の友達の話

          冷蔵庫でダイバーシティを学んだ日のこと

          人間いつどこで学びを得るものかよくわからないもので、私がダイバーシティ、いわゆる多様性を尊重する難しさを学んだのは、冷蔵庫を通じてであった。 その昔、イギリスで学生をしていた頃の話だ。私が住んでいた学生寮では、5つの部屋につき、大きなキッチンがひとつついていた。 私があてがわれたキッチンにも、他に4人の使用者がいた。中国人男子の李くん、韓国人女子のホンさん、インド人女子ヒーナ、そして同じくインド人男子のサイ(いずれも仮名)である。 私を含む全員が自炊派だった。というより

          冷蔵庫でダイバーシティを学んだ日のこと

          なぜ「好きなもの」と「得意なもの」がズレるのか

          シンギュラリティとかフィンテックとかダイバーシティとかキャラメルマキアートとかが喧伝される最先端のこの時代にあっても、一見古めかしいとさえ思われる「言霊の呪い」が日々生まれ続けている。もちろんそれは、どこぞの文明がもたらされていない未開地域の悪しき風習だとかそういう話じゃなくて、この日本という近代国家においてである。 とりわけ呪いが生まれやすいのは、自己啓発というジャンルである。自己啓発にハマるのは、内面が揺らいでいるからで、そういうときこそ、外部からの呪いの言葉を真に受け

          なぜ「好きなもの」と「得意なもの」がズレるのか

          極端な創作論は美しい。Twitter物書きたちの、にぎやかな日常について

          個人的に内と外を区切ってしまうくくり方はあまり好きではないのだけれど、自分がTwitter上で過ごしている界隈はおそらく客観的には「小説創作クラスタ」と名付けられる言論空間だ。 そこは日々、プロアマ問わないありとあらゆる物書きによって、ありとあらゆる小説の創作論が披露される、百家争鳴の世界である。 交わされる創作論の内容はといえば、文学とは何か、作品にテーマは必要か、魅力的なキャラクターとは何か、といった大きな枠組みのものから、小説で三点リーダーを置くときに2個セットじゃ

          極端な創作論は美しい。Twitter物書きたちの、にぎやかな日常について

          あなたの個性が資本主義的に「役立たず」だった時の処方せんは創作である

          以前Twitterで何気なく投稿した、こちらの話を掘り下げてみる。 みんなちがって、みんないい。 そんな金子みすゞ的な考え方のもと、自分自身の特性や個性は唯一無二であるとされる。個性を肯定して、大切にして、伸ばしていこうじゃないか。それこそがあなた自身なのだから――。 といった類の教育的建前を真正面から信じて、この手の優しい言葉をシャワーのように浴びてぬくぬくと育ってしまったのが、何を隠そうこの私である。 私だけでなく、ゆとり世代の先駆者である私と同世代の日本人、ある

          あなたの個性が資本主義的に「役立たず」だった時の処方せんは創作である

          異世界転生と「逃げるが勝ち」になりそうな僕たちの社会の話

          異世界転生ものは、現実社会の新しい生き方のヒントを提示していると思う。 異世界転生ものとは、近年アニメやライトノベル界でもてはやされまくっている一代ジャンルである。転生ものの流行自体はすでに10年以上が経過していると思うが、その人気はいまだに衰える気配もない。最近でも『盾の勇者の成り上がり』、『転生したらスライムだった件』などの作品が続々とアニメ化され続けているし、小説家になろうなどの創作系サイトでは、日々生まれ変わりから始まる小説コンテンツが恐ろしいペースで生産されている

          異世界転生と「逃げるが勝ち」になりそうな僕たちの社会の話