セールスフォーキャスティングの原理原則(1) 商談ベースで数字を読む
傾向分析型のフォーキャストの落とし穴
受注予想の算出方法として「パイプラインの量と過去の受注率を掛け合わせる」というやり方をされている企業をたまに見かけますが確かにそれでもある程度の精度でのフォーキャストはできるでしょう。
実際にある程度の過去のデータがあり、商談金額に大きな差異がなく、短いサイクルで受注できるようなSMB、トランザクション的なビジネスにはこのやり方は向いてます。あまりセールスの負荷をかけずにインプットされているパイプライン情報から機械的に受注予想を算出することができる、いわゆる傾向分析型フォーキャスティングです。
しかしこのやり方には以下のデメリットがあります。
商談金額に大きなばらつきがある場合、フォーキャストに与えるインパクトが大きく違ってきてしまいます。
例えば以下のように10万円と1000万円の商談がパイプラインのフェーズとして50%の受注確率のあるフェーズにあったとします。その場合、
というのがフォーキャストする金額になります。しかしどちらも取れるとも限らないので10万円の商談が取れなかった場合と1000万円の商談が取れなかった場合のインパクトは全く異なります。仮に1000万円商談がスリップもしくは失注した場合には5万円のフォーキャストになってしまい、505万円とは雲泥の差が出てきてしまいます。したがって1000万円の商談についてより慎重に見極めが必要なことはもちろん、フォーキャスの精度の担保はこれでは難しいですね。
またこの10万円と1000万円のケースで言えばどちらを優先すべきか、と言えば明らかに1000万円の案件に軸足をおいて活動すべきですね。正確な数字の予測をしていくことも大事ですが、限りのある時間を前提に活動の優先順位を決める、のもフォーキャストの重要な意義だと思います。いくらでも時間をかけられれば当然多くの案件が受注できますが、ビジネスの世界には「いつまでに」という期限、スピードが求められます。最短の時間で成果を最大化するためにはフォーカスすべき案件を常に決めておく必要があります。傾向分析型のフォーキャスティングでは表面的な数字しか見えてきません。パイプラインの中身が見えないと何に時間を費やすのか、見誤る可能性があります。
もう一つのデメリットですが、傾向分析型フォーキャスティングではフォーキャストの主体はエクセル or ツールであり「着地予想は誰かが決めてくれる」という責任意識が営業に主体性がなく、目標達成に向けた営業の意志の欠如を助長していまいます。
仮に傾向分析型で目標の100%を超える予想となった場合に予算達成の見込みあり、ということになるのでその時点で慢心が生まれます。逆に75%で目標未達、と分析結果が出ても自分が出した予想ではないのであまり危機感を感じないでしょう。つまり客観性は大事ですが所詮他者が弾き出した数字なのでその予想に責任を持つことはないスタンスが生じてしまいます。それでは正確な予想はもちろん、営業目標達成への意志は芽生えません。
営業目標達成のためにフォーキャスティングをやるので主体は営業自身であるべきです。一番大事な結果予想を他人に任してはいけません。あるべき姿としては「自分として現在の手持ちの案件の確度はこれくらい、だから着地はこれくらいなる、目標にギャップがあるがこれらの案件をチャレンジとして取り組む、、」と客観的な判断で確度分析をしつつ、意思を持って数字を宣言することです。
商談ベースのフォーキャスティングを定着化させよう
ここまでのところ傾向分析型のフォーキャスティングがよろしくないような印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、何も撤廃する必要ないと思いますし、むしろ以下のような形で運用することはありだと思います。
一方営業チームにおいては前述の理由から基本的にはやはり商談ベース(案件の積み上げ)のフォーキャストをしていくべきでしょう。具体的に言えば商談一つ一つの活動の状況から受注確度を判断し、確度順に数字を列挙。目標値と着地予想にギャップがある場合にはその案件を埋める案件を定義し、アクションすることです。
「うちはSMB中心のビジネスだからそんなフォーキャストはしなくていい」という人もたまにいますが、SMBにおいても案件の大中小は必ずあるわけで一定程度の商談は積み上げでフォーキャストすべきです。また事業の立ち上げ当初はSMB中心だとしても成長のためにはよりENT(エンタープライズ)、高単価にシフトしていく必要が生じ、フォーキャスト運用に限界が来ます。ビジネスの先を見据えてバックキャストして今から商談ベースのフォーキャストに慣れておかなければリニアな成長を描くことは難しいと思います。