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映画「どうすればよかったか?」を鑑賞して
統合失調症の症状が現れた姉と、それを認めず精神科の受診から姉を遠ざけた両親。それから18年後、実家に帰省した藤野知明監督が20年にわたって記録した家族の姿を映し出す。
ドキュメンタリー監督の藤野知明氏が、統合失調症の症状が現れた姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけ続けた両親の姿を20年以上に渡り自ら記録した映画「どうすればよかったか?」の感想を書きました。
※以下ネタバレを含みますのでご注意ください。
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感想①姉の状態
映画冒頭の姉の叫び声。その様子は本編でも波を繰り返しながら大きくなっていったのが映像でも音でも痛いほど伝わってきた。そのような姉の状態の変化。しかし、両親は一度だけ医者に連れて行ったが問題ないと言われたことで安堵したのか、それから25年間姉を病院に連れて行くことは無かったという。
25年経ち、母親の介護問題が重なったことがきっかけでようやく精神科に繋がった姉は、入院して3ヶ月で劇的な回復をした。映画では、とにかくこの変化が衝撃的だった。それまでは監督である弟の問いかけに答えず独話が続いていたのが、問いかけにピースをしたりカメラに茶目っ気たっぷりのポーズを決めて応じている。同じ人なのかと驚きを隠せなかった。
そしてそれは、25年という歳月の重さを痛感することでもあった。もし25年前に精神科にちゃんと繋がることができていたら…と思うと、ポーズを取る姉の様子に胸が痛んだ。
感想②両親の愛情?
姉が統合失調症であることを認め、精神科に繋がることを頑なに拒んだのは両親だった。両親は医師であり研究者であるらしく、弟が説得を試みるも全く応じない様子が、映画ではしっかりと刻まれている(外に出さないように玄関に南京錠をかけてあるシーンも)。なぜ両親は拒み続けたのか。母親は夫のためだと言い、父親は妻のためだと言う。その中で「娘は普通だ」、まるでそう信じようと思い込ませているようにして漏れてくる言葉が印象的だった。
映画の中で両親は否定していたが、精神科や精神疾患に対する偏見もあるように思えてならない。でなければ「娘は普通だ」とは言わないだろう。両親が(地位のある)医師であることも、そのことに拍車をかけているように感じる。
弟が両親それぞれに問いかけるシーンに、私はなぜか懐かしさを感じた。私自身も、親と言い争いをする時によくこんな温度感や雰囲気になったことがあり、それが映画の中で甦ってきた。それはもしかしたら、当時の私は言い争いをしながらも親の愛情を感じていたからかもしれない。このシーンもそうかもしれない。だが、だからと言って、愛情が姉のためになるのかというと、それは別の問題である。それゆえ、映画の中で弟が言っていた「第三者の介入」が重要だと言うことにも繋がる。
映画の中での両親の愛情は歪んでいたのだろうか。そもそも、愛とは何なのか。映画を観て、そのことを考える機になった。
感想③映画は淡々と進む
BGMもなければ、壮大な演出もない。弟である監督が記録した映像を繋ぎ、監督自身のナレーションで補足する。それゆえ、無機質な映画なように感じた。また、訴えたいこともできるだけ少なくしているようも思える。
その中で改めて印象に残るのが、弟であるこの監督の存在だ。医者である優秀な両親、医者を目指していた優秀な姉と比べられてきたようだ。また、弟は社会人になり家を出て、少し離れた距離から、姉と両親に関わろうとしてきた。その中で、姉を精神科に繋げようと両親の説得を試み、このような映像を記録として残してきた。この映像が、客観的な視点、言い換えると上述した「第三者の介入」の視点に近いものになるのかもしれない。
それゆえこの映画では、何が良い/悪いということを伝えたい、ということよりも、タイトルの通り、「どうすればよかったか?」という思いを伝えたかったのだろう。その問いは、観る者それぞれに異なるものを与えてゆく。それを共有することで視点がより広がるだろう。
最後に
映画を鑑賞した後、藤野監督に話を聞いたインタビュー記事を見付けた。この記事には映画を補完するキーワードがいくつもあったので以下シェアしておきたい。